61.アイデンてぇてぇ?
「おーいこれ弦司だろ?」
休日なのにあいにくの雨模様で土砂降りの昼下がり。
阿我妻家にお世話になり昼ごはんを食べていると、居間でTVを見ている真清がそんな事を言った。
あー……この前新進気鋭のユー〇ューバーを取材するとかでTV局が来てたな……
それかな……
まあ嫌だけど見てみるか……
「あー……そうだと思う……」
居間に行くと真風くんと真清がTVの前に座って真剣な目をしてTVを見ている。
「弦司マジで可愛いな……」
真清がそうしみじみと呟く。
真風くんは親指の爪を噛みながら『弦司が可愛すぎる……早く殺さないと……』
と不穏な事を口走っている。
「まだ俺を殺す気でいるのかよ! 真風最近ヤンデレ過ぎない?」
愛のゲージが振り切ってしまったのだろうか?
「おー可愛く撮れてんじゃん!」
そう言って現れたのはマネージャー兼阿我妻ママの真雪さんだ。
三者が三者とも『カワイイ』『カワイイ』と言っているのは複雑だ。
俺は性癖も普通だし(まあちょっと熟女好きなのは否めないが)中身はきちんと男でオタクなんだが。
自分が美少女って気が付いたのも最近だぞ、つーか男が美少女って意味分からなくない?
「俺は一応男ですからね? 外見を『可愛い』と褒められてもうれしくないです。
きちんと俺の中身を見てください!!」
真雪さんがゲンナリとした顔して俺を見た。
「面倒臭い彼氏みたいな事言う奴だな弦司は……
『俺の身体や金だけが目当てなのか!?』見たいな。レディースコミックかよ!
外見も含めてソイツで、弦司は規格外に可愛いんだからしょーがねーだろ!
このクソドーテー!! ママが膝枕した上でおっぱい吸わせるぞ!!」
ハンマーで殴られるような衝撃を受けた。
性癖を真雪さんに把握されているのも驚いたが。
――俺の評価は外見で底上げされていたのか……
「う、嘘だろ!? なあ真清?」
「弦司の外見がキモオタだったりする場合……?」
真清は顎に手を当てて考え込んでしまった。
「な、なあ真風くん?」
「ぼ、僕はちゃんと弦司の中身も好きですよ……?」
「じゃあなんで目を逸らして、しかも目が泳いでいるんだよ!!」
長い間考え込んでいた真清はその重い口をやっと開いた。
「ゴメン無理、殺すわ。その時はあたしも一緒に死んでやるからそれでいいだろ?」
「!? う、うわわああああああああぁぁぁ!!?」
俺は家から飛び出して土砂降りの雨の中を走った。
体を強く打つ雨が今はありがたかった。
この心の痛みを忘れるには、体を痛めつけるしかなかった。
「お、俺は男なんだ……一応……多分……」
俺が必死に絞り出した言葉は強い雨音にかき消された……




