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第130話 もふもふニーズヘッグ

 四国同盟との決着が着くまで、カールナイツの身柄を預かることになって数日――。

 特に問題が起こることなく、日々は流れていた。


 そんな俺も流石に今日ばかりは連日の出撃から解放され、セラの執務室で過ごしている。イレギュラーのオンパレードで形骸化しかけていた専任騎士としての面目躍如(めんもくやくじょ)といったところか。


「――!」

「あんまり頭の上で動き回るなよ」

「あらあら、久々にヴァンへ甘えられる時間なのですから、大目に見て上げてください」


 (もっと)も、軽装のセラは政務をすることもなく、ニーズヘッグの構ってアピールに対応している俺を見て、楽しげに笑っていた。

 まあ、これまでのハードというか、デッドスケジュールを思えば、たまにはこんな日が合っても罰は当たらないだろう。つまり久々に穏やかな日常を満喫しているわけであり、言ってしまえば、完全に休暇(オフ)だ。


「なんか、最近ニーズヘッグへの態度が本当に母親みたいになって来てないか?」

「十代の乙女に向かって、それは失礼ですね。子供ができる行為などしたことがないというのに……」

「――!」

「ん、んっ!? ニーズヘッグも止めなさい! そんなところを突いても何も出ませんよ」


 セラが頬を膨らませながら身を(よじ)れば、巨大な胸が強調されるように持ち上がる。アルバートの一件もあって、微妙にセラの地雷を踏んだかと後悔したが、その直後には標的を変えて甘えるように突っ込んだニーズヘッグとじゃれ合っていた。

 俺が自分のことで手一杯になっている間、こうしてニーズヘッグが気を紛らわせてくれていたのだろう。専任騎士の面目躍如(めんもくやくじょ)というのは、取り下げるべきなのかもしれないと、内心で自嘲した。


 まあそれはそれとして、女子同士のじゃれ合いが目に毒なのは言うまでもない。主に片方だけだが――。


「全く、私たちが居ぬ間に少し奔放になり過ぎたようですね」

「――」


 数分後、おとなしくなったニーズヘッグはセラの膝の上にちょこんと座らされ、頭の上に重石(おもし)を乗せられて首を曲げていた。とんだお人形さんといったところか。

 因みにセラの何が重石(おもし)になっているのかについては、最早説明するまでもないだろう。


「とはいえ、コイツが文字通りニヴルヘイムの守り神になっていたのは事実だ。今は休ませてやるべきかもな」

「そうですね。ニーズヘッグ、ご褒美は何がいいですか?」

「――! ――!」


 そんな言葉をかけられたニーズヘッグは、座ったまま尻尾を伸ばすとセラが座っている隣をバシバシと叩き始める。つぶらな瞳は俺を捉えて離さない。


「座れってことか?」

「――!」


 ニーズヘッグがコクコクと首を縦に振っている辺り、どうやら正解だったようだ。

 そうしてセラの隣に腰掛ければ、俺と彼女の膝の上を転がりながら行き交ったり、くでーっと伸びたりと自由に過ごし始める。

 当然、ニーズヘッグが落ちぬようにセラと密着せざるを得なくなり、何を思ったのかそのまま彼女もこっちに向けて倒れ込んできた。肩に頭を乗せられ、身体の左半身に柔らかい感触が広がってしまう。


「セラ……?」

「こうしていられるのも久々ですから……」


 よくよく考えれば、これまでの休息は、肩肘張らなければならないものばかりだった。他国や旅先、果ては潜入なんてことまでやっていたのだから、気が休まるわけもない。

 実際、セラの言うような穏やかな日常は、アースガルズとの戦いを終え、聖冥教団の一件が起こる僅かな合間にしか存在しなかった。

 それを思えば、今だけは背負っている重い荷物を降ろしてもいいのかもしれない。


 たとえ乱世の時代が訪れようとも、今日、今この時は確かに平和なのだから――。

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