第102話 偽りの名
レジスタンスとの会合を終え、翌日――。
あの後、イーサンから連中の行動指針と現状に関する大体の情報を聞き、ひとまずの共同戦線を締結することとなった。
まあ、雰囲気が最悪なのは言うまでもないが。
「もう、あんな強引なやり方……」
「お互いの立ち位置を明確にしておく必要がある。俺はそう判断した」
俺とアイリスはレジスタンスの拠点近くで周囲を見回り兼、情報収集をしながら、少しばかりの雑談に花を咲かせていた。
「連中は民衆にとっての正義の味方。でも、協力するのと傘下に入るのでは全く意味が違う。それあの言い様だと、後々になって勇者やニヴルヘイム・アルフヘイムの王と共に戦っただとか、一度は傘下に加えた……なんて吹聴されるかもしれないと思ったからな」
「立場を明確に……って、そういうこと?」
「優先事項第一位……本当に重要なのはお前たちだ。この街の復興じゃない」
「そ、そっか……」
アイリスが途中で顔を赤くしながら髪を弄り始めたことに首を傾げながら、昨日の意図を明らかにする。
「ただの主権争いなら俺たちが関わる必要はないだろう。此処に来たのは、アースガルズと三国同盟の為……。この街の連中には悪いが、あの精度では頼りになりそうもない」
「それであんな質問を?」
「もし連中がこのまま独立国家としてやっていくのだとすれば、外から見た状況は今と大して変わらない。俺たちは正義の味方になりに来たわけじゃないからな」
「もしこの国の人を助けても併合される意思がないなら、アースガルズの取引相手を作るだけってこと?」
「そういうことだ。それにどっちが政権を取ろうが一強体制が続くのなら、いずれ今の状態に戻るだけ。レジスタンスとはいっても、所詮荒くれ者と民間人。為政者の器じゃない」
今の会話が、三国同盟とミュルクの距離感を示している。
俺たちは世界を覆う混沌と脅威に対抗する力を得るついでにこの街の人を助けることはあっても、この街の人の為に命を懸けることはない。
ましてや彼らの下に付いて戦うつもりは毛頭無いということ。
先の会合では、そのスタンスを明確にした。
距離感をなあなあにして揉めるよりはマシだろうし、俺が前に出なければ、セラかエゼルミア陛下、アムラス辺りが同じことをしていただろうことは想像に難くない。
尤も、この街の現状に胸を痛めているアイリスや、勢い余って殴りかかってきたジャックの方が人間としては正しいのかもしれないが――。
「何にせよ、俺たちは貿易鈍化を打ち壊すだけ。いっそ街を空にして、三勢力で統治。新たな砦にでもした方がマシかもな。正直、長居はしたくない」
“霜銀の牙”と名乗った、あのレジスタンス。
昨日の最後の問いに対する答えは、“状況次第”という煮え切らないものだった。故にひとまずの共同戦線。倒すべき相手が同じである為、敵対はしないが味方でもない――という関係性に落ち着いている。
連中は不服そうではあったが、“仲間”にならなかった理由は最早説明するまでもないだろう。今は互いに利益がある。利用し合うだけ。
そうして周囲のミュルク軍の目を欺きながら拠点に帰還した俺たちだったが――。
「上は壊滅寸前だってのに、本当に元気な奴らだ」
「あはは……そうだね」
時刻は正午。
ランチタイム中である事自体に何ら驚きもないが、問題はそのやかましさ。ミュルク軍とは雲泥の差であるとはいえ、巨大な鍋を囲んでの昼食は随分と楽しげに見える。一部を除き――。
「せ、せ、せ、セラティア! 隣、座ってもいいか!?」
「……別に構いませんが」
特に最たるものが、こちら側とレジスタンスが接触している付近。
「ミアお姉さん、ご本読んで!」
「あらあら、読み聞かせる側になるのは初めてね」
「アムラ様ぁ!」
「少し落ち着いてもらいたい!」
「アイリちゃんもお帰りなさい。ご飯……あ、そちらの皆さんは、自分で準備をしてるんだったわね」
「え、ええ、そうですけど……」
俺たちのスタンスは、アイリスとの会話の通り。
一方連中は、昨日の一悶着がありながらも色々都合良く解釈しているようだった。真っすぐ悪意を向けられない分、警戒されるより質が悪いかもしれない。
「よっ、仲が良いねお二人さん!」
「あら、若いっていいわねぇ……」
「う、うっせー! お前ら!」
「というか、基地の中ぐらいそのマント脱いだらどうだ?」
「それは俺たちも大賛成だねぇ」
「アンタらは薄着が見たいだけだろうが!」
「そりゃお前もだろ?」
「う、ぐっ……!?」
響き渡る笑い声。
顔を赤くしているジャックと壁際の令嬢となっていたセラ。そんな二人をくっ付け、囃し立てる様なやり取りが、認識の齟齬を明確に証明している。
因みにセラティアというのは、セラの偽名。
セラティア・グレイスナーデ――今はそう名乗っている。
それは俺たちも同じであり、ヴァン・オルカニア、アイリ・セリオン、ミア・アルヴレム、アムラ・エルフィン――と、素性を隠すべく、それぞれが名を偽ることとなった。
この国に来て以降、前と愛称が変わらないセラ以外の名前を口に出さなくなったのも、そんな理由から。ただアイリスとエゼルミア陛下から、微妙に不機嫌そうな様子で距離を詰められたのはここだけの話――。
「……ヴァン、戻られましたか」
「ん、ああ……まあな」
そんな時、周囲の様子に困惑したような表情を浮かべていたセラは、席を立ってこちらに近づいて来る。
このレジスタンスは良くも悪くも庶民の世界。普通の人々の雰囲気というか、ノリについて行けずに戸惑っていたのだろう。いや、どちらかといえば興味がないというべきか。
何故なら、俺たちは普通の青春を送って来ていないから。
謀略と鮮血と慟哭と――。
そんな闘いの日々しか知らないのだから、普通の人々に混じる事自体が土台無理な話。
一房に結い上げられた蒼銀の髪が揺れるのに釣られて、皆の視線もこちらに向く。
「お前……」
ジャックはセラと俺を見比べると、何やら睨み付けて来た。といっても、敵意を向けられるなんてのは日常茶飯事。こんな殺気ですらない眼差しは、認識するにも値しない。
セラの顔でも見ている方が百倍は建設的だろう。
「見たいものは、見られましたか?」
「いや、直ぐに結論が出せるほど単純じゃないようだ。それとかなり軍が活発に動いているようにも見えたが……」
「――そいつは穏やかじゃねぇな」
「イーサン!?」
「“ヨール作戦”を前倒しにしないといけないかもな。飯食ったら、皆も急いで準備に取り掛かれ! それと昨日の件も関係してるだろうし、お前たちもしっかり頼むぜぇ! 持ち場も考えてあるからな!」
頭領の言葉を聞き、レジスタンスの士気が高まっていく。
一方、俺たちにとっては、馴れ馴れしい奴の言い様は受け入れられる物ではなかった。
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