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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第8章】魔法武闘会、ついに開催です
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8−25 売ることさえできないガラクタ

「さて。この名無しの淑女はエンディングドレスを着ている時点で、故人になっているかと思われます。要するに、この肖像画は遺影にもなりますか」


 アケーディアの推察では、死装束を纏っているらしい、肖像画の淑女。アケーディアの言う通り、(生前の姿をモデルにしているのだろうが)この肖像画はニアイコールで遺影と考えて良さそうか。しかし、またも妙な引っ掛かりを覚えて、「はて?」と首を傾げてしまうミアレット。この隠し部屋は雑然と分からない事が多すぎて、ミアレットの首は大忙しだ。


「えーと、つまり……この絵を描いた人は、遺影かも知れない肖像画をわざと綺麗に描かなかったって事です?」

「そうなりますね。衣装の皺や陰影の加減、パースの技巧を見ても、画家の腕は確かだろうと思います。これは明らかに、素人の筆致ではないでしょうし」


 言われてみれば、確かに。絵はおろか、イラストさえ描いた事がないミアレットではあるものの。この肖像画はプロの仕業だろうと素人さえにも納得させる、確かな技術が息づいている。……現に、優れた技巧のおかげで、淑女の生々しい視線は皮肉なまでの迫力を放っていた。


「サイラック家、色んな人から相当に恨みを買ってたんですかね……。きっと、この画家さんはファラードの人じゃない気がしますし……」


 もし仮に、この絵を描いた画家がファラード家の人間だったらば。魔法道具ではなく、美術で大成している気がする。そちらに舵を切らなかったということは……肖像画を描いた画家はファラード家の人間ではないのだろう。


「でしょうね。それでなくとも、リンドヘイム聖教絡みの家柄ともなれば、世間では嫌われ者ですし。特に、ローヴェルズはアーチェッタと隣接している事もあり、ご迷惑を被る国民が後を断ちません。強奪に改宗の強要にと、彼らの暴挙には枚挙に遑がない」


《布教活動と称して、強制的に引き込もうとする暴徒が絶えないんだ》

《国民を巻き込むもんだから……騎士団も対応に苦労している》


 ディアメロもそんな事を言っていたっけ。騎士団の苦労は大臣による強硬な軍縮のせいでもあったみたいだが、軍縮で浮いた経費をリンドヘイムに回していた可能性を考えると、サイラック諸共、嫌われ者になるのは仕方がないのかも知れない。


「とは言え、ここで君と僕とで話していても、予想の域は出ませんか。肖像画と人形のディテールで何となく、事情は理解できますけれど……」

「えと、事情って……サイラック家にファラード家が食い潰されたって話です?」

「そうですね。……まぁ、折角です。与太話の一環で、臆面もなく予想を述べさせて頂きましょうか。まず、この肖像画は額縁の劣化加減を見ても、それなりに古い物だと推察します」


 心迷宮内の調度なので、全てが現実に即しているわけではないけれど。そんな注釈を加えつつ、アケーディアは「古い肖像画」から考え得ることを、時代背景も絡めて淡々と述べていく。


「僕もあまり、美術には詳しくないのですが……確か、魔力崩壊期と霊樹戦役直後までは、死者の姿をあたかも生きているかのように肖像として残す傾向があったかと。ルルシアナ美術館に所収されている、“カンバラ3姉妹の肖像画”も彼女達が処刑される直前に描かれた物だと聞き及んでいますし……王族や貴族はこぞって、喪服や死装束で人々の記憶に残りたがったようですね」


 しかし魔力が復活し、【画像記録】アプリケーションにも見られるように、見たままの映像や画像を記録できるようになった現代では、死装束の肖像画は不要となりつつある。遺影だって、手間と製作費がかかる絵画ではなく、手軽な写真で事足りるのだ。わざわざ、画家に頼む必要もない。


「なので、この淑女が生きていたのは、貴族達が魔力適性獲得に躍起になっている、かつ死装束姿の肖像画のニーズがあった時代……という事になるので、霊樹戦役直後と考えるのが自然でしょうか」


 その時代であれば、サイラック家もまだ魔力適性を獲得(横取り)していなかったと考えられる。それでなくとも、リンドへイム聖教は信者数が激減し、追い込まれてもいたのだから……サイラック家ががむしゃらになるのは、無理もない事だった。


