17.たかぎさん。
「風邪は移せば直るって言うだろ?」
「そやね」
夕暮れ時の帰り道、通学路。
真清は少し切れ長の二重を俺に向けて、
笑みを浮かべて反応を伺うように会話を途切れさせた。
真清はじっと俺の顔を見ている。
「俺何か変な事言ったか……?」
真清の表情がみるみる不機嫌に変わっていく。
ふくれっ面した真清も可愛い。
好きだ。
「好きだろ?」
「え? そりゃ真清の事は好きだけど。それがどうかしたのか?」
「そー言うのじゃなくて!! もういい!!」
「何怒ってんだ?」
あーいつもの会話のネタか!? 自然過ぎて気が付かなかった。
あーうんうん、風邪の看病して貰ったり。
スキンシップ激しくしたり。
最終的にはキスしたりするお約束の!
……そのイベント、この前リアルでやったよね?
自然かつ日常過ぎて気が付かなかった。
オタクとして不明を恥じないとな、普通に考えれば尊いイベントの最たるものだろ。
環境が恵まれ過ぎた故の油断……
感度の鈍さはオタク道を極めんと目指す一員として深く恥じ入る。
期待に応えられなかった事をリカバリーできるアイディアが、俺の脳内で閃いた。
「マスク探しに行こうぜ!!」
「マジか!? マジ言っているのか? マジ見つかる訳ねー!」
「アイスおごってやるから」
「いやまー付き合うのは別に良いけどよ……一軒だけな?」
徒歩で十五分位の所にその店はあった。
今時壁が木を貼り付けたままの古い木造の店舗だ。
店舗の前にはス〇リートファイターの筐体が未だにおいてある。
真清と子供の頃から通っている駄菓子屋兼雑貨屋だ。
「おー懐かしい、まだあったのかここ!」
真清が驚きの声を上げる。
「ばーちゃん生きてるかー? パ〇コくれー、ついでにマスクも」
店に漂う淀んだ空気が動き、店の奥から気の強そうな小柄なおばあさんが面倒臭そうに出て来た。
「失礼なクソガキだね、マスクは高いよ 三〇〇万円に消費税だ」
ばーちゃんは歳の割には若くドスの利いた声でそう答えた。
「はい、じゃあ四四〇万円な」
「毎度あり、と言うか若いもんにマスクなんか要らないだろ、寄付しな。代わりに五〇〇円分のアイスと駄菓子持って行っていいから」
「あ、ハイ」
「フン! 商売上がったりだよ、まったく……」
そう言うと『後は勝手に持って行きな』と言って店の奥に引きこもってしまった。
真清が口を開けてポカーンとやりとりを見ていた。
「ばーちゃん生きてたのか、あたし達が子供の頃からばーちゃんだったような……」
「そやな、俺は遊〇王やるから、結構通っているんだよ」
「そういや、まだやってたな」
マスクは手に入らなかったが、真清はその事に特に触れる事はなかった。
二人でパ〇コを食べながら駄菓子を物色し、益体の無い事を話しながら家に帰った。




