30.百合
朝の流れは速い。
濁流に飲み込まれた木の葉の様に抗う術を持たず。
ただ流されて滝壺に飲まれるその日まで。
忙しく生きていくしかないのだ。
真清は……忙しそうにしている、まあ触れるだけ野暮
毎朝ありがとうございます。
「おはようございます! 結婚してください」
「おはよう」
朝からプロポ―ズしてくる見た目は美少女、中身はブレーキの壊れたダンプカー
この生き辛そうな“少年”は真清の弟阿我妻 真風くんだ。
――本当顔はいいんだよな……
「弦司、あの話考えてくれました?」
「あの話って真風と“男の娘”百合アイドルとしてデビューする話?」
「ハイ! 弦司とだったら最強の百合カップルになれると思います!!」
「それって百合なの?」
本気を感じる純度の高い狂気だ。
曇り一つない、吸い込まれそうになる大きく澄んだ瞳。
人間の瞳って本当にキラキラ光るんだ、漫画の中だけと思っていた。
一度「ハイ」と言ってしまえば、最強百合の片割れに仕立て上げられてしまう。
真風くんならやるのだ、世の中の常識すら捻じ曲げるだろう。
「いや、学校とかあるし……」
「僕の全能力と全財産を使って弦司を幸せにします!」
だ、大魔王からは逃げられない!
「話がありますから、弦司、食事が終わったら歯を磨いて僕の部屋に来てください」
「はいはい」
~真風くんの部屋~
真風くんの部屋に入ると部屋の鍵を閉められた。
「百合アイドルの話だっけ?」
「弦司は本当何も考えていませんね……そう言う所好きです」
実の所『何が起きてもおかしくないな』とは思っている。
でもまあ命までは取られないだろう。
大事な物は色々失いそうな気もするが……
「弦司は“男の娘”の天才だと思っているんです。
その身に秘めた才能を開花させてください!」
「はあ……
凄い褒められている様だけど全然嬉しくない……」
「それが駄目なら、今この場で僕を抱いてください!」
「ハア?」
真風くんは天才で結論だけ話して過程が無い『天才語』をよく使う。
ピーキーで生き辛い人なのだ。
「僕の外見は今だけの物なんです、今の僕が最高でこれ以上は無いんです!」
「一理ある……」
確かに二次性徴とかで色々生えたり、声変わりしたりするしね。
「だから、僕の……すべてを奪ってください」
「いやいや小〇生相手だと淫行で捕まっちゃうし!」
それにア〇ルは色々下準備が必要じゃない?
朝の忙しい時間は困るなぁ……
「最高の僕を犯して、蹂躙して、貪って、味わい尽くて。期間限定の僕を楽しんで下さい!」
今世紀最高の笑顔を見せる真風くん。
眩しい、こんな衒いのない笑顔は初めて見た。
『僕の全能力を使って幸せにする』は伊達ではないのだ……
『最高の美少女である自分を提供できる』そんな喜びに打ち震えているかのようだった。
「じゃあ百合アイドルの方で」
「――えー……? ヤダー……」
あからさまにガッカリし落胆する真風くん。
真風くんはホルモンの関係でテンションの上がり下がりが激しいのだ。
「もういいです……僕もう寝ます……」
「ごめんな……」
「…………」
返事もしてくれない真風くん。
「学校から帰ったら、化粧と女装は付き合うから」
「――約束ですよ……」
ちょっとむくれて、年相応の幼さを見せる真風くんは本当に可愛い。
正直好きだ、大好きだ、結婚したい。
ここまで好意を向けてくれる相手を嫌いに何てなれる筈も無い。
性別は、問題だけど……俺は人間嫌いではないのだ。
オタク君はこう言うのが好きなのだ。




