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第99話 変わり果てた黄金の街

 北欧の小都市――“ミュルク”。


 アースガルズ領内でも外れた場所にあるこのミュルクは、金の産出量の多さで知られている特例都市だ。それも黄金宮殿(グラズヘイム)の大部分をその金が占め、軍中枢(・・・)と深い付き合いがあったほどに――。しかし、先のアースガルズ敗北に乗じて独立を宣言。新たな国を名乗った。

 その後はアースガルズと反目し合いながら、互いに利用し合う形で暫定貿易を続けている。


 何故、元は傘下だったミュルクがアースガルズに再吸収されていないのか。

 それにアースガルズの庇護下でないのなら、こんな都市一つ、鉱山資源を狙った他国からも吸収されて然るべきだろう。

 だが近くの山から都市を見下ろす俺たちの前に、全ての理由も含めた景色が広がっていた。


「すごいね、これ……」

「ああ、鉱山都市としては、大陸でも指折りって話だからな。それにこの城壁と警備体制……よくここまで堅牢に仕上げたもんだな」


 開拓され尽くした山々。

 継ぎ足しに継ぎ足した分厚い城壁。


 これまで立ち寄った国に比べれば随分と小規模だが、防衛体制に関しては同等以上すら思える。一言で表すのなら、城壁都市というのが適当だろう。

 確かに圧巻の景色であることは違いないが、俺たちがここに立ち寄るのは完全に寄り道でしかない。その理由には、先の三国同盟が関係していた。


蜂起(ほうき)したミュルクの人々が、他国への貿易ラインを遮っている。しかも話し合いに来た使節団を壊滅させたばかりか、後続のアースガルズ軍まで退けています。城壁の分厚さに違わず、腕には自信ありということでしょうね」

「その上、貿易が滞って経済が鈍化。先の大戦に端を発した内々の問題も片付いてなくて、このままじゃ止めきれないのーってことだものね。こっちとしてもいい迷惑だけど……」

「逆にミュルクを平伏させて取り込めれば、その恩恵は計り知れない。ヨトゥンヘイムを含めた大国とぶつかる可能性を(かんが)みても、アースガルズを見捨てるのはナンセンス。致し方ありませんね」


 そう、全ては世界を包もうとする混沌の連鎖と、アレクサンドリアンが残した負の遺産が原因。

 薄氷の平和を崩壊させんとする者たちがここにもいるということだ。


「まあ、それを差し引いても、既に喧嘩は売られているわけだしな」

「ですが……そのおかげでここまでスムーズに来られたのは皮肉な話ですね」


 しかもここに来る最中、既に俺たちはミュルクかの攻撃を受け、それを退けていた。


 連中曰く――。


 自分たちはミュルク軍の兵士である。

 トリスディアから発ってここに向かう俺たちを、アースガルズ軍と勘違いして襲撃した。

 普段は山賊に(ふん)して、通行者を襲撃、金品を奪い取って国家に献上している。


 ――というのが、生け捕りにした敵兵から得た情報。


 資産が潤沢になった未来――連中がニヴルヘイムやアルフヘイムを含めた他国に侵攻の手を伸ばす恐れは十二分にある。何より、こんな非正規かつ外道なやり方を国家が認めている現状は、とても看過できるものじゃない。

 たとえ今は関係なくても、アレクサンドリアンの尻拭いなのだとしても――誰かが止めなければならないと確信した瞬間だった。だから、今俺たちがこうしているのも、成り行きだけじゃないということ。


「では、行きましょう」


 そして襲撃者から得た防衛体制の弱みを突き、夜闇に紛れてミュルク内に侵入した。


 ここから先は全て敵地。

 民衆一人とて信用できない。

 気を引き締め、城壁を超えた俺たちだったが――。


「――酷いな、これは……」


 北欧で独立した強硬国家。

 富に溢れる小都市。


 そんな華々しい想像図は、いとも容易く打ち破られることとなった。


「乾いた大地と二色に分かれた街並み。軍事政権が擁立(ようりつ)されたのは、想定済みでしたが……」

「この国のトップに立っているのは、王でも為政者(いせいしゃ)でもない。ただの独裁者ということね。反吐が出るわ」


 城壁の上から垣間見た都市中央部の煌びやかさとは裏腹に、目前の外周部は廃墟寸前まで荒れ果てている。いや、それどころか、各所に人骨と思しき物体まで転がっていた。

 同じ城壁に囲まれた街でありながら、ここまでの差が出ることは本来あり得ない。

 少なくとも、普通の政治(・・・・・)が行われているのなら――。

 国の統治者である二人が憤るのは無理もない。


「でも、そう決めつけるかどうかは、ここを何とかしてからにしないとって思うけど……」

「そうですね。我が国に刃を向けた貴方と同意見というのは、少々不本意ではありますが……」


 加えて、この劣悪な光景が真実であると証明するかのように、暗がりに紛れた浮浪者によって周りを取り囲まれていた。


「とりあえず騒ぎを起こされるのは(まず)いな」

「そうですね。一応は隠密行動ですから……」


 今の俺たちは、全員が地味な外套(がいとう)をフードまで着用して素性をカモフラージュしている。少なくとも、大国の王が二人に加えて、その専任騎士と近衛兵、元勇者がいるとは一目では誰も分からないはず。

 だとしても、まだ貪るところがある小綺麗な存在に見えているのだろう。つまりそれほどまでに民衆の感性が貧しく、逼迫(ひっぱく)した状況にあるという証明だった。


「放たれた魔法は可能な限り俺が無効化するが……」

「周りに悟られない様に極力手加減を……ということね。アムラスも徹底するように」

「……了解しました」


 痛ましい光景であるし、この戦闘は本意じゃない。

 でも、戦う以外に道はない。


「使う魔法は身体強化だけ、全員昏倒させます」

「うん……」


 そして、この戦闘に要した時間は僅か数十秒。

 第一線で将を張れる人間が複数揃って、()せ細った民間人に倒される道理などないということだ。

 だがそんな彼らから聞き出した、この街の現状は想像を絶するものだった。それもかつて俺が(・・・・・)見た(・・)この街の姿とは、あまりにかけ離れ過ぎている。

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