8−30 致命的に食い違っている
機械仕掛けの天使は姿こそ壮麗だが、溢れ出す殺気は禍々しい。宿主……モリリンの気質もしっかり受け継いだ手当たり次第の攻撃には、計画性はない模様。機械的で規律正しいとされている機神族にしては、滑らかで乱暴な動きがダイナミックに躍動する。
「排除します、排除します! 王妃の座は私の物! 邪魔させない!」
「王妃の座って。あっ、これはもしかして……」
けたたましいエラー音と一緒に吐かれるのは、モリリンの強烈な野望らしき妄言。よくよく見れば、王妃になりきった気分だけ先行しているのか、彼女の頭にはちょこんとティアラが載っている。
「深魔になってまで、王妃様になりたいのかなぁ。私には分からないや……」
なんだか、虚しい。本当に虚しい。
ミアレットはウィンドブルームに跨り、「彼女」の攻撃を避けながら、救出のキッカケを探ろうとしているが。機械仕掛けの翼を震わせ、鋭利なナイフのように羽を飛ばしてくる「彼女」に道理や言葉は通じない。
……それもそうだろう。モリリンにとって、ミアレットは最大の障害なのだ。ミアレットに敵意や野心がなくとも、肝心の王子様の心が彼女に傾いている時点で、モリリンが王妃になれる可能性は極めて低い。だからこそ、魔法武闘会を企画し、ミアレットよりも自分が優れているとアピールするつもりだったのに。……現実世界側ではその野望は潰えているし、そもそも王子様達とモリリン達とで「王妃の条件」が致命的に食い違っている以上、可能性は最初からゼロであった。
「排除します、排除します……恋の邪魔者、排除しますッ!」
「いや、私は恋の邪魔なんて、してないし……」
だが、当のモリリンは深層心理まで玉の輿一色で染まっている様子。ミアレットの方こそを悪役に仕立て上げ、攻撃を止めようともしない。
「くっ……! ここで負けるわけにはいかないの! だから……食らえッ! スターダスト・レインボー!」
逆恨みだろうと、八つ当たりだろうと。いずれにしても、羽のナイフで滅多斬りはご勘弁願いたい。ウィンドブルームの飛行能力では、飛び狂う羽の攻撃の回避は難しいと判断し、素敵なポーズの必殺技でなんとか受け流す。
「素敵です、ミア! 痺れますわね!」
なお……少し離れた所から、ステラの歓声が上がった気がしたが。ミアレットは敢えて気にしない事にした。
「ひゃぁ⁉︎(って、いけない、いけない……まだ、攻撃は続いているわ)」
第一陣は無事にやり過ごせたようだが。よろしくない事に、彼女の羽は無尽蔵に生えてくるらしい。「ガシャン」とこれまたいかにもな嫌な音を響かせながら、羽の刃が装填され、次々に乱雑な攻撃を放つ。幸いにも、ウィンドブルームが優秀なため、まだ大きな被害は出ていないが……このまま消耗戦を続けるのは、限界もあるというもの。
(こっちも魔法道具を使っている以上、消耗はないけど……。できるだけ、コズミックワンドは使いたくないんだよなぁ。しかも、ちょっと疲れてきちゃった……)
次はどんな凶暴なクラスにさせられるのか、明後日の方向に戦慄しつつ。機械仕掛けの天使相手の戦闘は魔力の消費はないが、体力の消費は確実にあるものだから、このままではジリ貧だと焦りも募らせる。モリリンをきちんと救済するには、ただ倒すだけでは目標達成できない事もあり、様子見に徹しているものの……当然ながら、状況はよろしくない。
「うぁ、今度は何をするつもり……?」
しかも、相手は様子見なんぞする義理はないと、本気でこちらを抹殺しようと襲いかかってくる。羽による弾幕攻撃の効果が薄いと判断するや否や、手元を何やら砲撃のように変化させると、すかさずミアレットに向け始めた。
「エネルギー充填率・120%……発射!」
「う、嘘ぉ……!」
そうして放たれるのは、強烈な閃光の束。これはどう頑張っても、ウィンドブルームで避けられる攻撃ではないだろう。ミアレットがアワアワと慌てたところで、効果的な回避策は思い浮かばない。
「堅牢な鋼鉄の決意を知れ、我は純潔の庇護者なり! クリスタルウォール! ふぅ……なかなかに危なっかしいですね。大丈夫ですか、ミアレット」
生徒が慌てふためいているのも、意に介さず。アケーディアがしっかりと防御魔法を展開し、アッサリと攻撃を防いだ。しかし……何事もなく涼しい顔で「危なっかしい」と言われたらば、ミアレットとしては文句の1つや2つ、言いたくもなる。
「大丈夫も何も、これ以上は無理ですってぇ! モリリンさんを助ける手がかり、ゼロですし! どうすれば良いんですかぁ⁉︎」
「ふむ。だったら、やはり全てを破壊……」
「それをしたくないから、頑張っているんでしょうに! もぅ!」
「……そう怒らないで下さいよ。そちらに関しては、ステラが解析してくれてますから」
「へっ?」
防御は任せろと、次々と的確に防御魔法を繰り出しながら、アケーディアが視線でステラを示す。そうされて、ミアレットもチラリと視線を下にずらせば……少し離れた場所で、ステラがカタカタと駆動音を響かせているのが目に入った。
「えーと……ステラさん、何しているんです?」
「漆黒ミトラのスキャニングをしていますわ、ミア。……魂の癒着ポイントの特定処理をしていますので、もう少し持ち堪えてください」
ステラの言葉からするに、「彼女」は漆黒ミトラと言うらしい。ミトラは機神族の一種だそうで、かつては上級精霊に分類されていた、麗しい機神兵だったそうな。
「あー……確かに、形だけは綺麗かもぉ……。でも、漆黒になっている時点で、神々しさゼロだわぁ……」
中身はドロドロのベロンベロン、外見は野望はダダ漏れの真っ黒。
心迷宮で出会ってなければ、ミトラは本来、美しい機神族なのだろう。上級精霊である時点で、実力もあったに違いない。だが、ミアレットが対峙しているそれは……野心という漆黒でコーティングされた、歪で醜い機械人形でしかなかった。




