第92話 天召眼《アイテール・マター》
「ねぇ、おばさん。どんな気持ち?」
「幼気な少女二人に蹂躙されるのは……」
エゼルミア陛下は、ミアとミラの攻撃を巧みに躱している。普段の動き辛そうなドレスではなく、変装時の私服だったのが幸いしたというところか。
だが二対一な上、陛下の戦闘スタイルは典型的な魔法使い型。実質魔法が使えないという現状は、セラよりも遥かに重く圧し掛かっている。
「やれやれ、口だけは立派なおチビちゃんたちね」
「そっちこそ、立派なのは口先と……」
「その脂肪の塊だけね!」
ミアは二丁の砲身から魔力弾を撃ち放ち、ミラは先端に砲身と穂先を備えた槍――敢えて言うなら、“シューティングランス”――もしくは、“ブラストランス”とでも称せる武器を振り回して岩を砕く。
他の二人と同様、現代技術では成し得ない武装の数々には驚愕を禁じ得ないが、エゼルミア陛下も当然そう簡単にやられはしない。魔力弾を受けて飛び散った土の一部を掴み取れば、片手に収まる程度だった破片が武骨な槍となって顕現する。
「へ? 魔法が……!?」
「ちょっと、どうなってんのよ!」
「さあ? 答え合わせは自分たちの頭の中でしなさい」
今度は二人の少女が驚愕するが、同じ力を持つ俺には、はっきりと分かった。
あのバイザーの下――紫紺の翼持つ魔眼が関係しているのだと――。
「でも、そんなもんにッ!」
「子守は王様の仕事じゃないのよ。さっさと終わらせましょうか」
「へっ……? きゃっ!?」
土槍の投擲。
ミラはランスに備え付けられた盾で衝撃と噴煙を防ぐも、それは最悪手だ。いくら重量級の武装を備えているとはいえ、自分で視界を塞いで立ち止まることなど自殺行為に等しい。
やはり先の翔真とかいう奴を含め、魔法や武装の強さと本人の技量が全く釣り合っていない。イザベラはまだしも、他の面々は国のエース級とは思えない戦いっぷりだと断言できる。
実際、巻き上がる噴煙を目くらましにされ、泣き所である近距離へエゼルミア陛下の肉薄を許してしまっていた。
「まずは一人。子供のおもちゃにしては物騒過ぎるわね」
「なに……コレ……っ!?」
エゼルミア陛下がランスに手を触れると、紫紺の光が奔る。直後、流線形の形状をした重量ランスがメインフレームごと拉げて変形していく。
「へっ、いだっ……あ、いィ、っ!?」
穂先が何度も折れ曲がり、盾が内側から押し潰れて変質。咄嗟に手を引いたようだが、ミラの右手首から先はフレームの間に挟まれたようで、痛々しく色が変わっているのが遠巻きからでも見て取れる。
「ミラっ!? このババア!!」
「くそっ! くそっ!?」
駆け出して来たミアがミラに小銃の片割れを投げ渡し、二人揃って発砲。
だがエゼルミア陛下が靴底で地面を小突けば、半径二メートルほどの大地が壁となる。
「壊すのは、ちょっと勿体なかったかしらね。でも、過ぎた進化は身を滅ぼすものよ」
「はァ!? 何言ってんだよ、このクソババア!」
「会話一つできないなんて、随分と躾がなってないわね」
「う……くっ!?」
壁になっていた地面とミラの槍が、内側から過剰な力を加えられたように砕け散った。
その直後、破片の雨が二人の少女を襲いかかるが、当の二人は手に持った武器で破片を撃ち落とすわけでもなく、自分で動いて回避するのでもなく、またも立ち止まって耐えようとしてしまう。それは思考停止にも等しく、凡そ戦士の反応ではない。
無論、致命的な隙を見逃すはずもなく――。
「さて、悪い子にはお説教が必要ね」
「は……ぐっ!? あぎっ!?」
エゼルミア陛下は二人の胸倉を掴むと、そのまま地面に叩きつける。更に衝撃で掌から小銃が吹き飛び、無防備を晒してしまう。
「ふふっ、私も全開で戦えるわけじゃないし、適当に楽しませてもらおうかしら」
更にうつ伏せになった二人の顔を持ち上げると膝を折り、肉付きのいい太腿と脹脛の間で頚椎を挟み込んで固定。上から座り込む形で重心を下げていく。
しかも少女たちの手足は、いつの間にか地面の一部が枷の様に変化して固定されている。正に死の断頭台とでも、称するべき光景。
しかし、意識が落ちるギリギリのところで締め付けは止まっていた。
「ご……ぎゅっ!? ごん、……ぁ」
「デカ、尻……はぎぃ、っ!?」
「あら? 聞こえなかったわ。もう一回大きな声で言ってくれる?」
とはいえ、地表に磔状態にされた挙句、陛下によって気管を絞めつけられているのだから、抵抗らしい抵抗は何一つできない。
その先に待つのは、先に意識を失うか、首の骨を砕かれるかの二択。
陛下も身体強化魔法を発動させているだろうし、もう人力での脱出は不可能。二人の少女は完全に詰んでいた。
「ねぇ、私の言うこと聞こえない?」
「ひ、ぎぃ!?」
「お姉さん、うっかり上から座っちゃうかも」
「あぃ、っ!?」
「ご、ごべ、んな……ざい! おねえ、さ、まぁ……!!」
戦意など当の昔に折れている。少女たちは命がすり潰されていく恐怖を受け、枯れた声で泣き叫ぶ。
それから程なく、二人の少女は身体を痙攣させながら意識を手放した。
「どうしてこんな子たちが……」
命まで奪わなかったのは、エゼルミア陛下のせめてもの慈悲だったのか。
いや、本来戦場に出て来るべきではない人間が相手だったからなのかもしれない。
対象物に進化を促す――これが“天召眼”の力。
未だ全容は理解できていないが、力の片鱗を垣間見ただけでも恐るべき能力だと言わざるを得ない。
一方、雑兵を蹴り飛ばした俺の耳には、もう聞こえるはずのない声音が響き渡った。
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