「霊樹戦役直後ですかぁ。……そっか。貴族だったとしても、魔力を確実に得られる訳ではないんですよね」

「その通りです。……いくら家柄を誇ろうとも、魔力適性を獲得できるかどうかは、別問題です」


 霊樹戦役直後に魔力が復活したと同時に、貴族の復権も進んでいったが……爵位が高い貴族から順当に魔力を得られるわけではない。しかしながら、家格が高い貴族は「お金持ち」である可能性だけは高い。そして、お金はあるけれど魔力に恵まれなかった貴族がすることと言えば……。


「お家柄が第一の貴族が、財力に物を言わせて魔力適性を獲得しようとするのは、目に見えてますね。そして、この淑女は没落の一途を辿っていたファラード家に、一方的な取引を持ちかけた」

「一方的な取引?」


 お金はあるけど、魔力適性に恵まれなかったサイラック家。そして、技術はあるけど、時代の波に適合できなかったファラード家。サイラック家が一応はローヴェルズの大臣であったことを考えても、両者の力関係は明白だった。


「……おそらく、この人形を譲れと迫ったのでしょうね。しかしながら、これはファラード家の所有物でもなかった。没落貴族のファラード家に必要なのは、まず第一に金銭のはず。これが彼らの所有物だったらば、真っ先に手放しているはずです」

「うーん……そうかも知れませんけど、きっとこの人形は今もファラード家にあるんですよね? 結局、人形は売られずに済んだってことでしょうか? 元の持ち主さんはどうしたんです?」

「多分ですが……無茶な要求に対抗するため、ファラード家は一計を講じる事にしたのです。サイラック家の要望は魔力獲得であって、人形を所有することではありません。ですから、抜け殻の持ち主には所定通りメンテナンスを提供し、水面下ではサイラックの要望にも応じるフリをして……人形を正式に所有しようと、目論んだ」

「へぇっ? それってつまり?」

「なに、簡単な事です。サイラックを焚き付け、本来の持ち主を亡き者にしてしまえば宜しい。……強行路線を突っ走っていたリンドヘイムにしてみれば、その程度は造作もありません」

「それ、人形の持ち主が一番可哀想なんじゃ……」


 ミアレットの感想は至極当然のこと。アケーディアも「そうですね」と力なく微笑み、カツカツと人形へ歩み寄る。

 もし仮に、アケーディアの推察が正しいのならば。ファラード家は貴重な機神族の抜け殻を獲得した事になる。だが、実際には金欠のファラード家は人形を売りに出さなかった。……いや、売りに出せなくなったのだ。


「……さて、まんまとサイラックと人形の持ち主を出し抜いたファラード家ですが。彼らにも予想だにしなかった事態が起こります」

「予想しなかった事態?」

「えぇ。……成功してしまったんですよ、手術が。だから、この人形は稼働させられる事もなく、保管されているのです。稼働させたらば最後、淑女の魂が赴くまま、好き勝手に動き回るに違いありません」


 機神族の抜け殻は、抜け殻だからこそ価値がある。魂が定着してしまった抜け殻には、魔法道具としての価値はない。しかも、勝手に動くだけではなく、中身は嫌われ者のサイラック家ともなれば。……もはや、呪いの人形である。


「どうせ、最初から成功率が低い手術です。わざわざ悪意のある遺影を残し、淑女を死んだ事にしたとて、訝しがられる事もありません。しかし、サイラック家は淑女が亡くなった事に対する賠償金を要求したのでしょう。しかも、下手に手術が成功してしまったため、機神族の抜け殻は資産価値を失った。……結局、ファラード家は売ることさえできないガラクタを、秘密や借金と一緒に抱え込む事になったのです」


 モリリンがどこまで知っているのかは、定かではないが。心迷宮に存在している時点で、モリリンも見たことはあるのだろう……この人形がひっそりと保管されているのを。


「いずれにしても、隠し部屋の収穫としては十分でしょうか。憶測の域は出ないと言えど、陰鬱な空気からしても、ファラード家には相当の闇がある事は分かりました。……ふふっ、サッサと心迷宮を攻略してしまいましょう。外に出たらば、ファラード家を徹底的に洗わねばなりません」

「うわぁ……」


 最後に抜かりなく、人形を立たせつつ……アケーディアがニヤリとほくそ笑む。どうやら、アケーディアは人形自体も持ち帰るつもりと見えて、「稼働を試しましょう」と恐ろしい事をおっしゃるではないか。


「えと、アケーディア先生? それ……動かして大丈夫なんです?」

「大丈夫ですよ。動かしてみて、駄作だったらば壊せばいいだけの話です」

「えぇぇ……」


 しかも、やっぱり解決策は力技。何かにつけ、好奇心に任せてやらかす副学園長先生を前に……ファラード家はサイラック家よりも厄介な相手に目をつけられたのではないかと、ミアレットは心配せずにはいられない。

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