第162話 未踏の地と緊張感
――ムスペルヘイム王国・首都シーグルズ。
一般人に紛れてムスペルヘイムへ侵入した俺たちは、慎重かつ速やかに南下。国の中心部へと辿り着いていた。
「平和だな」
「ええ、平和そのものですね」
「――!」
現状を一言で表すなら、ムスペルヘイムへの潜入は順調。
入って早々浮浪者に襲われたり、現地の自称レジスタンスとトラブルを起こしたりと散々なミュルク潜入の方が余程大変だったと言えるほどに。
本来、あんな廃墟寸前の街よりも余程侵入困難であって当然なのにもかかわらず、あまりにも予定通りに物事が運び過ぎていた。
「他の国は、どこも緊張状態なのだけどね」
「ホントにお忍び観光旅行になっちゃいそうな雰囲気なんだけど……」
実際、事ここに至るまで、人々の平和な日々を目の当たりにするばかりであり、争いの気配など微塵も感じられない――というのが、素直な感想の総評となってしまっていた。
「しかしこれは……」
蒼の部分が紅、白の部分がグレー、クリスクォーツの代わりに聖火という違いはあるが、これまで見て来たのは、正しく南方のニヴルヘイムとも言うべき光景。
もし聖冥教団の一件がなければ、神獣種の襲来がなければ、ニヴルヘイムの日常もこんな感じだったのだろう――と、容易に想像できてしまう光景ですらあった。
いや、それどころか、普段ならこの辺りで誰かに難癖を付けられたり、刃を向けられたりするところだが、今回に関してはそういうイベントすらも起こっていない。トラブルに巻き込まれたいわけではないが、一周回って肩透かしを食らっている現状だった。
「ともかく、周りを見回すのは止めましょう。それよりもこれからどうすべきかを考えねば……」
因みに今回は外套も無しで素顔を晒している。というか、暑すぎて物理的に不可能だった為、臨時拠点に置いて来ていた。
よって皆いつもの戦闘装束ではなく、現地で調達した薄着姿で他国を闊歩している。無論、認識阻害魔法を発動しているのは言うまでもない。
更に今回に関して言えば、魔眼を御し切っている俺にも認識阻害魔法の効能が作用しており、変装無しでもなんとかなっている。
と言っても、普段無意識で魔力を喰らう力すらも完全解除している為、今魔法を受ければ、普通の人々の様にダメージを負ってしまうデメリットを背負ってはいるが――。
加えて、アース人と同じ人型種であるエルフとは異なり、識阻害のしようがないニーズヘッグに関してだが、これまた愉快な状況に陥っていた。
「――!」
今のニーズヘッグは日差し帽子と蒼いジャケットの様な服を身に付け、セラが持っているハンドバッグの中にちょこんと納まっている。
実際問題、竜種を連れた銀髪美人など、怪しんでくれと言っているようなもの。いつも通り飛び回らせていては、セラが身分を隠している意味がなくなってしまうわけであり、変装とカモフラージュとしては決して間違っていない。
確かに間違ってはいないんだろうが、これでは北国から南国に来て衣替えした様にしか見えないのが実情。寸前まで女子三人と一体でショッピングを楽しんでいた光景が脳裏を過る。
「少し窮屈でしょうが、我慢してくださいね」
「――! ――!」
まあ当人たちは楽しそうだし、どの道必要だった工程。
完全にペット連れにしか見えないのも、カモフラージュとしては上々だと気を取り直すしかないだろう。
「まあ少々拍子抜けだが、内に入り込めたのは事実。とりあえず最新の情報誌と図書館辺理に当たってみるのがベターか」
「そうですね。このままでは動きようがありませんから」
前回のミュルクでは意図しない形で元凶と相対した挙句、レジスタンスから情報を得られたわけだが、そんなものは偶発的なイレギュラーに過ぎない。今回も同じことが起こるはずもないし、起こって貰っても困る。
幸いムスペルヘイムはミュルクと違って、インフラが整っている。ミュルクの様に拠点で一騒動起こるわけもなく、地に足のついた活動が可能だ。今は文字通り足を使って情報を得るべきだろう。
「慎ましく謙虚に、何も起こらないといいんだが……」
ニヴルヘイム、アースガルズ、アルフヘイムにズヴァルトアルフヘイム、そしてミズガルズ。現状、今関わった国々において、断片的な神話の情報が集まりかけているという側面もある。
魔眼、神獣種――そういう意味でも、訪れたことのないムスペルヘイムの文献には価値があるはずだと決意を新たに、未知の地面を踏みしめた。
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