第148話 異形の合成騎士《Chimera God》
鮮血が吹き出し、巨体が崩れ落ちる。
これで残すは一体。
今度は左のホルスターから“投擲小剣”を三本ほど引き抜き、アンドラスに向けて投擲。一つは回避、もう二つは三叉槍で弾かれるものの、ほんの一瞬にも満たない空白が生じさせることは可能。
他の連中相手ならともかく、聖剣の皇女の前では致命的な隙となり――。
「ふっ、無用な援護ですね……!」
“暁闇燦めく明星”――大刀が更に巨大化して蒼銀一閃。
三叉槍の柄を断ちながらの兜割でアンドラスの肉体を引き裂く。
そうして、かつてニヴルヘイムに脅威をもたらし、カールの街を蹂躙した神の獣は命の灯を掻き消された。
決して少なくない人的被害。
壊滅寸前の街々を見れば、正しく災害の跡と言わざるを得ない。
だが神獣種三体と戦ったと考えれば、これでも奇跡的に軽微な被害と称せてしまう。後は白の少女に色々と聞くことがある――と向き直ろうとした瞬間、俺の全身を戦慄が貫いた。
「なんだ、これは……!?」
三体の肉片が集まり、淀んだ竜巻の中で一つの集合体へと姿を変えていく。
途方もない威圧感が戦場に撒き散らされる。
「神獣の役目……淘汰、調整……」
白の少女の呟きに意識を奪われた傍ら、吹き荒ぶ烈風を切り裂いて三対一神の悪魔が顕現した。
「なんだってんだ、これはよォ!?」
「ば、化け物……!?」
エリゴスの甲冑を被ったアンドラスの頭部。
更に威圧感を増した筋骨隆々な巨体。
巨狼、天馬、大蛇がそれぞれ下半身と融合している異質な姿。
そして六本の腕には、それぞれ復活した直槍、二叉槍、三叉槍が二対ずつの計六本が収まっている。
獣人一神の合成騎士。
形容し難いこの怪物を呼称するとすれば、そんなところだろう。
「アレが何か知っているのか?」
「分からない。見るのは、初めて……」
エリゴスを倒したからと魔眼の開放状態を解かなかったのは、俺にとっても吉報だった。何せ、とんでもないのが出て来てしまったのだから。
「よし、やってやるぜぇ!」
「そうですね。我々で押し留めなければ……」
「残念、選手交代」
今回は暴走して吹き飛びかけたヨトゥンヘイムの時とは違う。
もうひと踏ん張りだと、瞳の光を瞬かせる傍ら、主戦力となり得そうなグレイブとシェーレが脱力する様に膝をついた。
「はぇ、っ!? 力が抜けてい、く……っ!?」
「渡した物は返してもらう」
更に脇を抜け、ひょっこり立ち上がった白の少女がこちらに向かって歩いて来る。その瞳に紅色が混じった翡翠の光を宿して――。
「アレは世界の調律者。理外を上回る破壊で消し飛ばすしかない」
少女の魔眼は、その紋様をより鋭角に変質させている。
“禁忌魔眼・解放”――俺や奴と同じ領域。
「調律者……ね。どう見てもバランスは最悪だが?」
「違う。これは不要な人間を間引く作業……全ては世界の秩序を取り戻す為……」
「自らの理念を以て人間を滅するというのですか? 宛ら現象の様だった神獣種に明確な目的が存在すると?」
「目的じゃない。概念……。アレはそういうもの」
正義や悪、希望や欲望といった誰しもが持ち得る概念に捕らわれない生物。
それは生きとし生ける者を、人智を超えた別存在。
モンスターという区分にカテゴライズすること自体が間違っているのだろう。
正しく神の名を冠するに相応しい。
「俺や奴……そしてお前のことを指すであろう“解放者”とやらについても話を聞きたいところだが……」
何が起こっているのか。
未だ全貌は見えてこない。
しかし、何をしなければならないのか。
それだけは明白だった。
「中々思う通りにはいかないようだ」
「ええ、その様ですね」
「■■■■――」
合成騎士が携える六本の得物。
その全てに澱んだ魔力が竜巻となって纏わり付く。
凡そ、一個体の生物が発していい魔力じゃない。
異形の怪物という言葉がこれほど相応しい相手もいないだろうが、戦わないという選択肢は存在しないということだ。
「それにしても、お前たちは何をやってるんだ?」
「い、いや、脱力感が半端なくてですねぇ」
「ちょっと、立ち上がれないと言いますか……」
「過ぎた力は身を滅ぼす。調子に乗り過ぎ」
「なるほど、魔力も体力も底を尽いてリタイアと……」
グレイブとシェーレは戦闘不能。
相手がアレでは、コーデリアたちも戦力外。
アイリスとニーズヘッグも戻って来るには、もう少しばかり時間がかかる。
残るは、やはり――。
「まあ、私たちも万全に程遠いことには変わりありませんが……」
「何とかする」
俺たち三人が最終防衛ライン。
ニヴルヘイムを守る為には、あの怪物を俺たちが何とかするしかないということ。
「進んでも地獄、立ち止まっても地獄。いつものことだな」
「ええ、無理を承知で何とかするしかありませんね」
黒翼を展開し、両剣に漆黒を纏わせる。
セラの“グラム”が蒼銀の大刀と化す。
だが白の少女の翠紅の瞳は合成騎士ではなく、俺を射抜いていた。
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