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第129話 鮮血の面影

 スコルタイプを退けた一件で保護したアンスロポス人――連中は、カールという街の駐屯軍・警務部隊・民間人からなる混成人員で構成されていた。

 辛い境遇でも生き抜く誓いと故郷を忘れないという思いを込めて、“カールナイツ”と名乗っているのだそうだ。

 とはいえ、連中に話した通り、さっきの今で信用など出来るはずもない。よって、月華騎士団(ヴァーガルナイツ)の監視下に置く形で、首都に迎え入れることとなっていた。


 そして今は宮殿――ではなく、軍部の息がかかった施設でセラとの謁見(えっけん)と相成っている。


「――なるほど、アンドラスとの戦闘の果て流れ着いたと……心中はお察しします。ひとまず不法入国に関しては不問としますが……」

「そうですか! 我ら明日をも知らぬ身ですので、心からの感謝を……」

「ん、んっ! 不法入国に関して不問とすると言いましたが、このまま難民として受け入れるとは言っていません」

「それは……!?」

「そちらにも討ち延びてきた理由があるように、こちらにも立場と言い分というものがあります。少なくとも、両手を上げて貴方たちを受け入れられる状況にないというのは、私の騎士から聞いているはずかと思いますが?」

「う……くっ」


 こんな連中相手に皇帝が動くのかと思わないでもないが、かつて己と戦ったアンドラスという名を聞いて思うところがあったんだろう。


 どっちにせよ、ニヴルヘイムが独断でミズガルズの人間を受け入れたともなれば、他の同盟国との間に不和が生じる可能性がある。理不尽な目に合って可哀想だから――で手を差し伸べられるほど世界は優しくない。

 それこそニヴルヘイムが独断専行し続ければ、今度は他の三ヶ国からこちらが討たれる可能性すらあるのだから、当然だろう。

 まあ連中の立場が多少なりとも政治情勢に関与しかねないとあって、皇帝が動くとしてもギリギリ体裁は保てているはずだ。


「貴方たちの処遇は、戦時同盟国と話し合った上で決めることとします。ひとまず軍の監視の下、我が国で安寧の日々を過ごしていただいて構いません」

「――!」


 結論は後回し。

 見捨てるのも忍びないので、保護はしておく。


 ひとまず今は休んでいろと伝えるセラと、その肩の上で(くつろぐ)ぐニーズヘッグ。

 良くも悪くも俗っぽい一般人との対比がとんでもないことになっていた。


「これから先どうなるにせよ、賢い選択を願います。我らとて手荒な真似はしたくありませんので……。少なくとも、そちらが刃を向けてこない限り、こちらが貴方たちを廃することはないと誓いましょう」

「はっ! ありがとうございます! ありがとうございます!」


 対してカールナイツの連中は、そんなセラの前に(ひざまず)いて涙を流し始める。

 連中が直接悪いわけではないとはいえ、今や敵対国家となってしまったミズガルズ領民なのだから、この場で首を()ねられても文句は言えない。

 実際、アンドラスの出現情報と身の上話を知った以上、もう連中に利用価値はない。それこそアレクサンドリアン辺りが国の王だったのなら、カールナイツはこのまま処刑台に運ばれていたことだろう。そんな状況と考えれば、セラの処置は寛大なものであり、連中としては感謝どころの話じゃないということだった。


「あれは……」


 だがそんなやり取りの中、周囲の連中とは打って変わって、微動だにしていない二人の少女へと視線が吸い寄せられた。

 一人は人形のような無表情で佇んでおり、もう一人は俯いて肩を震わせている。

 そんな二人目の少女の瞳に宿るのは、多分――かつての俺と同じ光。


 勿論、少女の瞳で十字の光が瞬いているとか、そういう物理的な話じゃない。

 でも、何故そう断言できるのかと言えば、単純に眼光から伝わって来る感情に心当たりがあり過ぎたから。


 だから、あの少女が誰かと重なってしまったのだろう。

 かつて全てが始まった夜――月光と鮮血の中に溶けていった誰かの面影と――。

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