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第164話 脆い宮殿

 ムスペルヘイムの宮殿――“グリトニル”。


 この国の王族が住まう場所。

 思わぬ形で得た情報を基に精査した結果、この場所へと辿り着いた。


 今ここに至るまで世界に渦巻いている混沌。

 一見正常を装いながら覆い隠されている異質。


 これまで得て来た真実の断片と同種の違和感が、この国全体を渦巻いている。

 一歩間違えば、戦争まっしぐらかもしれないが、今は進むのみ。


 まあ例の如く潜入活動なのは言うまでもなく、認識阻害魔法を全開にした俺たちは宮殿の中へと忍び込み、見知らぬ宮殿を闊歩(かっぽ)する。

 そんな俺たちを迎え入れた宮殿は、収斂進化(しゅうれんしんか)とでもいうのか、外側から見ていてもやはりというべきか、見慣れたニヴルヘイムの物と似通った造りになっており、奇しくも本来とは別の興味で皆の視線が吸い寄せられていた。

 無論、敵地であるにせよ、そうでないにせよ、何かあれば一発アウト。注意深く、着実に足を進めていく。


 そうして足を進める内、正面入口周辺から既に半周以上が経過した。

 軍部・文官それぞれの会議室を始めとした大量の部屋を経由し、残す主要施設は王の間と資料室。虱潰(しらみつぶ)しに歩き続けている中、目的地が最後まで残るというのは、なんとも言えない部分ではあるが、逆に言えば目的地が完全に定まったということでもある。

 とはいえ、流石に王の間付近は警備が厳しく、一端資料室へと逃げ込んでの作戦会議と相成っていた。


「……ここまであっさり侵入できるとはな」

「ええ、あまりにも静寂。魔力の防壁なども全く(・・)ありませんでしたし……」

「一見すれば、開放的(オープン)。悪く言うのなら、ここからが本番ってところかしらね。まあ隠す気が無いとも取れるけど」

「木を隠すなら森の中と言いますから、隠し立てしない方が怪しまれないのでしょう。少なくとも、私たち以外からは……」


 ここまで何の障害や妨害もなく、国の中枢に侵入できていた。それ自体は歓迎すべきことだが、他国の防衛体制から考えればあまりにも容易過ぎる。


 これまでの闘いやモンスターの異常分布。

 その全てを総称すればこそ、一見何も異常がなくとも、何かがあると断言できる。

 故に現状――。


「鬼が出るか蛇が出るか……後は我慢比べってとこか」


 今の俺たちはムスペルヘイム軍と偽って侵入しており、一般兵士が侵入できるのはここまで。後は皆が寝静まって警備が手薄になったところで行動するのみであり、俺たちもそれを見越した時間で行動を始めたのは言うまでもない。

 それに何といっても、流石は宮殿の資料室。案の定というべきか、図書館で見たかったはずの資料の山が目の前に広がっており、退屈はしない環境は揃っている。それぞれが手近な資料に目を通し始めたのだが――。


「――はぁ、はぁ……! ゼぇッ! や、やっと……追いついたわよ! ヴァンッ! 貴方のアメリアちゃんがねェ!!」


 資料室の扉を開け放って現れたのは、絶対にこんな場所にいるはずのない女。

 しかも、鼻息荒く大声を上げてくれやがった所為で、この数日間の情報収集が無に帰してしまうこととなる。

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