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第167話 絶望の瞳

「ニザヴェッリルを破壊って……」


 未だに一人うっとりしている馬鹿がいる反面、こちらサイドが緊張に包まれる。


「神獣種と正面切って戦うなら、それぐらいの威力があって当然。それに無機質な破壊跡の正体……」


 同時にかつて抱いた荒唐無稽(こうとうむけい)な想像が的中し、誰もが外界から辿り着きにくい場所に大量破壊兵器が存在していることの脅威を理解した瞬間でもあった。


「見た感じ、まだ完全な状態じゃない。ニザヴェッリルを撃ったのも、射角や射程に制限がある中での実験射撃。もしくは、何らかの情報を握っていたが故の口封じか、世間を揺動させる為の……」

「さあ、どうかしらね」


 フレイヤは肯定も否定もしない。

 どれかに正解があるのか、それとも全てに引っかかっているのか。

 ともかく、見当違いということはないはず。実際、連中に隠す気がある様には見受けられない。


「何にせよ、此処にこんな物を残しておくわけにはいきません」

「そうね。もし万全になったとすれば、超長距離から国土の大部分を消失させられるだけの攻撃を全世界に向けて放てるということ。今後、世界は“ミストルティン”とやらに怯え、支配されることになる」

「そんな俗っぽい使い方をすると思っているの?」

「何があったかは知らないけど、既にニザヴェッリルは消し飛んでいる。必要があれば、躊躇(ちゅうちょ)なく引き金を引くのでしょう?」

「さあ?」


 また肯定も否定もしない。

 だがこれに関しては、誰もが肯定だと理解していた。エゼルミア陛下の言う通り、既に引き金は引かれているのだから。


 アレの発動条件は定かじゃないが、一発で国を滅亡に追い込める兵器など、どの国も(のど)から手が出るほど欲しがるのは当然。

 何故なら大量破壊兵器を保有するということは、あまりに強大な抑止力を得られるからだ。


 言ってしまえば、大量破壊兵器を保有しているのと、他に対して強烈すぎる主導権(イニシアチブ)を握れることはイコールの関係。誰も彼も力を持つ者の要求を受け入れるしかなくなる。

 更に分かりやすく表すのなら、“俺の方が強いから、何でも言う事を聞け”――という、子供のような暴論が、国家単位で(まか)り通る世界になってしまうということ。

 覇道と言えば聞こえはいいが、そんな世界は地獄でしかない。


「兵器が争いを生むのでしょうか? それとも人間(ヒト)の浅ましさが……」

「アレは存在してはいけない。これ以上、地上を()かせるわけにも……!」


 故に、もし“ミストルティン”が自在に扱えるようになったとすれば、次に待っているのは、その奪い合い。

 大きすぎる力は新たな戦争の火種になる。

 現状、国家間の小競り合いと神獣種の恐怖ですら、世界は混沌の極みにある。そこに大量破壊兵器が絡んで来るともなれば、果てに待つのは最低最悪の大量殺戮(ジェノサイド)

 世界の終焉(おわり)


「……闘いには、戦争には痛みがある。でも大量破壊兵器を撃つだけの戦争には何も残らない。痛みすらも消し飛ばしてしまうそれは、もう戦争ですらない。ただの遊戯(ゲーム)だ」

「まあ普通の人間に渡せば、そういう使い方をしちゃうんでしょうね。でも、“ミストルティン”が一つしかない以上、それはそれで争いはなくなる。平和になるともいえるんじゃないかしら?」

「争いが出来ない世界と、争いがない世界は別物だ」

「傷つく人間は格段に減るわ」

「生きることは戦うこと。自分の望みを叶えようとする時、戦う権利は誰しもが持っているはず。雛のように口を開けて待つばかりで考えることを止めたのなら、それはもう人間である意味がない」

「人間の可能性を勝手に決めるなんて、意外と傲慢なのね。少しは平和な未来で発展できるとか信じないのかしら?」

「人間は愚かで弱い。最後の一人になるまで争って滅びるだけだ。この魔眼()は、ずっとそんな光景を映し続けて来た」


 そう、人間は愚かで弱い。何よりも醜い生き物。

 自分が幸せになる為に正論を吐き、誰を犠牲にするのも(いと)わない。

 ようやく現実に戻ったのか、(いぶか)し気な表情を浮かべているアメリアなど、誰よりも人間らしい典型(てんけい)だろう。

 そして自らを律して未来を紡いで行ける人間は極僅か。一方、それだけの力を持つ者は、乱世において真っ先に死んでいく。英雄とはそういうものだ。


 であれば、果たして大量破壊兵器という禁断の果実を得た後、人間たちは真っ当な未来を紡げるのだろうか。

 安定した統治と平和が続いていたニヴルヘイムですらアルバートの言葉に踊らされ、アースガルズが引き金を引いた途端、我先にと世界中の人間が刃を手に走り出したというのに――。


「世界を守る英雄にでもなるつもり?」

「そんなものはどうでもいい。俺は自分が決めた道を歩いていくだけだ」


 今更人間に希望なんて抱けるはずがない。

 それでも守るべき人たちは此処にいる。世界を守るのは、彼女たちが生きる場所を守る“ついで”でしかない。


「お前たちは、その力で何をする? 魔眼に何を見出しているんだ?」

「言ったでしょう? 私たちは神を殺すの。それは貴方にも力を貸してもらわないといけないのだけど?」


 アメリアを除く全員の手に武器が収まった。


「そんな勝手な理屈が……」

「出来れば手荒いことはしたくないんだけど」


 直後、桜色の光が視界を埋め尽くす。

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