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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第3章】選考試験と王子様
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3−13 魔法の意外な使い方

 5枠目のペア達の試験が完了した所で、ミアレットとエルシャのペアに位置に着くよう、指示が出される。そうされて、皆が固唾を飲んで見守る中……ミアレットはエルシャに軽く頷くと同時に、先陣を切ってコートへと入っていった。


「……エルシャ、準備はいい? 少し、無理をさせることになると思うけど……」

「うん、大丈夫。きっと、できるはずよ。だから……ミアレットもよろしくね」

「もちろんよ。こうなったら……何がなんでも、やってやるんだから!」


 最も目立つ、中央のコート。先程まで8面に分かれていたコートが集約されたそれは、さながらステージだとミアレットは苦々しく思ってしまうが。そんな少女の憂いなど、些末なことと……彼女達が位置に着くと、すぐさま防御魔法が展開されると同時に、7つの的がプカリと浮かび上がる。


「一気に行くわよ、エルシャ!」

「分かったわ! 清廉の流れを従え、我が手に集えその身を封じん! アクアバインド、ダブルキャストっ!」

「舞い遊ぶ風よ! 乱れ吹く嵐よ、鎖となりて、我が手に集え! したたかに紡げ! ウィンドチェイン、ダブルキャスト!」


 それぞれ2本ずつの拘束魔法を展開し、エルシャは奥の赤い的2つを、ミアレットは青い的を攻撃しに来た赤い的2つをしっかりと絡め取る。


(うん……! やっぱり、赤い的は普通の構築でも抑え込めるわね。だったら……)

「エルシャ! こっちのも捕まえておいて!」


 ウィンドチェインでは、どうしても一時凌ぎの拘束にしかならない。しっかりと捕まえておこうと考えるのなら、アクアバインドに頼る他ないのだが……エルシャが同時に発動できるのは、2本まで。なので、初手で一気に捕獲するとなると、ミアレットもまずは赤い的の動きを封じる必要がある。


「うん……私、頑張る……! 清廉の流れを従え、我が手に集え、その身を封じん……アクアバインド、ダブルキャスト!」


 エルシャが発動した新しいアクアバインドが、ミアレットが一時的に捕まえた的を優しく縛り上げる。そうして、ひとまとめにした所で、ミアレットのウィンドチェインの効果が切れた。しかし……。


「ご、ごめん……ミアレット! 私には4本が限界みたい……! あまり持たないかも……!」


 既に発動した魔法に加え、更にもう2本の追加発動。同種の魔法とは言え、追加発動はエルシャには少々難易度が高い。それでなくとも、エルシャは試験前まではダブルキャストまでしかできなかったので、この追加発動は完全にぶっつけ本番である。それでも……本番でここまでできるのだから、大したものだ。


「上出来よ、エルシャ! 後は……私に任せて! 舞い遊ぶ風よ、乱れ吹く嵐よ! 鎖となりて、我が手に集え……したたかに紡げっ! ウィンドチェイン、シックスキャストッ!」


 2本分の解除をこれ幸いと……ミアレットはありったけの集中力を稼働して、ウィンドチェインの鎖で編んだ檻を作り出した。そうして、器用に6本の鎖で黄色い的を完全に雁字搦めにした上で、逃げる間も与えずに動きを封じることに成功する。


(よし……! 上手くできたわ!)


 鎖を編んで、檻を作る。これはまさに、エルシャの心迷宮でマモンが見せた応用テクニックを参考にしたもの。彼が作り出したのは柔軟さを保ちつつも、強度もしっかりと確保された安全網ではあったが。あの時に魔法の意外な使い方を示されていなければ、黄色い的の逃走を防ぐ……つまり、檻の中に閉じ込めるという発想は生まれなかったに違いない。


(赤と黄色を全部捕まえたけど……どうかな?)


 ミアレットとエルシャが魔法を連発し、青以外の的を捕獲するまで……僅か、10分ほど。そんな彼女達の電光石火の如き捕獲劇に、グロウルや教師達は驚きのあまりに瞠目しているが、やがて彼女達のチャレンジが完了したのだと理解すると、すぐさまコートを覆っていた防御魔法を解除し始める。


(う〜ん……先生達も驚いているし、私達の作戦は想定外だったのかな? でも……)


 あれ程までに無表情だと思われたいた教師達の数名が、どことなく満足げな表情を見せている。その事からしても……おそらく、作戦としては悪くなかっただろうとミアレットは強引に割り切った。


(とにかく、補助魔法はバッチリ使いこなして見せたし。きっと、大丈夫なはず……!)


