表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第3章】選考試験と王子様
98/360

3−18 ますます欲しくなりました

 ディアメロの言う通り、2人には婚約者の有無という決定的な差がある。例え、政略的に充てがわれた相手であろうとも。婚約者がある身でミアレットと積極的に関わろうとすれば、周囲によく思われないだろうし……ステフィアの性格からしても、穏便には済まない。その点を踏まえれば、ディアメロの婚約者として連れ帰った方が、面倒も危険も遥かに少ない。

 孤児院の了承を得るという難関を突破する必要もないし、婚約者の神経を逆撫でする心配もない。ディアメロに必要なのは、ミアレット自身の了承だけ。ナルシェラの不自由さによる弊害は、ディアメロには存在しない。


(それでも、ミアレットの心証は僕の方がいいはず……)


 ディアメロは今の今までミアレットを見下してきたのだし、あの鋭い彼女がその機微を見過ごすとも思えない。であれば、まだ自分の方が有利だとナルシェラは内心で、余裕を見つけようとするものの。……すぐさま、所詮は同じ穴の狢である事にも気付いてしまい、肩を落とす。


(いや、大差ないか。……僕が王族である時点で、ミアレットの説得は難しい。僕もディアも、彼女に一緒にいてもらえる利点は持ち合わせていない……。いや、そもそも……)


 そこまで考えて、何よりも重要な前提条件を無視していると気付いて、恥じ入るナルシェラ。こうして、ディアメロと話していると、さもミアレットがどちらかに選ばれるのが当然にも思えてくるが。第一、ミアレットはナルシェラやディアメロとの積極的な交流を望んでいないのだ。


(だからこそ、交流を続けるにはどうすればいいか……を考えていたのだけど)


 やはり、王族は傲慢だ。それなりに、気をつけているつもりではいたけれど。結局はミアレットの気持ちを考慮しないまま、勝手に兄弟で取り合っているこの状況を……傲慢と言わずして、何と言う?


「それはそうと……ディア、本気なのか?」

「何がです?」

「お前は、本気でミアレットを従えるためだけに、婚約者にするつもりなのか……?」


 だが一方で、ナルシェラの養子計画よりは、ディアメロの婚約計画の方が一旦は成就する可能性は高い。残り2日でミアレットとの縁を繋ぎ止めなければ、その先もないのだから……まずはディアメロの計画に乗ってしまうのが、ナルシェラとしても得策だ。


(第一、ディアはミアレットに本気じゃない……。ディアが手駒として加えることを考えている限り、ミアレットの歓心を買うチャンスはいくらでもある)


 少しばかり、卑怯な気もするが。人当たりが良くなったと言えど、ディアメロのプライドの高さは変わらないはず。そんな事を考えながら、ディアメロの「分かりきった返事」を待つナルシェラだったが……。


「いや……今となっては、その限りでもなくなりました。ミアレットを側に置けるのなら、本当に結婚してしまうのも、悪くない。……自由でいられると言う意味では、彼女程に理想的な相手はいないかも」

「なん、だって……?」


 しかし。弟の口から飛び出した答えは……兄が期待していた「分かりきった返事」ではなかった。


(どうしてだ……? 一体……ディアに何が起こったんだ……?)  


 不思議な食事のマナーも、そう。人当たりが柔らかくなったのだって、然り。今宵のディアメロは、ナルシェラがよく知っている彼であって……別人のようにさえ、思える。


「彼女であれば僕の味気ない生活を、誰よりも刺激的に味付けしてくれそうです。ですから……ますます欲しくなりました」


 困惑するナルシェラの耳に、更に信じられない言葉が届く。


「本当は、兄上に譲るつもりだったんですよ? 僕も。でも……このまま兄上に任せていたら、ミアレットは手が届かない場所に行ってしまう。大体……兄上は今日、篭りっきりで何をしていたんです? 自由の残り時間が少ないことくらい、知らないわけじゃないでしょうに」

「……このカントリー・ハウスの持ち主に、カーヴェラ商人会について聞いていた。視察だと言い張るには、街の成り立ちの調査結果も必要だからね」

「あぁ……そういう事でしたか。でしたら、面倒事を押し付けてすみませんでしたね。でも……この貴重な2日間でしなきゃいけない事でもないでしょうに。それに、ミアレットに聞けば教えてくれるんじゃないですか?」

「ミアレットに? それはまた……どうして?」


 カーヴェラ商人会と、ミアレットにどんな関係があると言うのだろう?

