第113話 黒の侍女騎士《メイドナイト》
三勢力の反撃により、巨人族の部隊を撃退。
困惑するアルフヘイムと情報共有する傍ら、ズヴァルトアルフヘイムの面々との話し合いに赴く。
今は首都に引っ込んでいたらしいダークエルフの王を待っている最中だった。
「お疲れ」
「全くです。言われてみれば、ヴァンは殆ど立っていただけですけどね」
「流れ弾は防いでたぞ?」
二つのエルフの国。
巨人族との遭遇。
アースガルズ戦はほぼ個人戦に等しかった為、実質初めての大規模戦闘。
未知の体験の連続には嘆息せざるを得ない。
若干頬を膨らませるセラにそんな弁解をしていると、アルフヘイムの正装を身に纏うエゼルミア陛下がアムラスを伴って戻って来た。
「……そうね、本当に助かったわ。とはいえ、あの連中は偵察部隊。本隊はこれからでしょうし、この一件であちらも怒り心頭というところかしらね」
「偵察部隊、あれで……ですか!?」
「どうやら敵情視察に来た若者たちが勢い余って突っ込んで来たらしいわ。全く傍迷惑な話よね」
アイリスの驚きは尤も。というか、偵察とは何ぞや――と、誰もが首を傾げたことは間違いない。状況は違えど、ついこの間まで偽名まで名乗って素性を隠していた俺たちの苦労は一体――。
まあ連中は派手に暴れた結果、見事に失敗しているのだから世話ないが。
「あら、ようやくお出ましのようね。黒い妖精の王様が……」
本当の闘いはこれから。
世界最強の巨人軍団があれだけで済むはずがないと思っていたから大した驚きもなく、その事実を受け入れていた。そんな中、両国間の中央地帯にもう一人の有権者が姿を見せる。
「お待たせ致しました」
「ええ、本当にね」
さらっと嫌味を叩き込むエゼルミア陛下にギョッとする傍ら、姿を見せたのは翡翠の長髪をした女性。気品溢れるその佇まいは、セラやソフィア殿下、エゼルミア陛下と重なる部分がありながらも、どこか別種の威圧感を放っていた。
だが、良くも悪くも現れた女性に視線が釘付けになる中、エゼルミア陛下から衝撃の事実を知らされる。
「ん、違うわよ。目線下げて」
白く長い指が差す先は、女性の腰元辺り。白いフリルスカートの裏には、種族特有の浅黒い肌をした少年と少女が隠れていた。
「ご紹介が遅れました。こちらは我がズヴァルトアルフヘイム現国家元首である、ガルス・ズヴァルト陛下。妹君であられますケティア・ズヴァルト様となります」
皇族がこの場に連れてこられたというのはまだ分かる。でも、一〇歳前後に見えるちんまいのが国家元首――つまり、セラやエゼルミア陛下と肩を並べる人間だというのは、正直信じられない。
実際、これまで出会った国家元首は、皆不遜でドーンと構えている連中ばかり。セラやエゼルミア陛下、ラウル先皇は言うまでもなく、かつてのアレクサンドリアンも雰囲気だけなら見劣りしない。その父親も貫禄だけは中々のモノだった。
妹ちゃんに関しても、比較対象がソフィア陛下になってしまう以上、こう威圧感に欠けるというか――。
「そして、私はお二方の専任侍女騎士――セシル・タールヴァ。以後お見知りおきを……」
本来誰かに仕える衣装である侍女服。それを身に纏っていることすら忘れさせてしまう程の佇まいは本物。
加えてエゼルミア陛下の微妙な表情からしても、このセシルという女性はかなりのやり手で間違いないはず。そして、美人だ。
「……」
おどおどしている子供皇帝と年相応と言った様子の女子皇族。この連中はひとまず脅威足り得ない。
警戒すべきは侍女騎士。そう思っていると、セラに冷たい眼差しを向けられた。別にそういう目的で見ていたわけじゃないと思いながら、エルフ同士の会話に耳を傾ける。
「――アルフヘイム王国、ニヴルヘイム皇国、アースガルズ帝国による三国同盟。なるほど、私たちの知らぬ間に随分と世界も様変わりしていると?」
「正確には、今も……ね。貴方たちも心当たりはあるでしょう?」
ミズガルズ動乱。直後に起こった同国の陥落は最早周知のこと。
この場の誰もが巨人族の姿を脳裏に過らせたのは想像に難くない。
アレクサンドリアン・ラ・アースガルズが罅を入れ、斎藤翔真が完全に打ち砕いた薄氷の平和。
国家間の均衡は崩れ、大国の存在も最早戦争を止める抑止力とはなり得ない。むしろこうして勢力拡大の為に狙われてすらいる。
「さて、どうするの? 私たちはそっちの国と揉めている場合じゃないと思っているのだけど?」
「三国同盟の名の下に、我らを脅迫するおつもりですか?」
「残念だけど、この子たちは領土拡大や私怨での戦争に手を貸してはくれないわ。降りかかる火の粉は一緒に払ってくれるかもしれないけどね」
セラとの時もそうだったが、美人同士の睨み合いは迫力が凄まじい。
とはいえ、ヨトゥンヘイムから明確に標的にされている以上、ズヴァルトアルフヘイムが取れる選択肢は一つしかない。
「……少なくとも、今は同じ脅威に立ち向かう者同士……外敵の排除に関しては協力することをお約束しましょう」
「賢明な選択ね」
ここに二つのエルフによる同盟が結ばれた。
限定的とはいえ、有史以来敵対し合ってきた者同士が手を取り合うという歴史的瞬間に立ち合えたと言えるのかもしれない。
まあさっきの今で、互いに信頼なんてものが生まれるはずはないし、あくまで外敵排除のみに適用される同盟。内々の諍いは続いて行くのだろう。
ましてや四国同盟なんてのは程遠いわけだが、今はこの場で刃を交えなかったことに胸を撫で下ろすべきというところか。
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