第172話 我、創造の神に在りて
「地震なの?」
「――!?」
先の激突は大陸全てを揺るがしかねない威力ではあったが、余波など当に消え去っている。だがその一方、“神断の罪杯”にとっても想定外である地鳴りが断続的に起こり続けていた。何より、神殿付近の大地が抉れ、巨大なクレーターを形成しており――。
「この戯け共が! 浮遊している大陸で地震など起こるはずがなかろう!」
「それより、あの光は一体……?」
しかもゼインの言う通り、地面全体が揺れているというより、外部から衝撃を受けているかのような気持ち悪さ。
つい先日、ニヴルヘイムでも味わったことのあるこの感じは――。
「敵襲……!?」
「ここにいる以外に、この地を知っている者がいるのですか!?」
「いないことを祈るばかりね!」
上か、下か――。
それとも直接乗り込んで来たのか。
誰もが周囲の状況把握へと動き出す辺りは、ある種の精鋭揃い。誰も彼も流石というべきか。
それは思わぬ形で戦闘を中断して睨み合っていた俺とゼインも同様であり、警戒を最大まで引き上げながら皆の後を追う。
「これは雪……というより、吹雪……?」
「ムスペルヘイムは南国の国だったはずだが……」
そんな中、唐突に訪れた猛烈な寒波。
白い氷の結晶が世界を彩っており、天空に聳えるこの大陸は地表よりも大きな影響を受けていた。
その上、俺たちを驚愕の渦に呑み込んだのは、本来ありえない気候の変化だけじゃない。
宙に浮かぶ巨大な影。
隻眼の人型を縁取り、これまで遭遇した神獣種すら比肩にならない猛烈な存在感を放っていた。
「……ほぅ、これが今代を生きる者たちか?」
それは長い髭をたくわえ、つばの広い帽子を被った巨人。
俺たちを見下ろしながら、枯れた声で言葉を紡ぐ。
「今代……その口ぶり、まさか!?」
「全能の最高神――“オーディン”。神々を束ねる者であり、“終焉血戦”で勇名を轟かせながらも命を落としたはずの一柱。最初に姿を見せるのが、大本命なんて……」
フェリスの言葉に誰もが険しい表情を浮かべる。
その言葉が是か非か――なんてことは些末な問題。大陸有数の使い手がこれだけ揃っていながら、誰もが武器に手をかけたまま動けないという現状が全てを物語っていた。
「儂の名を知っておるか。人間が支配する世界などと思ってはいたが、満更堕落しきった者ばかりではないらしい」
ふぉっふぉっ、と髭を梳きながら気を良さそうに笑う様子は、好々爺にしか見えないが、実際はそんな生易しいものじゃない。
ただ、誰もが圧倒されていた。
「しかし、その大部分は腐り切っておる。一度何とかせにゃならんのぉ……」
「何を……」
「では、死ね」
次の瞬間、奴が杖替わりに携えていた木の棒が突然長槍へと姿を変え、その穂先から閃光が放たれる。
「“我、創造の神に在りて”――」
その閃光は、まるで欠伸をするかのように、肩に付いた埃を払い落とすかのように散漫な動作から繰り出されたにもかかわらず、浮遊大陸全土を吹き飛ばしかねない破壊力を秘めている。
全ての空が白い極光に包まれた。
「くそっ!?」
“混沌祓う聖魔の双戟”――出力最大で魔眼を開放。迫る閃光に向けて、両剣を交差させて対峙する。
「この戯けがッ!」
“天上統べる帝王の裂断”――ゼインも同様に魔眼の出力を引き上げ、巨剣を上段から振り下ろす。
「――ッ!?」
交錯。
二人掛かりではあるが、大陸を灼かれぬようにと閃光を抑え込んでいく。
「貴様、何の真似だ!?」
「別にお前たちを助けたわけじゃない。神だろうが、天上人だろうが、上から押さえつけられて勝手にレールを敷かれるのが嫌だっただけだ!」
だが逆を言えば、“禁忌魔眼・解放”を発動した俺たちですら、二人掛かりで抑え込むのがやっとという事でもあるわけだが――。
「“断罪の聖光”――!」
「“追憶哭く深淵”――」
その間、蒼銀の十字斬撃と翡翠の三日月が飛翔。
セラとフェリスの援護であり、後者は既に“禁忌魔眼・解放”状態へと突入している。
「これ以上引っ掻き回されるのは勘弁願いたいわね!」
「あら、同感!」
「というか、大陸が墜ちたら、私たちも一巻の終わりなんだけど!?」
更に紅桔梗の砲撃、桜色の散弾、黄金の斬撃が続けざまに放たれ、オーディンを強襲。
猛烈な勢いで爆炎の華が咲き誇る。
「これ以上……!」
「俺の道を阻むな!」
直後、俺とゼインは剣をかち上げ、津波のような閃光を上方へと弾き飛ばした。
激突の余波は凄まじく、後方ではアムラスや他の“神断の罪杯”構成員が共同で張った強靭な魔力障壁が余波だけで罅割れているほどだ。
あれだけの攻撃を浴びたのだから、普通であれば一溜まりもないはずだが――。
「ふぉっふぉっ! その勢いや良しというところかのォ」
最高神の名を冠する怪物は、相も変わらず好々爺然とした顔で笑っている。
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