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ギフト。飛んでいく君を地上に

作者: 紡里

僕の彼女は漫画を描いている。


締切明け、一日寝た後のデートだ。

僕と彼女の休日が重なる、貴重な日。


といっても、次のネタ探しを兼ねてる。

僕の言動もネタにされるけど……。



手を繋いで信号待ちをする。こんなことすら嬉しい。

修羅場中はご飯の差し入れを持って行き、一人でとぼとぼ帰る道だ。


「今、何考えてるの?」

開放感を味わっている、彼女の横顔に訊いてみた。

僕のことだったら嬉しいなと思いながら。


彼女はう~んと声を出して唸った。

彼女は漫画の効果音、オノマトペをよく口にする。

「ぽてぽて」と口ずさみながら散歩したり、「ちぇ」と残念そうにつぶやいたりする。

「ちぇ」って、実際に聞いたことある? 面白可愛くて、もだえてしまった。



「あのビルの後ろから巨人が現れたら、逃げるか戦うか」

ん? なんつった?


「それか、交差点にオープンカーが突っ込んできて、浚われるなら誰か。あっちの可愛い女の子かな」

まあ、ごついオッサンは狙わないだろ。


期待していた答えと違った。

クリスマス目前の、浮かれた雰囲気に乗せられただけさ、はははは。


「ん、なんか違った?

じゃあ、逆に訊くよ。信号待ちをしながら、何を考える?」

取材が始まった模様だ。


え、あれ? そういえば、いつもは何を考えてるっけ?

「……特に、何も?」

本当に思いつかないぞ。

手袋越しの手がもどかしくて、直接触りたいとは思ってるけど。

彼女のように空想で遊ぶなんて無理だ。


「美味しいお店とか。失言しちゃったなとか。歩きながら考えない?」

「その時に考える必要のないものは、考えない」

「信号早く変われとかは?」

「考えたって、早くならないだろう」


「そうだけどぉ」

彼女が目を丸くして、絶句している。


そうか、彼女はいつも色々と考えているんだな。


「念力で早く変えるとか。その一瞬が運命の分かれ道だったとか。あるでしょ?」

「作品だと、そういう登場人物には感知できない視点があるよね」

「そうなの。私が全てを決める神様だからね」

「ん? じゃあ、編集者さんは?」

「ぬおおおお。そうじゃった。

じゃあ、編集さんが神で、私は王様」

頭を抱えたり胸を張ったり、忙しい。


「読者アンケートは?」

彼女の顔に縦線が入った。

「……さ、最後の審判?」


信号が青に変わった。

繋いだ手を軽く引いて、歩き出すように促す。


ぽてぽてと歩き始める彼女。

「飛んでいく私を地上に縫い止めてくれる、神様みたい」

彼女がそんなことを言うから、僕は……今日は指輪を見に行こう。


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― 新着の感想 ―
 これほど短い中に、男女の違いが両者の溝にならないところも、彼らの想いも言葉も、尊いもの全てが詰め込まれていて、まるで、中に甘酸っぱい苺と甘いカスタードムースを秘めた小さなかまくら風クリスマスケーキを…
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