第163話 お手柄の竜皇
視界を埋め尽くす本の山。
都市一番の図書館にやって来たということで既視感を覚える光景ではあるが、今回は自称文学少女のガイドはない。目的の情報を引っ張り出すのが重労働になるのは、一目瞭然。
実際、エゼルミア陛下は既に辟易しているのか、早々に最新の情報誌へと手を伸ばしていた。
「うへぇ……っ」
「そういえば、脳筋気味の田舎娘だったな」
「いつもなら怒るところだけど、今回は否定する気も起きないなぁ」
中でもアイリスは元々、民間人上がりの勇者。
英才教育を受けてきた上流階級ではない上に、本人の気質からか座学関係は割と苦手としている。一冊、二冊好みの本を読むならのともかく、この膨大な本の山に埋もれるのが地獄でしかないのは想像に難くない――というか、顔に面倒くさいと書いてあるような表情を浮かべている。
「口よりも手を動かしてください。民間施設でこれだけ情報が公開されているのですから、調べない手はありませんよ」
「ええ、情報統制を潜り抜けた本が残っていることを祈りながら……ですがね」
とはいえ、アムラスの言うことは尤もだろう。ニヴルヘイムの似たような設備の警備が厳重だったことから考えれば、これだけ大規模な図書館が一般開放されていることは不幸中の幸いと言わざるを得ないのだから。
それはそれとしてアイリスの気怠さが理解できてしまう程度には重労働であるわけだし、元野生児の俺としても頭がクラっと来てしまっていた。
「――」
そうして忙しなく動き回る中、ニーズヘッグはバッグから顔を覗かせ、机の上に乗せた本を熱心に読み漁っている。
流石に目立つということで、今回は飛び回って手伝ってもらうわけにはいかないのは当然。子供迷子センターに預けるわけにもいかないしということで、バッグに引っ込んでお昼寝タイムかと思えば、まさかの光景だった。
まあ、ヤドカリの様にバッグからちょこんと腕と顔が出ていて机の上に本が立っているというのは、それはそれで目立つわけだが、良い子にしているのなら止む無しといったところか。
「……さて、時事ネタと国の歴史、神話関係を分かれて当ってみたわけだが……」
「この国でしか調べられない興味深い記述はありましたが、核心に迫るものではありませんね」
「うへぇっ、まだやるのぉ?」
開始から三時間、集中が途切れて来たということで一時休憩を取っているが、成果はゼロ。今のところ、ただ広大な図書館に来て読書を楽しんでいただけの人たちになってしまっている。
「良くも悪くも目立ちますから、聞き込みは最後の手段としたいところですが……」
「あくまでも“認識阻害”……だからな」
まだ文献が残っているとはいえ、無駄骨になる可能性が出てきた以上、全員で此処に留まるのは効率的じゃない。
しかし他人に注視されれば、俺やセラの髪色に違和感を持たれかねないし、間違ってエルフ耳に誰かが接触しようものなら一発アウトだ。かといって、外に出られると目をキラキラさせ始めたアイリス一人を街に戻すのも危険だし――という中、ニーズヘッグが楽しんでいる絵本の中身が視界に飛び込んで来た。
「――?」
バッグの妖精と化していたニーズヘッグは俺たちの視線を受けて首を傾げるが、問題なのは奴が持っている本。
取り返そうと手を伸ばしてくるニーズヘッグをセラがたしなめる傍ら、本を取り上げて中身を覗き込めば、記述されていたのは中々に興味深い内容だった。
「“終焉血戦”……か」
「太陽と月、星々が天から墜ちた世界で神々が繰り広げたとされる古の最終戦争……ある種、今一番欲しい情報なのかもしれませんね」
「そうね。何せ……」
ひらひらと本を振りながら近づいて来るエゼルミア陛下は、意味ありげに目元を覆うバイザーを指の腹で軽く撫でた。
セラやアイリスも認識阻害で普通の剣に見せている自分の聖剣を一瞥し、俺も魔眼の存在を感じる様に目を閉じる。それらはこれまで俺たちが相対した脅威を含めて、神話の時代から伝わる産物に他ならない。神話の時代が満更嘘ではないと、俺たち自身が証明してしまっている。
昨今、神話の力を体感した一般人が伝承にまで残すケースは極稀。何故なら、魔眼は忌むべき象徴であって後世に伝えるなどありえないし、神話の武器を扱える担い手も極少数しかいないからだ。ましてや神獣種と遭遇した場合、カールの様な例外を除けば全滅は必至。
はっきり言って人智を超えているし、英雄というのは得てして碌な死に方をしない。残った連中が、自分に都合良く事実を曲解することもままある。
そういう意味では、神話の力に対する恐怖や畏敬をそのまま書き記した遥か太古の文献の方がよっぽど信用に足る代物ということなのだろう。
それに――。
「子供用の本とは盲点だったわね」
「ええ、完全に……。私たちも神話に関する文献は粗方調べましたが、“終焉血戦”について記述されている物に辿り着けませんでしたから……」
この国にしかない文献もそれなりにあったが、“終焉血戦”については、全く手掛かりが得られなかった。かつて“恤与眼”に辿り着いた経験を鑑みて、最初から神話関係を重点的に調べていたにもかかわらずだ。
つまり一見普通に情報が得られる様に見えても、確かな情報統制が敷かれているということであり、ニーズヘッグは思わぬ形でその死角を突いたわけだ。
「お手柄ですね」
「――!」
尤も皆に注目されて首を傾げていた当人は、セラに抱えられたバッグの中でガッツボーズを取っており、なんとも緊張感に欠ける恰好なのは言うまでもない。
兎にも角にも、ムスペルヘイム全体について調べてくれていたエゼルミア陛下の情報と合わせて、事態は一気に飛躍することとなった。
向かうべきはこの国の中枢にして、全ての情報の源――王の住まう宮殿。
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