第179話 道化の人生
「それはどういう意味だ?」
「言葉の通りです。九つの大国は、全て神話の時代に由来している。かつて神々が統治し、様々な闘いの舞台となり、今もその名残を受け継いでいます」
「我ら全て……いや、世界その物自体、神々とやらが残した置き土産だとでも言うつもりか?」
無言は肯定。
アンブローンが肩を竦める様子が全てを物語っている。
「ムスペルヘイムとニヴルヘイムが原初の国々であり、アースガルズは神々が人間界で過ごす拠点。ニザヴェッリルもまた、神話の時代より武器製造法を受け継ぎ、神々の武器を研ぎ澄まし続けていたのです」
「武器……あの槍や槌のことか?」
そんな中、脳裏を過るのは、オーディンやトールが携えていた得物。
直接肌で感じた荒々しさと猛々しさ。
「なるほど、神々の武器の封印を守り、彼らが目覚めた時に使える状態に保っていたわけですか。他の国々が神話の権能を自ら生み出せなくなっていく中、“武器”という形で残していたと……」
「無関係な人間ごと国を灼き払ったのは、その生産ラインを断ち切ることが目的だったわけね。納得できるかは別だけど……」
「疑わしきは罰せよと言うでしょう? 貴方たちがそうである様に、神話の聖遺物は現代で生み出せる物を超えている。彼らが持っていた“神の長槍”や“神の雷追”には及ばなくとも、神話の権能を持つ武器をストックされていては、勝ち目などありませんから」
“グングニル”と“ミョルニル”――俺たちの持つ聖剣や魔剣ですら、単体では到底太刀打ちできない物だった。
何よりニザヴェッリルが神々を信奉して仕える国だったとすれば、ある意味では武器庫を潰す先制攻撃だったともいえる。
まあ既に連中の手には主兵装が渡ってしまっており、一手遅かったというのは、そういう意味なんだろう。
「彼らは自分の世界に帰ると言いました。そして貴女の“人間界”という言葉……その意味をお聞かせ願いたいのですが?」
「言葉の通りです。神々は高次に存在する別世界――“天界”に身を置いている。理由は彼らの存在が人間界の容量を超え、均衡を乱してしまうから。現に真夏の吹雪は激しさを増すばかりでしょう?」
連中が大気に溶ける様に消えていったこと。
この異常気象の理由。
辻褄が合う話ではある。
それに長らく神々の眠りが妨げられなかったことや、戦っている最中のやり取りとも一致していた。
体力自慢も運動をしなければ、自然と痩せ細っていく。勉強も魔法も仕事も――世界も同じなんだろう。
かつての時代では連中が現れ、この世界で過ごしていくのは当然のことだった。
しかし連中が眠りに付いたことでそんな機会もなくなり、世界の容量も痩せ細っていた。要は久々に急激な運動や詰込み勉強をしたせいで、世界その物が悲鳴を上げてしまったということだ。
「そして、彼らに仕える神獣種もまた同様……」
「討伐隊を組んだとて別世界から現れるのでは、遭遇も出来ぬ話ということか。とことん愚弄されたものだ」
真実を追い求めていた俺たちは事実を受け入れる覚悟があったし、世界を放浪して藻掻いていた側面もある。だが表の世界で英雄や王と言われていた者たちにとっては、これ以上の侮辱はないはずだ。
貴方の運命は取るに足らない。誇りも価値観も歴史も全てが無意味だと、創造主直々に言われているも同じ。
英雄も悪党も、大義も信念も全ては虚構。あまりにも道化。
足並みが揃うかはともかく、全ての国家が神々へ敵意を向ける結果となった。
「さて、こちらからお渡しできる情報は以上です。これ以上の誠意は示せませんがねぇ」
「いや、仮に使える様にするとして、“ミストルティン”をどうするつもりだ? そもそも俺たちが闘った理由は、あの大量破壊兵器にあるはずだが?」
そんな中、再び緊張が周囲を包む。
しかし、結果的にではあるが、この後も俺たちと“神断の罪杯”、同盟外の国々が刃を交えることはなかった。それはつまり――。
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