第174話 混沌の根源
――“葬黎殿”。
浮遊大陸の更に上に聳える天空神殿。
その神殿を前にした泉の前では、俺たちとさっきまでの“神断の罪杯”が集っており、妙な緊迫感が漂っていた。
「頭、重い」
「――!」
何やら、フェリスの頭の上に座り込んでふんぞり返っているニーズヘッグを除けば――。
「さて、色々と聞かなければいけないわけだが……」
ようやく一息。誰もが傷の治療に取り掛かる中、両陣営で視線が交錯する。
先の戦闘と会話で色々と衝撃的な事実が明らかになったわけではあるが、未だ核心を得たわけではない。
これまでのことを思えば、はい、さようなら――で、地上に帰るわけにはいかないし、そもそも帰り方も分からないという問題もある。
まあ俺とエゼルミア陛下に関しては、帰してもらえるのかという懸念事項もあるわけだが――。
「――そうですね、一度情報交換をするのも悪くないかもしれません」
その最中、俺たちと連中の中間地点で魔力光が輝き、大柄な女性が映し出される。
魔法を用いた遠隔映像。
本体は別の場所にいるのだろうが、その姿は嘘偽りないものであるはず。
「な、貴女は……!?」
「ふふっ、お久しぶりですね。勇者様?」
瞬間、アイリスの表情が一変する。
驚愕、焦燥、憤り――彼女らしからぬ感情の発露ではあるが、女性が口にした“勇者”という言葉が、思わぬ来訪者の正体を白日の下に晒す。
「アンブローン・フェイっ!?」
「な……っ!?」
それは俺とセラ、事前に事情を知らせていたエゼルミア陛下たちまでもが警戒を露わにせざるを得ない人物。
アースガルズの元宰相であり、事実上の支配者だった女。
セラを苦しめ、アイリスと蘇らせたニーズヘッグを操り、世界の均衡を乱す戦争の引き金を引いた張本人。
「貴女が……っ!」
セラの目尻がつり上がる。
それはかつてのアルバートに対する色の無い瞳ではなく、明確な怒りが内包された眼差し。
だが、それも当然だろう。
先の大戦ではニヴルヘイム側も犠牲が出なかったわけじゃないし、それこそユリオンやアメリアが攻め込んできた俺にとっても最初の闘いでは、多くの民間人がその手にかけられた。自分が苦しんだということよりも、犠牲者を産んだことへの憤りが怒りの炎となって視線に宿っているのは想像に難くない。
そしてアースガルズの侵攻によって生じた不和が聖冥教団の台頭を許した。
更にはミュルク独立、ミズガルズやヨトゥンヘイムを始めとした国々の強硬体勢を推進する結果となり、あまりに多くの人々が犠牲になった
つまり神々や神獣種に関してはともかく、俺たちが相対してきた一連の混乱と争いは、全てこの女が元凶だということ。この女と無関係な人間など、この場に一人もいない。
「そう睨まないでください。視線だけで射殺されてしまいそうです」
「戯言を……」
「まあ、せっかく話し合いに応じようというのに……」
飄々とした態度が妙に俺たちを苛立たせる。
とはいえ、今回ばかりは、誰が何をするか分からない程度に皆憤っているのは事実。殴っても解決しないのだから、本体が目の前に現れなかったことをプラスに捉えて、憤りの感情を腹の底へ飲み込んだ。
「……お前たちが神々と敵対しているのは、嫌という程理解した。アレがオーディンたちですら見逃せない超兵器であることも……。だが、他国間で戦争を起こし、戦地に介入して悪戯に戦禍を広げる……その理由はなんだ?」
「それは時の流れ。我々も人間であるが故、下界で過ごしていたから巻き込まれた……」
「闘いと混沌……その中で、“資質”とやらを持つ者を見出す為……か?」
それっぽいことを言って逃れようとした、アンブローンの表情が初めて硬直する。
どこか腹の底が知れない物から人間らしい表情へと――。
「“ミストルティン”と呼ばれている兵器は、“呪眼兵器”の一種。性能を引き出す為の起動トリガーは、“禁忌魔眼・解放”へと至った魔眼。それを担う資質を持つ者が“解放者”……。お前たちとの戦いで抱いた推論だが……」
「ほぉ……戦士として以外にも見所があるようですね。道理であの皇帝では手も足も出ないわけです。先の大戦で一杯食わされたのも納得というもの……」
「御託はいい」
「あら、皆さん手厳しいですねぇ。ですが、概ねその通りです。魔眼を持つ方々は素性を隠してしまいますから、こうやって炙り出さなければ中々遭遇出来ないので」
「そんな勝手な理屈で……ッ!」
一体どれだけの犠牲者を出したのか。
アイリスはそう続けようとしたんだろう。
魔眼狩りと称して人々を揺動し、“禁忌魔眼・解放”へと至れなかった者たちすらも利用したことを含めて。
「魔眼の力は術者の感情によって増幅される。恐怖、憤り、慟哭、怒り……手っ取り早く抱く感情の発露。神々も知らない力を目覚めさせる為に人々の負の感情を煽り、世界を混沌へと突き落とした。こんな所から人々を見下ろして、神にでもなったつもりか?」
連中が俺たちの知らぬ領域を見据えていた事実は特筆すべきことではあるが、だからしょうがない――と、首を縦に振って全て受け入れるほど物分かりが良くもないし、連中のしたことが許されて良いわけもない。
剣呑な空気が周囲に充満する。
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