第157話 再会の『A』
「はい?」
「ヴァンッッ!」
刹那にして思考が戦闘用に切り替わる。
外套を着こんだ謎の人影。
敵意はないが、何故か嫌悪感を覚える謎の物体。
魔眼で喰らうのは妙に気が進まない。この時点では正当防衛となり得ない以上、迎撃も避けるべきだろう。なら俺が取れる行動は一つだけ。
ビーチチェアに寝そべり、見事な肢体を披露している二人に当たらぬように突撃を回避すること。
「へぶぅ、っ!?」
「それは残像」
謎の人影は、そのまま俺を突き抜けて灼熱の砂浜にダイブ。
甲高い悲鳴を上げながら、陸に上がった魚の様にビーチを跳ね回っている。
「もぅ! 酷いじゃない!」
「はぁ……?」
艶など微塵も感じない白髪交じりの髪、同じくカサカサでやつれた素肌に濁った瞳。
跳ね回った拍子に外套のフードが外れて素顔が露わになっているが、こんな人物には全く覚えがない。そもそも元アースガルズだったミュルクとは違って、此処まで南下した街で名前を呼ばれる様な知り合いがいるはずもないと、首を傾げる他なかった。
「私よ、私! 忘れたとは言わせないんだから!」
だが何度も聞く内に甲高い声と耳障りな言葉の数々、突進を回避した時のシチュエーションなど、妙にデジャヴを感じ始め――。
「えっと、何の騒ぎ……って、貴女……!?」
「――?」
そして一遊びした後、海中でニーズヘッグを捕獲して戻って来たアイリスの反応、女性陣の存在を認識した外套女の言葉で得心がいった。
「もしかして……あ、アメリア!?」
「出たわね、泥棒猫共! 私のヴァンに色目を使って!」
アメリア・エブリー。一応、俺にとっては幼馴染と呼べたはずの人物であり、予期せぬ何度目かの再会。
だが数ヵ月前、変貌した姿に驚いたのは記憶に新しいはずなのに、今のアメリアは四、五〇歳と言われても何ら不思議じゃないほどまでに老け込んでいる。とはいえ、外套から覗く腕や首などの素肌は年相応であり、強烈な顔面とのギャップと相まって、色んな意味で衝撃的な光景だった。
「話が通じないのは相変わらずか……。まあ、こっちはお前とかかわる気はない。さっさと散ってくれ」
「酷いわ、ヴァン! 私だって……!」
そこから始まったのは、アメリアのトーク地獄。
搔い摘んで説明するのなら――。
まず特筆すべきは、爛れ過ぎた男関係で大炎上して以降、正式に軍部をクビになったということ。まあ一部の男を除いて、味方や市民からの信用を損ねたのだから、その措置は当然。以前のアースガルズなら、“女”を使って上り詰められたかもしれないが、アウズン将軍が軍部を掌握している以上、それはあり得ない。
その後は、ある意味自爆とはいえ、大量の慰謝料を抱えている信用ゼロの人間が定職に付けるはずもなく、国内で孤立。元エリート少女騎士という肩書を最大限利用し、男に取り入る日々を送っていたとのこと。
その反面、女性の美容には金がかかる。落ち目のアメリアに手を出すような男などたかが知れているだろうし、ケアが追い付かずに凄まじい速度で“若さ”を消費してしまったのだろう。
何より、アメリア自身“こんなはずじゃなかった”という思いで過ごす日々のストレスが原因だったのかもしれない。
だが、状況は一変。偶然アースガルズに立ち寄った大名に見初められ、とんでもない玉の輿に乗ったとのこと。
それこそ大名の小国に招かれ、正妻の座すら掌中に収めかけるほどに。
一方、アースガルズから逃れて慰謝料バックレに成功。少女騎士だった時を遥かに超える財を得て、この余の春を迎えたわけだが、それも束の間――大名のとんでもない秘密が発覚して、またも状況が一変する。
その秘密とは、国を治める一族は大名の妻家の方であり、当人はただの婿養子に過ぎなかったということ。
この世界は、男尊女卑的な考えが根深い。
夫側がトップに据えられていたのも、周囲に嘗められないように――という、要因が大部分を占めていた。
そんな状況下で大名の責任を放り出した挙句、年下の小娘に現を抜かすバカは要らんとのことで即刻離婚。アメリアと元大名は着の身着のまま国外追放を食らったらしい。
どうやら実際に執政を行っていたのは妻の方であり、夫側は指示通りに原稿を読むだけだったとのこと。元大名当人としては、自分が対外へ赴いて他国の高官と接する中で増長した結果の火遊びだった模様。当然、本人が国に戻るべく遊びの関係だったアメリアは速攻で捨てられた。
無論、元大名が国に戻れたのかについては、考察の必要もないだろう。
そんなこんなで大名夫人を目前に一文無しになったアメリアは、それ以降も数多の男たちと一夜の恋の冒険としけ込み、“女”を使って小銭を得ながら、このスルーズまで流れ着いたとのこと。
何かの主人公か――と思わされる波乱万丈過ぎる愛の人生には軽蔑を通り越して、皆感心してしまい、同情を引くべく必死に悲壮感を出そうとしているアメリアとのギャップが凄まじいことになっていた。
「だけど、私にはヴァンしかいないって気づいたの! ううん、違う。私と一緒に成れないなんて、ヴァンが可哀想! だから今度こそ、貴方の腕の中に閉じ込めてぇ!」
「いや、その理屈はおかしい」
まあそれと奴の意味不明な言い分を肯定するかは、全くの別問題なわけだが――。
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