8−27 自由意志を持つオートマタ(まだ魔法道具扱い)
「最短ルートはこちらですよ、アケーディア」
「おや、こんな所に階段もあったのですね。……気付きませんでした」
ステラの保管部屋に埋もれるようにくっついていた、オンボロな木の扉。その扉をステラが躊躇なく開けてみれば。ほんのりゴシック調の螺旋階段が、トグロを巻いているのが目に入る。
「ステラさん、もしかして……この屋敷の間取りとか、分かったりするんです?」
「分かるというよりは、感じ取っているが正しいですね。私はまだ心迷宮のギミックである以上、多少の情報は流れてくるのですよ」
的確なガイドに、ミアレットが当然の疑問を挟めば。淀みなく、ステラから滑らかな答えが返ってくる。
彼女は起動した時から、自身が「心迷宮のギミック」である事を理解していたようで……外の世界に出るためには、しっかりと魔法道具としてのお役目も果たさねばと思っている様子。さも当然と道案内もしてくれるのだから、頼もしい。
「ここから登れそうですね。しかし、この感じは……この上はまた、別の空間でしょうか。下手に法則変化を挟まなければいいのですが」
「どうでしょうね? 少なくとも、トラップパニックは変わらないと思いますよ」
そうして、先陣を切って階段を登るアケーディアにも、ステラがきちんと応じるものの。階段の先も罠だらけなのは変わらない事に、ミアレットは最後尾でひっそりと落胆していた。
(アケーディア先生にとって、罠は回避するものじゃなくて、破壊するものなんだよなぁ……。大暴れしないといいんだけど……)
不安要素がダンジョン側の要素ではなく、身内側の要素なのは、これ如何に。しかも、階段を登り切った先に広がるのは、いかにもな雰囲気の暗い廊下。余計なホラーな気分も、しっかりと盛り上げてくる。
「うあぁぁ……。なーんか、お化けが出そう……」
某夢と魔法の王国に、こんな雰囲気のアトラクションがあったような。
ミアレットは生前の思い出を引っ張り出しながら、ロケーションが素敵なテーマパークではないことも思い出し、肩を落とす。しかも……。
「お化けはいないかもですけど、しっかりモンスターはいるじゃないですかぁ……」
暗がりの奥で何かが光っているので、じっと目を凝らせば。フクロウを模した魔物の双眸が、廊下の奥からこちらを見返しているのにも気づく。……光の数からしても、相当数の魔物が屯しているようで、アトラクションに危険なスパイスを振りまこうと、待ち構えているではないか。
(こんな演出はいらないって……。罠だけでも、刺激タップリなのに……!)
……あいにくと、こちらのアトラクションはお客様の安全性は一切考慮していない。安全第一なんて言葉は、ダンジョンには通用しないのだ。
「ミア、そこの床には罠があります。それと、右手に注意を。吹き矢が仕込まれています」
「そ、そうなんです? もぅ! 罠の上にモンスターなんて、最悪ぅ……!」
「これでは少々、戦いにくいですね。……罠は私がなんとか致しましょう。ミアは少し、後ろに下がって頂戴」
なんとか致すって、どうやって……と、ミアレットが問いかける間もなく。ステラは少しばかり先に進むと、左側の壁にそっと手を添える。そうして、先程までの生々しさとは一転。今度はカチカチと規則正しい機械音と一緒に、電子音声らしきものを響かせ始めた。
「解析対象:プロトコルバージョン v1 【RFC D224、RFC D2287】 。
Get Response、許可。
INFORM request、実施。ノーマルグリーン、認識。
トラップリクエスト、許可。
ポーリング定期レポート、正常受信。
トラップ回避モード、起動。ステータス:ノーマルグリーン。
トラップ回避モード、正常起動・高速処理を実施。
同フロアのトラップ無効化、実施……エラーなし。
トラップを強制シャットダウン……成功」
なんとなく、聞いたことがあるような、ないような。ステラが怒涛の勢いで呟くそれは、何かのプログラミング言語のようだが……。
「これは……機神語ですね」
「機神語?」
「えぇ。機神族は、霊樹・ローレライが持つプロトコル規律によって、稼働する特殊な精霊でもありましてね。基本的にはローレライの演算処理に従って稼働していたかと。しかし、ステラは自由意志を持ったスタンドアロンの状態ですので……非常に希少な存在と言えるでしょう」
アケーディアの解説によれば、ステラが綿々と囁いていたのは機神語……機神族の固有言語であるらしい。機神族はかなりシステマチックな精霊であり、彼らの活動は相当部分で受動的なのだそうで。通常であれば、感情の起伏は緩やかどころか、なきに等しいと定義されている。
(アケーディア先生……それで、さっきはあんな意地悪をしたのかしら?)
霊樹・ローレライが消失した今となっては、機神族自体が非常に貴重な存在である。そんな貴重な機神族にあって、更に貴重な自由意志を持つオートマタ(まだ魔法道具扱い)なステラは研究者肌のアケーディアにとって、興味と好奇心を刺激される存在でもあるのだろう。彼女に向けられているアケーディアの笑顔が妙にドス黒い事に……ミアレットは別の意味で、震えを覚えていた。
「終わりましたよ。これで、このフロアの罠は無効化されたはずです」
「それは助かりますね。でしたらば……ミアレット、行って来なさい」
「えっ? 私がやる感じなんです……?」
「当然でしょう? 僕は先の戦闘で疲れているのです。あの程度の魔物であれば、君の魔法武器で殲滅できるでしょうし、少しは休ませてください」
「えぇぇぇ……?」
疲れる程、大暴れしなければいいじゃないか。勝手に廃墟を拵えておいて、何を言っているんだ。
副学園長先生の横暴に内心でブー垂れても、状況が改善するはずもなし。本当はできる限り、凶悪なステッキは使いたくないのだけれど……魔物の団体さんを駆逐できる程、ミアレットはアトラクションのお掃除には慣れていない。ここは素直にマジカルなステッキ(物理で殴るヤツ)に頼るしかないと、再びトホホと肩を落とした。




