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第114話 巨人の王

 ――アルフヘイム王国・首都フロディア。


 ダークエルフとの会合を終え、俺たちはエゼルミア陛下の住処である同国の宮殿に招かれていた。


「しかし宮殿というのは何処も……」


 装飾華美なアースガルズ。

 洗練されたニヴルヘイム。

 このアルフヘイムの宮殿は、その中間とも言うべき意匠を取っており、これもアリと思わせる出で立ちをしている。


 とはいえ、元野生児から見れば、やはり別世界には変わりない。

 何度目かのカルチャーショックだ。

 贅沢に染まり切っていないというか、未だ庶民の感覚が残っているというか。まあ喜ぶべきなのかは分からないが。


「……少しは落ち着けたかしら? 旅の疲れを癒してくれると嬉しいのだけど」

「は、はいっ! ちょっと、目移りしちゃいますけど……」

「それに関しては私も同感です。久々の安全な場所ですから」


 ラフな格好に着替えて現れたエゼルミア陛下に対し、ニヴルヘイムの女性陣がそれぞれ答える。


 アイリスは先の因縁、セラは他国の王、俺はその専任騎士ということもあり、環境的には居心地が良くても、周囲からの視線が突き刺さっているのは言うまでもない。アルフヘイムに“人間”が入って来るという非日常も相まって、視線の密度は凄まじい。

 無論、これまでの旅に比べて、幾分か(くつろ)げているのは、二人の言う通りだが――。


「とはいえ、これからどうするの? あんまり長くニヴルヘイムを空けるのも(まず)いんじゃ……」

「そうですね。ですが、こちらから打って出た場合、相手方の侵攻に明確な大義名分を与えてしまう。かといって、このまま常駐し続けるわけにもいきません」

「それについては大丈夫でしょう。斥候(せっこう)の情報通りなら、本隊の到着は三日後。向こうが一晩ぐらい休むと想定しても、四日後には国境地帯でぶつかるわ」

「今日の敗戦を知れば、攻め込んで来ない理由はないということか」

「ええ、種族の誇りと武勇を重んじる彼らに戦闘での敗北なんてものは許されない。それも力より魔法を極めるエルフと、その場を通り掛かった非力な人間相手に、これからを担う若者が()されたんだもの当然よね」


 決戦は恐らく四日後。

 その事実を胸に刻み込む。


「行動を読めるのはいいが、物騒極まりないな……」

「ですが、単純であるが故に厄介。それは彼らにとって誇りであり、矜持というということなのでしょう」

「お互いに譲れない物がある。ぶつかり合うしかない……か」


 世界中の誰もが剣を振り下ろす先を探している。

 これが乱世の時代。

 戦いの連鎖を苦々しく感じていると、エゼルミア陛下から更なる凶報が知らされる。


「でも、ちょっとヤバい感じなのよね。何せ、国の統治者……大将軍自らの出陣だもの」

「ヨトゥンヘイムの王?」

「ええ、オージーン・ウートガルザ。大陸最強の戦士。軍を率いて此処に向かっていると情報が入って来たわ。貴方たちも名前ぐらいは知っているはずでしょう?」

「確かに異名は聞き及んでいます。ですが、本当に(・・・)それほどの手練れなのですか?」

「唯我独尊、天下無双……そんな言葉が似合う人間ね。数々の武勲に加え、神獣種の一柱すら単身で撃破。一人出てくれば、戦況が変わるとすら言われているわ。少なくとも単身でぶつかり合えば、この場に生き残れる者はいないでしょうね」


 オージーン・ウートガルザ――ヨトゥンヘイム王国の国家元首。

 王でありながら最前線に立ち、この大陸で最大最強の武勇を轟かせる男。

 生ける伝説というか、神話に片足を突っ込んでいる人物だと風の噂で聞いていたが、全て真実と想定した方がいい。


「勝算はあるのですか?」

「神のみぞ知るというところかしらね」


 何より、俺たちと肩を並べて戦ったエゼルミア陛下が茶化さずに言葉を紡いだというのが、事の重要性を引き立たせていた。


「連中の作戦は、間違いなく正面突撃。戦況が長期化することはないと考えていいわ」

「王が動いているということは、本国の守りは手薄。初撃を押し留められれば、ひとまずの危機は去ると?」

「いくら巨人族が勇猛果敢とはいえ、向こうにも優先順位がある。いくら何でも玉砕覚悟で突っ込んでは来ないでしょう」

「つまり次の闘いで全てが決まるということか」


 闘争本能のままに進軍する。

 それが巨人族の在り方。


 最大最強との決戦は四日後――。

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