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34.第一部完結編:バイト

「キッツ……」


 日差しがやや暖かくなって来た、初春。


 強く風が吹く中、俺は肉体労働、いわゆる土方のバイトをしていた。

 真清(まきよ)の父親から紹介された、真清父と同じ職場だ。

 

「バイトするなら肉体労働がいいだろ、そっちの方が格好良くてあたしが上がるから」


 と真清の独断と偏見とコネによって紹介された職場だ。

 まあ探す手間や期間の融通や面接の手間を省けたのは大きなメリットだが。


 今は丘の上にある、重機が入れない場所の整地をしている。

 スコップで掘ってネコ車で土を運ぶと言う力のみが支配する世界。


 チートもスキルも無い人力のみが効果を発揮する超重労働だ。


「だああああ!! マジキツイ! 死ぬッ!!」


 キツイのだ。


「頑張れ……あと少しで昼休みだ……」


 職場の先輩も必死だ。

 最近の現場は重機で行うので、ガチな肉体労働はめったに行わないらしい。


 滝の様な汗を流しふらついている。


「先輩こそ頑張ってください!」


 ――地獄の様な労働を終え。


 現場に設けられた屋根だけのタープの中で横になり。

 施工主が配ったコーヒーを飲みながら昼ごはんが届くのを待った。


「おーい! 弦司(おし)!! 待ったか?」


 真清の声が聞こえる。

 真清は毎日お弁当を届けに現場まで来ているのだ。


 『ドラマや映画みたいな事をやりたい』と言う結構乙女な理由で。

 普段見慣れた制服ではなく私服の真清も可愛い。


「超待った、食べたらすぐ寝るわ……」


「弦司、超頑張ったな、超恰好いいぞ! 超食べたら、超寝ていいからな!」


 真清は妙に浮かれて楽しそうだ。


「なあ――真清(まきよ)? パパの分は?」


 のそのそと近づいて来た真清の父親が話し掛けて来た。


 真清パパは、ヤンキー上がりで、如何にもチンピラ然している。

 職場では真面目な現場監督をしている。


 真清はマジな怒気を含んだ声で返答した。


「ぁあ!? このラブい空気を読めよ……コロスゾ……

 ママも来てるから、ママに貰ってくれ」

 

「…………」


 真清パパはフイッっと真清ママを探しに消えてしまった。


 こわー……しかし眠い……

 体は疲れ切って、切実に睡眠を求めていた。


 ――ヤバ……眠気が限界……


「ゴメン、ちょっと寝るわ……」


 ――――


 ――いつの間にか意識を失っていたようだ。


 目を覚ますと、頭に温もりを感じる。

 いつの間にか真清の膝枕で寝ていた。


「まだ時間あるからな、寝てていーぞ、時間が来たら起こすから」


 真清は特に気にしてない様子で自然にこちらの気遣いをしてくれる。


「――お言葉に、甘えさせて、貰う……か、な……」


 と意識を失いかけたが……


 冷や汗と共に嫌な事を思い出した――!?

 『真清パパママ、今、現場に居たよな!?』

 と言う事はこの“膝枕”を今この瞬間も見ている?


「真清、お前のパパは? 今どうしてる?」


「ああ、ちょっと離れた所に居てママとあたしたちを凝視してるよ。

 弦司の家族と弟も一緒に」


「俺の家族?」


 何を言っているんだ真清は?

 何で俺の仕事場に俺の家族がいるんだ?


 俺は上半身を跳ね起こして辺りを見回す。


 微妙に大人数の集団が見える、アレは真清の家族に俺の家族だ……

 ちょっと離れた所から俺の母親の声がする。


「弦司く~ん、来ちゃったぁ~~!!」


 ――来ちゃたかぁ~……


 『あ、真清父さん!? 今日はお花見に誘ってくれてありがとう。

 ついでに愚息もよろしく!』


 『近くに良い桜があるんで、仕事上がったら一杯やりましょう、ハハハ』


 断片的に親同士の挨拶の声が聞こえて来る……


 ぐわッ!? 挨拶とかしてるよ!

 子供のバイト先に来るとか反則だろ!?


 家族の暴走を止めるべく立ち上がろうとした瞬間。

 肩をがっしりと捕まれ、真清の膝へと引き戻された。 


 寝そべった格好になった俺の顔の真上におっぱいと真清の顔がある。


 圧倒的に顔がいい……いつも可愛いが今日は格別に顔がいい。

 真清の変に艶めかしい唇が動いた。


「外野なんか気にするな弦司、あたしだけを見てろ。

 あたしの為にここにいるんだろ?」


 ――真清の真剣な眼差しと真っ直ぐな言葉に、俺は何も言えなくなっていた。


 強い風が吹き、辺りに桜の花びらが舞い飛んだ。


 現実感の乏しい美しい光景に、深く澄んだ瞳をした真清

 桜の花びらが一枚、真清の金色の髪に付いた。

 

 無意識に花びらに手を伸ばし、真清の頭をそっと手を当てた。

 腕に力を込め真清の顔を引き寄せる。


「――キスなんかしたら……赤ちゃんができちゃうだろ」


 真清のか細い抵抗

 やがてどちらともなく顔を引き寄せキスを交わした。

 わざと大きな音を立てて貪るように求めあった。

 

「う、うわわッ!!?」


 真風(まかぜ)くんが叫び、両家族は騒然となり始めた。

 怒りの形相で走って来るダブルパパと真風くん。


 唇を離すと涎が繋がって糸を引いた。


「俺達殺されるかもな」


 外野を気にするでもなく真清はいつもの調子で言う。


「フフン、オタク君こう言うの好きでしょ?」


 幼馴染の真清はいたずらっぽく笑う。

 とても可愛い。好きだ、結婚したい。


「真清、好きだ、結婚しよう」


「――ハイ……」


 子供の頃と変わらない笑顔を見せる真清


 プリン頭は本当に可愛い――


 真清に身体を預け俺は再び眠りについた――




挿絵(By みてみん)

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