 その場で合否が出ないため、少しばかり不安が残るものの。作戦通りに魔法を使い、しっかりと目標を遂行できたことに、ミアレットはじんわりと達成感を味わう。


(なんでしょうね……。やり切ったら、途端に疲れたわ……)


 そうして、ようやく吹き出し始めた汗を拭いながら。ミアレットはきちんと作戦を披露できて一安心と、胸を撫で下ろす。もちろん、撤収の道すがらにエルシャを労うことも忘れない。


「それはそうと、エルシャ、凄かったわ!」

「ふふ……なんだか、勢いでできちゃった。まるで、私じゃないみたい。でも……ミアレットも凄いわ。私、一気に6個も同時発動できないよ……」

「いや、あれはウィンドチェインだからできるのよ……。アクアバインドよりも、構築難易度が低い魔法だし……」


 試験が終わっても尚、互いの魔法についてあれやこれやと議論する、ミアレットとエルシャ。だが……構築難易度に話が及んでいる時点で、彼女達の会話は既に初等部の生徒のそれではないと、他の生徒達は及び腰だ。


(ちょ……あれで本当に下級生かよ……)

(追加発動って、そんなに簡単じゃないよな?)

(嘘でしょ? シックスキャストとか、普通じゃないわ……)


 周囲の生徒達が2人の「答え」について、ヒソヒソと困惑気味に言葉を交わしているが。そんな噂話など、達成感で高揚している当人達の耳には、あまり響かないし、届かないのだった。


「静粛に!」


 そして、そんな騒めきがグロウルの一喝でシンと鎮まる。考えてみれば、ここにはグロウルだけではなく、エリート魔術師と思われる教員が揃っている。あまり騒いでいい場面ではないと、理解させられて……生徒達はピリッと緊張感を取り戻した。


「えぇ……コホン。これで、全員の入園選考試験が終了しました。試験結果は3日後にお知らせいたしますので、それまで待つように。それと……明日の終業式をもって、後期の講義も終業となります。明後日からは長期休暇となりますが、試験の結果に関わらず、しっかりと勉強にも励んでくださいね。……では、ここで一旦解散といたします。生徒の皆さんは、退出して結構ですよ。お疲れ様でした」


 最初から最後までピリリとしていたグロウルから、柔らかな労いの言葉と、微笑みが溢れれば。生徒達もようやく安心できると見えて、明後日からは長期休暇に入ることもあり、楽しそうな話題に花を咲かせ始める。しかし……。


「明後日から、お休みかぁ……どうしようかなぁ……」


 ぞろぞろと楽しそうな空気ごと移動し始めた生徒達に混ざって、ミアレットも静々と模擬戦場を後にするが。楽しい予定なんぞ知らぬ存ぜぬと、休み中はどうしようかと真剣に悩んでしまう。


「ミアレットはどこか出かけたり、しないの?」

「うん、特に予定はないかな。本当は、学校の図書室に通いたいんだけど。……お休み中は丸ごと休館になるのよねぇ……」

「そっか。言われれば、確かに……図書館、閉まっちゃうものね」

「そうなのよぅ……! 指南書が初級しかないってなったら、図書館で貪るしかないじゃない……!」

「あはは……なんだか、ミアレットらしいね……」


 知識に貪欲なミアレットに、エルシャはちょっぴり尻込みしてしまうものの。すぐさま、丁度いい「暇つぶし」を思い出したのか、意外な提案を投げてくる。


「あっ、そうだ! だったら、私と一緒に王都に行かない?」

「えっ? 王都って……あの?」


 エルシャの言う王都は多分、グランティアズのことだろう。そして、彼の地は例のキンキラリンプリンスの本拠地だった気がするが……。


「うん。実はグランティアズに、伯母様が住んでいて。夏休みは毎年、お兄様と一緒に遊びに行ってたの……」

「そう、だったんだ……」


 しかし、そのセドリックは失踪中のまま……行方知れず。あまり仲がいい兄妹ではなかったとは言え、エルシャは寂しいのだろう。それに、毎年遊びに行っていたのが、急に行かなくなったのでは……伯母様に余計な心配をさせてしまう、という配慮もあるらしい。


「だったら、いいわよ。ティデル先生達にも相談しないといけないけど……私、冗談抜きで暇だし。先生達からOKをもらえたら、ご一緒しようかな」

「本当⁉︎」


 なんとなく、王都という立地に嫌な予感がしたものの。親友に寂しい思いをさせるのは、どうも忍びない。それに……ミアレットも少しばかり、この世界の旅行には興味がある。


(考えたら、カーヴェラから出たこと、なかったのよね。折角だし、他の街に行ってみるのも、いいかも)


 それでなくとも、生前の世界では旅行を兼ねたライブに行き損ねたのだ。であれば、旅行の1つや2つ、楽しむのも悪くないと……その時のミアレットはあっけらかんと考えていた。

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