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第122話 神話超越《Twilight Ouroboros》

「ヴァン!? 酷い、怪我を……」

「よくこんな状態で戦っていられたものですね。常人であれば、意識があるだけでも奇跡だというのに……」


 エルフは終戦処理。

 巨人族は撤退。

 “神断の罪杯(カオス・グレイル)”と名乗った二人も同様に姿を消しており、辺に敵の気配はない。

 周囲を一瞥したセラとアイリスが駆け寄って来るが、当然その表情は芳しくなかった。


「しかし、この力の奔流をどうにかしなければ、治療どころではありませんね」


 外側を見ても満身創痍。

 恐らく内側も筋肉やら何やらがズタズタになっており、そこら中の骨が逝っているんだろう。

 それもセラの言う通り、ただでさえ魔法の効果が作用しにくい体質の上、現在進行形で魔眼は暴走寸前。針を立たせて威嚇する小動物じゃないないが、今は触れるもの全てを傷つけてしまうような状況にある。


 つまり周りからの助けは期待できない。

 自分で何とかするしかないわけだ。


「二人とも離れろ」

「でも!」

「悪いが、巻き込んで殺さない自信はない」

「――ッ!?」


 “禁忌魔眼・解放スペリオル・エクシード”――この力の効能がゼインの“無限眼インフィニット・フェニーチェ”と同様なら、能力全開の現状から元の形態に戻せるはず。

 現に奴は解放の大小を使い分けていたのだから。


「後は、俺自身がその感覚を掴めるかってところだが……ッ!!」


 蒼金の輝きと漆黒の奔流が天にまで立ち昇る。

 地面が砕け、白い雲が周囲に散っていく。


「空が震えている……?」

「ヴァン!?」


 黒剣翼渦。

 支え代わりにしている二振りの剣を伝って地面に亀裂が生じ、形状崩壊気味の黒翼が俺の意思に反して巨大化。過剰吸収と放出の果てに、破壊の波動が螺旋形状に広がっていく。


 骨が軋む、血肉が千切れ、瞳からの鮮血が増す。

 明らかに異常。

 自然に起こり得る現象じゃない。

 それでも――。


「……まだ俺には成すべきことがある。今は引っ込んでいろ!!」


 一度、吸収を上回る速度で力を放出しきった上で、能力を減衰させて制御化に置く。

 力の暴走を抑え込むまでに俺の命が尽きるのが先か、この辺り一帯が焦土と化すのが先か――。

 言ってしまえば、一種の賭けだった。


「ぐ、っ!?」


 戦う。

 俺は戦わなければならない。


 人の悪意と――。

 世界を覆い尽くす混沌と――。


 少なくとも今はまだ、セラたちをこんな世界に置き去りにするわけにはいかない。


叛逆眼(お前)は俺だ……! 忌むべき災厄であっても、もう否定はしない」


 皮肉なものだ。

 かつて俺が世界から否定されたこの力が、今は俺にとっての存在理由(レゾンテートル)となっている。


「だから……」


 力に抗っても自らを傷つけるだけ。

 清流の様に心を穏やかにして、あるがままを肯定する。

 いつもと何も変わらない。


 俺は“叛逆眼(カルネージ・リベルタ)”に選ばれた。きっと何らかの意味があるはず。

 それなら、どれだけ力が増大しようが、受け止められない道理はない。


「もう叛逆眼(お前)を抑え込んだりはしない。俺は此処にいる!」


 漆黒の炸裂と旋風が勢いを弱め、そよ風の様に全身に纏わり付く。

 だがもうこの身が傷つくことはない。

 身体の奥底から力が(みなぎ)り、余剰な力が損傷個所を癒していく。


「これは……」

「傷だけではない。ヴァンと外気を遮断していた力の奔流が消えていく……」


 天変地異もかくやと言わんばかりの暴走ではあったが、とうとう全てが元の状態に回帰した。

 当然、瞳の六芒星も十字の光を取り戻しており、満身創痍という他なかった体の傷も治癒している。気力はともかく、他に関して言えば、全快と言っていい状態ですらあった。


「ヴァン、無事なの!?」

「どうにか……な」

「というか、さっきのって……」

「さあな。とんでもないじゃじゃ馬だが、おかげで死なずに済んだ」

「全く、他に方法がなかったとはいえ、なんという無茶を……」

「そう言ってくれるなよ。無茶でも無理でもやり通さなきゃ、どうにもならなかったんだからな」


 まあ、いくら傷が治ったとはいえ、限界ギリギリには変わりない。

 とうとう立っていられなくなり、膝をつく。緊張の糸が切れたのと相まって、完全に戦闘不能だった。


 だが――。


「戦いは終わったのか?」

「ええ、恐らく双方にとって最良の形で……それにヴァンも無事でしたから」


 視線を向ければ、二色のエルフが歓喜の声を上げている。

 長年――それこそ、気の遠くなるような年月を反目しあってきた種族が戦争を通じて手を取り合っていた。

 平和への第一歩を踏み出したことを喜ぶべきなのか。

 それとも共通の敵が出来なければ、こうなれなかったことを悲しむべきなのか――。


 ともかく、“イェロヴェリル攻防戦”と名付けられることになるこの戦争は、こうして幕を閉じた。

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