56.美少女!
「おはようございます弦司……」
「お、おはよう」
キッチンに朝ごはんを食べに来たら真風くんが先にいて食卓の座席に座っていた。
普段のちょっとジトッとした眠たそうな眼を更に落ち込ませ、ジトジトと言う目をしていた。
何時もサラサラの髪は見る影もなく荒れ果てボサボサ、アイドルらしからぬ出で立ちに少々面を食らった。
「――僕は弦司を殺さなくてはいけない……」
「お、おおう!?」
真風くんは天才で、結論だけを話す『天才語』をたまに使う。
挨拶の様な物だがこれは今までの物で一番不穏な発言だな。
前兆はあったけど、最近機嫌が良かったから、鬱な真風くんは久しぶりだな。
「弦司の可愛さが全世界に知れ渡り、僕だけの弦司じゃなくなるなんて耐えれません!」
「いや俺は誰の物でもないけどね……」
「もう弦司を殺して、僕も死ぬしか……」
「いやいや『百合アイドルになれ』って言い出したの真風くんだろ!」
「ごめんなさい弦司……僕、責任を取ります……」
「と、とらなくて、いいです……」
俺は黙って、自分の頭の天辺を真風くんに向け差し出した。
「?? な、なんです弦司?」
「……ナ、ナデナデして、い、いいにゃん!」
「――そ、そんなの嫌いです!! ナデナデなんてしません!!」
言葉とは裏腹に狼狽の顔を見せる真風くん。
ぐッ……手強い……!? 俺がここまで自分を捨てているのに!!
も、もう一押しか……
「ふにゃ、にゅあ~んー→⤵」
猫手にして、上目づかいでちょっと首をかしげて見せた。
「ふぁ!? ふぁあああああああ!!?」
ナデナデナデナデナデナデナデナデ!!
頭の天辺を高速で往復する手が摩擦熱を発生させた。
「アツ!? 禿げる禿げてしまう!」
「キャーッ!! 弦司カワイイです! サイコー!!」
そう叫ぶと真風くんは抱き付いて来た。
そのまま二人で倒れ込み、ゴロゴロ転がってキッチンを飛び出し、廊下まで転がり出た。
「カワイイ! カワイイ! カワイイ! カワイイ!!」
「ヒエエッ!?」
ひとしきり廊下を転げまわって何度もナデナデスリスリされた挙句なんか硬い物を何度も押し付けられた。
「ハァハァ……可愛すぎる、もう一生離れたくない……」
「はいはい、満足いくまでどーぞ……」
「弦司大好きです! お嫁さんにして下さい!!」
その後もずーっとナデナデスリスリグリグリされた。
一〇分ほど真風くんに身を任せていると、足音がしてじりじりと近づいて来る人物がいる。
立ち止まり俺に強い視線を送ってきている人は、阿我妻家お母様の真雪さんだ。
「あ、あたしもナデナデスリスリして、い、いいかな?」
顔を真っ赤にしながらもじもじして言い出す真雪さんは妙に可愛い。
「ちょっと待って!? これ、いつまで続くの?」
「――満足するまでです……」
真風くんがそう答えた。