 ナルシェラが理解できないと、更なる困惑の表情を見せると……ディアメロは肩を竦めながら、余裕の表情を見せる。悪戯っぽくペロリと舌で唇を濡らしては、ペリドットの瞳を眇めるが……こういう時のディアメロは不気味だと、ナルシェラは身が竦んでしまう。


「兄上は忘れたんですか? 例の噂話」

「例の噂話……?」

「ほら、ミアレットは魔力適性がトップだという話と一緒に、関連する話題が出ていたではないですか。それが故に、彼女は本校の特殊祓魔師にも目をかけられているって。……で、その特殊祓魔師が大物悪魔だとも」

「確かに、そんな話もあったような……?」


 ミアレットは優等生が故に、本校でも指折りの魔術師も注目している有望株。そして、そんな優等生の様子を見に、ご本人様がカーヴェラ分校にやってきたことがあったのだと……ついでにしては、相当に重要な話も上がっていたが。


「相変わらず、兄上は変なところは鈍いのですから……。その悪魔、カーヴェラでは大商人としても有名だって、奴らも言ってたじゃないですか。……ほら、アレが夢中で買い漁っていたでしょ? ボーテ・リットリーゼの化粧品」


 ボーテ・リットリーゼ。かの悪魔が奥様のために開発したとされる、化粧品だが……魔法植物と魔法道具の特殊製法ありきで作られるそれは、他の商会が真似したくても真似できない究極の逸品らしい。亡国の姫君・リットリーゼのように美しくありたい。そんな憧れと共に、ゴラニア中の女性を夢中にしている最上級品としても知られており……ナルシェラも婚約者絡みで、名前くらいは聞いたことがあった。


「あぁ、あの高級化粧品か。確かに、ステフィアが一式揃えていたな……」


 公費を堂々と化粧品に注ぎ込んでいる婚約者の顔を思い出し、ナルシェラはもう渋面を隠しもしないが。しかしながら……そこまで呟いて、ナルシェラもようようディアメロが言わんとしている事も理解した。


「そういうこと、か。そうともなれば……ミアレットは少なくとも、カーヴェラ随一の大商会も知っているのだろうな。いや。この場合は、会長本人を知っているとした方が正しいのか……?」

「そこは、どっちでもいいのでは……? とにかく。ここで重要なのは、ミアレットさえいればカーヴェラの事情も把握できるだろう点です。彼女の伝があれば、大物悪魔とのコネクションも作れるかもしれません」


 いずれにしても、明日はミアレットに会いに行かなければ。会わない事には彼女との縁も、悪魔との縁も、実らない。そんな事を考えながらも、どう言い繕えばミアレットがついて来てくれるか、ナルシェラは考えるが……。


(ディアにはどうも……自信があるようにも見える。……やっぱり、今夜のディアはどこかおかしい。それに……)


 何かを隠している気がする。そして、彼が隠しているのは非常に重要な秘密だろう。それが分からない限り……やはり、ミアレットが「女神の愛し子」かも知れないという事実は伏せておいた方がいいと、ナルシェラは口元をナプキンで拭いながら……予断なく弟を見つめていた。

【登場人物紹介】

・リットリーゼ・シャルロ・カンバラ

旧・カンバラの王女。革命により処刑された王族の1人で、3姉妹の末娘。没年17歳。

両親と姉2名が断頭台の露と消える中、リットリーゼだけは「聖痕持ち」だったが故に、生贄として火炙りに処せられた。

カンバラ王族の中で懺悔を許された唯一の存在とされ、そのせいか「悪女」ではなく、「悲劇の王女」として祭り上げられる傾向がある。

ゴラニア史上最高の美女として名高く、「傾国の美女」と言えばカンバラ王女3姉妹を指し、彼女の名を冠した化粧品はやや強気な価格設定にも関わらず、飛ぶように売れていると言う。

また、美術館・ルルシアナ・ミュージアムにはカンバラ3姉妹の肖像画が所収されており、同美術館最大の目玉として多くの鑑賞者を楽しませている。


【補足】

・聖痕持ち

神界の眷属候補と認められた証として、下腹部に「聖なる文様」つまりは「聖痕」を刻まれた少女のこと。

聖痕の発生は福音と勘違いされがちだが、実際には神界から「生贄として捧げよ」と死刑宣告されたに等しく、当人や家族にしてみれば、これ程までに有り難くないお知らせはないだろう。

生まれた時から聖痕を持つ者もいれば、適齢期になったら浮かび上がる者もいたりと、聖痕の発生時期は様々だが、生贄として捧げられた暁にはしっかりと恩寵があるため、旱魃を鎮めるために湖に沈められたり、鉱脈の増強のために生き埋めにされたりと、彼女達の死に際は悲惨なものが多い。

そのためか、少女達が転生・昇華した存在でもある天使達は、人間に対してややドライな傾向があったりする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