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第105話 ミュルク軍崩壊

 街を疾駆。

 ひとまずは混乱の中心――先日の宮殿を目指し、障害を全て(・・)排除しながら突き進んでいく。

 小都市全体を舞台とした戦闘。

 それはあまりに凄惨な光景だった。


「こんなの……戦いじゃない!」

「ええ、相手を殺しきれない()びた剣で打ち合っているようなものです。荒くれ者と多少腕の立つ民間人……双方、半端に力を持ってしまっている分、混乱も大きい。早急にこの戦いを(しず)めなければ、地上は死体の山で埋め尽くされるでしょう」

「ああ、この事態を引き起こした奴の掌の上で……」


 どちらかを倒せば、逆の勢力が力を増して敵を蹂躙してしまう。

 それでは何の解決にもならないし、そもそもレジスタンスを援護する為に出て来たわけじゃない。よって、双方の勢力が要とする防衛ラインを引き千切る形で一気に進撃していく。

 そして視界域の戦闘員を吹き飛ばしながら宮殿に到着したのは、それから二分ほど後のことだった。


「お前たちは……!?」


 ゲオルグは斧でレジスタンスの若者を二人ほど()ね飛ばした体勢のまま、俺たちを見て驚愕の表情を浮かべている。

 先日、突如現れた外套とフードで全身を隠した若い男女。どう見ても不審者どころか、この一斉蜂起に関わっていると思われても何ら不思議じゃない。

 だが、懇切丁寧に説明していられるような状況ではなく――。


「いい加減にしやがれぇぇ!!」


 真横から手入れが全くされていない鉛色の剣が振り下ろされた。攻撃を仕掛けてきたのはミュルク軍兵士。

 しかし“デュランダル”で迎撃しようとした瞬間、蒼銀の剣と激突して破片と変わる。


「こ、この女ッ!?」

「ヴァン、手短にお願いしますね」

「セラ、お前……」

「我々は雑兵を振り払います。行きますよ。アイリさん」

「う、うん!」


 更に俺の返事を待つことなく、二人の聖剣使いは周囲の連中へ刃を向ける。

 セラも色々と察してくれたのだろう。この気遣いを無駄にするわけにはいかない。


「さて、ようやく辿り着いたわけだが……」

「そ、その風貌……お前は……!」


 俺はゲオルグと相対し、外套のフードを取り払った。

 かつて多くの者から、奇異の視線を向けられた銀の髪と紅の瞳が露わになる。


「お久しぶり……というのは少し変ですかね。ゲオルグさん」

「お前は、デロア隊長の子供……!?」

「ええ、血縁上はそうなります。貴方とも顔を知らぬ仲ではないはずだ」


 ゲオルグ・ドライター――俺が幼少の頃、我が父デロア・ユグドラシルの副官だった男。


 そもそもミュルクは、アースガルズ領内にある一都市でしかない。その守護を担うのは、アースガルズ軍であって然るべき。

 結論から言えば、ミュルク軍の前身――正体は、アースガルズ軍の兵士であり、この街の現状はそんな彼らが反発して起こった独立劇であるということ。


「昇進と共に首都を離れ、この都市に赴任されてからも父に連れられて……ね」


 あんな父親ではあるが、魔法が使えないと見放される前から俺を人間扱いしていなかったわけじゃない。むしろコネづくりの為、長男として連れ回されていた。

 ゲオルグと面識があるのは、そういう理由から――。


 そして、このミュルクにも来たことがある。既視感のある風景が大きく劣化していたことに違和感を覚えていたのも、一度見たことがあったからだった。

 流石に子供過ぎて、それ以上の記憶はほとんど残っていないが、以前から何度か顔を合わせていたこの人のことだけは、はっきりと覚えていた。


「貴方は国民の為、皇族の為に邁進(まいしん)していた。少なくとも、軍事力で国に反旗を(ひるが)した挙句、市民に圧政を敷くような人間ではなかったはずだ。何が貴方を変えた?」

「子供が……っ! 汚職、傲慢、権力闘争……挙句の果てが侵略戦争! 皇天は既に死んでいた!」

「だから、現状(コレ)……か?」

「中央の連中は、同じことを正義の名の下に正当化しているのだ! 私と連中と何が違う!? 私の目指した正義など、何処にもないのだ!」

「腐敗した世界と国に絶望した、と……気持ちは分からないでもないが……」


 斧が振るわれ、刃を躱した俺の足元が砕け散る。


「同じことを他者に敷いているんだから、世話ないな」

「黙れっ! “ジャスタ・ディスパンス”――ッ!!」


 分厚い刃が魔力を纏って迫り来る。

 威力は大したものだが、キレは全くない。余程久々の全力戦闘だったのだろう。ブランクを感じさせる一撃だった。


「“我、迷いを断ち穿つ牙(クルセイド・ファング)”――」


 外套の内に隠された二振りの内、蒼金の聖剣を逆手で引き抜く。

 蒼穹の十字眼で魔力を奪い取り、不滅の刃(・・・・)持つ聖剣に漆黒を纏わせて一閃。奴が騎士団時代から用いていたであろう斧を破断する。


「な、に……っ!?」

「そんな()び付いた刃で穿(うが)てるものなんてない。貴方はもう、戦士じゃない」

莫迦(バカ)な……あの時の、子供に……」

「ゲオルグ・ドライター……身柄を拘束する。貴方を裁くのは、アースガルズの法だ」

「この、私が……」

「貴方の戦う理由を肯定も否定もしない。今は座して平伏していてもらう」


 ゲオルグさんは頭を垂れ、抵抗する意思を見せない。

 上から押さえ付けるよりも、立って戦う方が何倍も困難であるということだ。


「アイツがゲオルグの野郎をやりやがった!」

「よっしゃっ! ミュルク軍を全員ブチ殺しちまえ!」

「少し黙りなさい」

「へぐっ!?」


 残った他の連中も所詮(しょせん)は烏合の衆。

 セラとアイリスによって、レジスタンスを含めて全て打ち倒されて行く。後はゲオルグさんの捕縛を周知、疲弊した両勢力をアースガルズ軍に引き渡して、三国でこの都市の行く末を決めればいい。それでこの一件は解決するだろう。


 だが拭えない違和感が心に突き刺さる。


「あまりにも呆気なさ過ぎる。やはり(・・・)か……」


 奴の口ぶりからして、イーサンは俺たちが普通の商人ではないとは気付いていたはず。人質にした子供に構わず、こちらが実力行使に出たことには驚いていたようだが、素直に取り押さえられて終了――なんてことがあるのだろうか。

 目的がミュルクを手に入れて、一国の王になるにせよ、都市全体を用いた集団殺戮(ジェノサイド)にせよ、これだけ用意周到に準備をして始めた計画の最後にしては、あまりにも詰めだけが杜撰(ずさん)極まりない。


「どうして……」


 それにあんな風に絡んで来なければ、俺たちとレジスタンスが明確に敵対するまでにタイムラグが生じていたのは自明の理。現状をひけらかさず、レジスタンス活動に徹するフリでもしておけば、やり様はいくらでもあったはずなのに――。


「う、うわああああぁぁ――ッッ!!!!」


 そんな違和感に苛まれる中、突如として爆炎が天を突く。それと同時、吹き飛んできたジャックが俺の足元に転がった。

 何事かと目を向ければ、聖杖――“テュールゲイルス”手にしたエゼルミア陛下と眼球(・・)が埋め込まれた槍を携えるイーサンによる激しい戦闘が既に始まっている。

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