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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第8章】魔法武闘会、ついに開催です
359/360

8−29 非常に良くない傾向です

 何気なくたどり着いてしまった、最奥の部屋。ステラと同じように、元は上等品だったと思われるソファに身を預ける彼女は、まだお目覚めではない様子。静謐な空気感を保ちながら、頑なに瞼を開こうとしない。


「うわぁ……。これ……なんの冗談?」


 あまりに静かな空気は、身に刺さる。嫌な予感を募らせ、ミアレットが「特殊任務実績記録」を確認すれば。……そこには、色々な意味で絶望的な内容が記載されていた。


***

迷宮性質:魔法攻撃遮断、トラップパニック

深度:★★★★★★★

***


(レベルが上がっているのも、イヤな感じだけど……。魔法攻撃遮断って、つまり……)


 要するに、武器しか攻撃手段がないと言う意味である。マモンとご一緒したエルシャの心迷宮が、まさにこの性質を持っていたが。あの時は物理攻撃のスペシャリストが同伴だったため、ミアレット自身が苦労する場面はなかった。しかし、今回はメンバー構成も大幅に異なるため、最強ガイド込みのイージーモードとは行かないだろう。


(マモン先生はいないし……。アケーディア先生の武器は、漆黒霊獣には使えないって話だったし……)


 そうともなれば。自動的に、攻撃役が自分に回ってくるのでは?

 更なるバッドな展開を予想できてしまい、ミアレットは下がりっぱなしの肩を更に落とす。これは間違いなく……武器の習熟度が上がってしまう危機である。


「こんな所に、もう1体の機神族……いや、違いますか。この雰囲気は間違いなく、漆黒霊獣のそれですね。なるほど、なるほど。……モリリンの深層意識は集大成を機神族に求めましたか」


 尚も興味深いと、顎に手をやるアケーディアであったが。すぐさま、「これは非常に良くない傾向です」と眉間に皺を寄せ始めた。


「えっと、アケーディア先生。どんな感じで、良くないんです?」

「……漆黒霊獣の出現傾向は大まかに、2種類に分けられましてね。対象者の心理をそのまま動物に当てはめただけの単純なものと、対象者の心理を別の何かが食い潰し、顕在化したものがあるのです。そして、精霊の姿を模した漆黒霊獣の場合……高確率で後者の可能性が高い」


 そして、ため息混じりでアケーディアが語ることには。前者……動物姿の漆黒霊獣はただ倒せばよく、跡形もなく殲滅させても宿主の魂に傷がつく事はない。だが、後者……精霊の形を模している漆黒霊獣の場合は、宿主の魂さえも漆黒霊獣そのものに癒着している傾向が見られ、きちんと鎮められなければ宿主を精神的に救うことが難しくなるのだと言う。


(そう言えば……エルシャやクラウディオ君のお母さんは、そっちだったかも。エルシャの時は、魂の回収を手伝ったっけ……)


 そして、ミランダは言わずもがな。漆黒ニーズヘグによって魂を食い尽くされ、帰らぬ人となっている。彼女に関しては、それ以外の要因(魔力適性ナシ)もあったようだが。一応は「正しく深魔を鎮められた」証でもある深魔の破片が出現していた時点で、ミランダの心迷宮は後腐れもなくクリアできた扱いだったのだろう。


(えーと、だとすると……アンジェの心迷宮はどのパターンになるんだろう? 別枠でシャルレットさんがいたから、普通の心迷宮ではない気がする……)


 ……ミアレットはまだ、知らない事であるが。アンジェの深魔はいわゆる「マルチプル」である。しかしながら、一般的な「マルチプル」の深魔発生の変遷とされる「共通の敵を持ち、結合する」を辿っておらず、難易度はそこまで飛躍せずに済んでいた。

 因みに、アンジェのみの心迷宮だった場合は、漆黒ショウジョウが漆黒霊獣として出現予定だったのだが……シャルレットが出しゃばったため、例のゴリラはボスの座を奪われている。アンジェの心迷宮で「深魔の破片」が具現化しなかったのは、探索者の手で漆黒霊獣を鎮めたと判定されなかったからだ。


「あぁ……本当に、面倒臭い。モリリンなんぞを助けるために、苦労させられるなんて……」

「そこは面倒臭がらないでくださいよ……。魂を呼ぶとかだったら、私も手伝えますし」

「その程度で済めばいいのですけどね。罠の傾向からしても、モリリンの警戒心は薄れていないでしょう。僕らは完璧に、彼女の心の敵なのです。……素直に、従うとも思えません」


 協力者なしの探索は、困難を極める。今回は「隠し部屋」を発見し、ステラの同行があったから、罠も回避できたものの。隠し部屋に寄っていなければ、相当数の罠と一緒に、魔物の敵襲もくぐり抜けなければならなかった。それなのに、ここまで無傷で到達できたとあらば。もうひと頑張りと、行きたい所である。


「ステラさんのおかげで、まだモリリンさんは諦めなくていいって事ですよね? だったら……頑張るしか、ないじゃないですか」

「そうは言いましても……。僕としては、そこまでして助けてやる義理もないんですよ。ここはやはり、トワイライトアヴェンジャーでサッサと終わらせて……」

「……ナルシェラ様に言いつけますよ。副学園長先生はモリリンさんを見捨てるくらい、冷酷だったって。いくら超温和なナルシェラ様でも、アケーディア先生に失望するかもしれませんね?」

「ヴッ……卑怯ですよ、ミアレット。そんな事をされたら……」


 ナルシェラだけではなく、ディアメロも離れていくだろうな、きっと。

 なんだかんだで、プリンス兄弟はいい子である。ディアメロは若干、斜に構えがちではあるが……お兄ちゃんっ子(軽度のブラコン)である彼のこと。ナルシェラがそっぽを向いたら、同じ方向にプイッとしそうだ。そんなことになったらば、それぞれにレアケースで貴重な研究対象を一気に失いかねない。


「あぁ、もう! 分かりました、分かりましたよ! 僕もきちんと対応することにします! その代わり……君も分かっていますね、ミアレット!」

「はいはい、分かっていますって。私もちゃんと、コズミックワンドで戦闘に参加しますよぅ……」

「よろしい! 魔法攻撃遮断ともなれば、僕にマトモな攻撃手段はありません。漆黒霊獣相手に、あの武器は使わない方がいいでしょうし……攻撃は任せましたからね」

「はーい……」


 王子様という研究対象をぶら下げられて。仕方なくやる気を出した副学園長先生を尻目に、ミアレットはきちんと任務を遂行しましょうと、ジリリと人形へと近づいてみる。すると……。


「特定範囲内に、侵入者を確認。直ちに、排除いたします」

「やっぱり、そうなるわよね……! 排除されて、たまるもんですか! こうなったら、やってやるわ!」


 あと4〜5メートルという所で人形の瞳が開き、カッと眩い光を放つ。そうして見開かれた彼女の双眸は、ステラの優美な紺碧とは対照的に……有り余る敵意を滲ませた、刺々しい真紅を示していた。

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