第140話 帰るべき場所《Returner Place》
カールナイツの身柄を預かる様になって、早一ヵ月。
四国同盟としては、敵対の意志がないのであれば、ひとまずは保護を――という結論が出されていた。何故、ひとまずなのかと言えば、ここ数週の間にモンスター被害が激増し、各国共に身動きが取れなくなっているから。
よって、国民と同列扱いするわけにもいかないが、あくまで被災者である連中を国から放り出しても全滅必至で忍びない――という現状からの結論だった。
といっても、所詮一般市民であるカールナイツに叛意など欠片も見受けられず、連中もこちらの厚意に報いようと意思を示している為、現状は問題無しといったところか。
それに――。
「我が故郷の味、とくと味わいなされ!」
「口より、腕を動かしな!」
「はいぃっ!」
すっかり、騎士団施設内食堂のおばさま方にこき使われる姿が様になっていた。
適材適所というか、自分にできる範囲で働いてくれる分には問題ないし、今のところギブ&テイクは成立している。まあニヴルヘイム側が与えている物の方が多いのは言うまでもないが、今以上を求める必要はないだろう。
「三番テーブル……」
「あはは、料理は落さないでね」
加えて、マーズとアサレアはすっかり食堂の看板娘として馴染んでいる。その上、ニーズヘッグは時折セラの下を離れるようになり、食堂へと来襲。
「頭の上、重い……」
「――!」
こうしてマーズにちょっかいを出している。
姉気取りなのか、グレイブとは違うベクトルの遊び相手なのか――。
事情はよく分からないが、二人の相性はそれほど悪くないらしい。神話の生物がそれでいいのかと聞きたくならないでもないが、本人たちが満足しているのなら、藪蛇というものだろう。ニヴルヘイムの二大マスコットとは誰が言ったのやら。
「しかし、これだけ攻められてるのに呑気なもんだな」
「あ、お疲れ様。ご飯でいいかな?」
「……ああ、任せる」
「はーい!」
まあ、当の俺は微妙な距離感で様子を窺って来るアサレアに少しばかり困っているのだから、既に仲良しなニーズヘッグたちは理想的な関係と言えるのかもしれない。
「仕方ないですよ。良くも悪くも皆慣れてしまいましたから」
「腹が据わっている……なら、頼もしいんだがな」
「ユグドラシル卿が旅立たれた頃よりは、マシかもしれませんね。隣よろしいですか?」
「ああ、構わない、が……っ!?」
各国で増えるモンスター被害。
ニヴルヘイムに関しては民間人に被害が出ていないとはいえ、もう少し緊張感を持つべきでは――と思わないでもないが、アースガルズ襲来と聖冥教団の一件を経験した市民にも、大概というところか。
でなければ、大規模襲来の後で平然と出迎えには出てこないだろう。
そんなこんなでアサレアを待つ傍ら、声をかけてきたシェーレに向き直れば、さっきまで戦っていた上位種以上の衝撃に襲われることとなる。
「な、なんだ……ソレは?」
「え……? 何かおかしなことでも?」
「いや、おかしなことというか。おかしなものが並んでいるというか……」
表情を引きつらせる俺とは対照的に、シェーレは頭に疑問符を浮かべながら首を傾げた。
当のシェーレの前には、こんもり積み上げられた料理の数々。
フルコースどころか、どんな団体さんが食べるのだろうかという量と種類ではあるが、テーブルへの配置のされ方からして、どう見ても一人で食べる用。
その引き締まった腹にどうやってその量が入るのやらと思っていると、上品ながら凄まじい食べっぷりで料理が消え始める。
「まさかここまで来て、食いしん坊キャラを発揮されるとは……」
「何かおかしなことでも?」
「二度目か……。いや気にしないでくれ、俺も気にしないから」
よくよく考えれば、イレギュラーのオンパレードということもあり、騎士団の施設を利用することなんて片手で収まるほどだった。当然ながら、一般兵士どころかシェーレたちとですら頭を突き合わせて食事をする機会も満足にあるはずもない。
しかも、そんなことにすら気づいていなかった自分がいた。
多分、今までは顔と名前と戦闘スタイルと――それ以外の部分には、目を向けてすらいなかったんだろう。いや、目を向けようとすらしていなかったというべきか。
「ウチの隊長はいつもこんなやから、温かく見守ってやー!」
「目指せ、大食い世界一」
「他の人より、ちょっと燃費が悪いだけです」
「ちょっとの量やあらへんわ!」
「はうっ!?」
アースガルズを追放されてからの日々――前を見るばかりで存外余裕がなかったものだと、シェーレの食いっぷりと第七小隊のじゃれ合いを見ながら内心苦笑してしまう。
だがこうして周りが見えているということは、ニヴルヘイムの騎士としてだけではなく、一人の住民として、この地に根付けたとも言えるのかもしれない。つまり本当の意味で、この地が帰って来るべき場所になったということなのだろう。
「……呑気なもんだな。全く」
「お待たせー!」
「妙に量が多いが、俺はそんなに要らないぞ」
「これは……」
「私たちは休憩。一緒に食べる」
「――!」
平和と呼ぶには程遠い情勢ではあるが、これが今の俺にとっての日常。
穏やかさと気恥ずかしさが織り混ざった感情を抱きながら日々を過ごしている。
崩壊の足音がすぐそこまで迫っていると知らぬまま――。
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