2−2 気安く呼ばないでくれます?
「さっきの話だと……」
「やっぱり、2人で協力した方が良さそうね」
「ミアレットも、そう思う?」
午前中の授業を乗り越えて。今日も今日とてエルシャと2人、中庭でランチと洒落込むミアレット。食事をしながらのお喋りは、ちょっぴりお行儀が悪いと思いつつ。……試験に向けた特別カリキュラムの内容について、ここぞとばかりに話し込む。
「試験内容は秘密みたいだし、状況によっては片方だけパスもあるみたいだけど……先生の感じからして、2人で力を合わせることを重視しているように思えたわ」
「……何となくだけど、私もそう思う。先生もペアでたくさん話し合うようにって、言っていたし。……多分、1人で頑張ってもダメな気がする」
試験の内容が分からない以上、作戦を練る事もできないのだが。それでも、ミアレットは互いの得意分野を確認しておいた方がいいと、考える。
(多分……魔法を上手く使えるか以上に、どんな風に魔法を使うのかが、ポイントな気がする)
午前中の授業は流石に「特別カリキュラム」と銘打っただけあって、より実践的な内容にも踏み込み始めていた。今までは魔法を扱う上での「心得」や「法則」を丁寧に繰り返しなぞる授業が多かったが。いよいよ、エレメントごとで授業が分かれ始めた時点で、本格的に魔法を「使いこなす」ための授業に切り替わったと言っていい。エルシャとはエレメントが違うため、3限目は異なる授業を受けることになり、当然ながらミアレットはエルシャが受講した内容は知る由もないが。風属性専用の授業はやはり、補助魔法中心の内容となっていた事を考えても……選考試験では、エレメントの強みを活かす方へ舵を切るべきか。
それでなくても、マモンも言っていたではないか。「味方への魔法を無効化する法則は今のところ、出会したこともない」と。それはつまり、深魔討伐のエキスパートを育てようと思った時、攻撃魔法よりも補助魔法を熟知していることに重点を置いている可能性が高い事を示している。実際に、心迷宮攻略の道中……マモンは補助魔法を使いこそすれ、攻撃魔法は1回も使っていない。
「あなたが、ミアレット? それに……まぁ、そっちはラゴラスの落ちこぼれじゃない」
「えっ?」
あれやこれやと、ミアレットが頭の中で忙しなく、試験の傾向について考えていると。不意に前方から、嫌味な感じの声が響いてくる。そうしてふと、視線を上げれば。これまた、会場を間違えたのでしょうかと言いたくなるような、煌びやかな雰囲気の女子生徒が立っていた。
(えっと……こいつ、誰? しかも、落ちこぼれって……もしかして、エルシャの事かしら?)
あからさまに良くない呼び名に、ミアレットが不愉快に思いつつも、エルシャを窺い見れば。彼女の怯えた表情を見る限り……少なくとも、目の前の高飛車そうな女子生徒はエルシャの知り合いのようだ。
「ねぇ、エルシャ。……この変な奴、あなたの知り合い?」
「えっ?」
「なっ⁉︎」
エルシャがすぐさま悲しそうな顔をしたのにも、咄嗟に気付いて。ミアレットはターゲットを自分にすり替えてしまおうと、敢えて失礼に振る舞う。雰囲気からするに、相手はエルシャと同格以上の貴族なのだろう。……このテの相手は軽々しく扱うと、面白い程に食ってかかってくるのだから、滑稽だ。
「いや、だって……自己紹介もしてこない相手に、呼び捨てにされる謂れはないんですけどー。どこの誰だか、知りませんが。気安く呼ばないでくれます?」
「なんですって⁉︎ 折角、私がわざわざ話しかけてあげたって言うのに……!」
「えっと……もしかして、あなたは勘違いしているタイプの方? 誰だか知らない相手に、上から目線で話しかけられても、嬉しいどころか不愉快なだけじゃないですか? 普通……」
「はぁッ⁉︎」
今までクラス内でも散々「孤児上がり」等と、下らない理由で馬鹿にされてきた身である。華々しいお家柄はないかも知れないが、面倒なしがらみもない。その上で、ミアレットを取り巻く「あまりに狭い世間様(女神様含む)」の存在感を考えれば……同じ生徒相手に、過剰な忖度をする必要性もない。
「ちょ、ちょっと、ミアレット!」
「どしたの、エルシャ」
「今のはちょっと不味い……って、あっ。……そうでもないか。ミアレットにしてみれば、相手が貴族かどうかは関係ないもんね……」
自身も同じような状況で、ミアレットにやり込められたことを思い出したのだろう。慌てた様子をすぐに引っ込めると、エルシャが改めて目の前の女子生徒について教えてくれる。
「この人は、アンジェレット・ヒューレックさんって、言って。……一応、うちと同じ伯爵で、そんでもって……お兄様と一緒に、試験を受けた事もあったみたいなんだけど……」
ラゴラス家と同じ伯爵家という時点で、いわゆるライバル関係なのだろうと、すぐさま理解するミアレット。その上で、セドリックが本校に通っていたという事実と、エルシャの話からするに……前回の入園選考試験はアンジェレットの方だけ、落選したのだ。
(そういうこと……。要するに、セドリックに出し抜かれたのね、この人。そんでもって……学年も違うから、今まで会わなかっただけかぁ……。この調子だったら、エルシャ以上に「孤児上がり」って馬鹿にしてきそうだわぁ……)
魔法学園の分校では、明確な学年は存在しない。だが、在籍年数である程度のクラス分けはされており、初等部と中等部とにそれとなく分かれている。なお、初等部と中等部は教室がある建物自体が異なるため、基本的に生徒の行き来はない。それなのに、中等部に在籍しているはずのアンジェレットが初等部棟の中庭にいるという事は……。
「えっと……もしかして、わざわざ嫌味を言うためだけに、こんな所まで来たんですか?」
「ちょ、ちょっと、違うわよ! 私はただ、親切心で試験の心構えを教えてあげると同時に、ペアを組んであげようと思って……」
「……あ、なるほど。親切を装って、私を利用しようって魂胆ですね」
「なっ……!」
要するに、そういう事である。
前回の試験で自分だけパスできなかったから、アンジェレットは焦っているのだ。そんな折、どこかでミアレットの噂を聞きつけて、「こんな所まで」来たのだろう。セドリックがいつか言っていた通り、ミアレットは押しも押されぬ「先生方の注目の的」。……同じクラスの生徒だけではなく、上級生までスカウトに来るなんて思ってもいなかったが。考えれば、散々目立つマモンと一緒に登校した事もあったし、ミアレットの噂も広まっている方が自然なのかも知れない。
(うわぁ……これはまた、相当の尾鰭がくっついてそうだなぁ……。超、メンドい……)
【登場人物紹介】
・アンジェレット・ヒューレック(風属性)
オフィーリア魔法学園・カーヴェラ分校に通う生徒。16歳。
カーヴェラの貴族・ヒューレック家の次女。
大貴族に名を連ねてはいるが、ヒューレック家は霊樹戦役の後も魔力低下の一途を辿っており、天才・セドリックを輩出したラゴラス家との差が広がりつつある。
長女・シャルレットに魔力適性が全くなかった事もあり、家族の期待を一身に受ける状況ではあるが……残念な事に、アンジェレットの魔力適性もあまり高くない。




