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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第8章】魔法武闘会、ついに開催です
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8−23 クッキリと濃い清貧の影

 まさか、キュラータに巻き込まれ体質を心配されているなんて、知る由もなく。ミアレットはアケーディアと共に、落とし穴の先に広がる隠し部屋へと足を踏み入れていた。


「うーん。何もなさそうですね……」


 しかし、落とし穴の先に広がるのはただただ、空虚なだけの空間。ソファや暖炉があるのを見ても、一般的なリビングのようだが……ここにも落ちるのは、クッキリと濃い清貧の影。彩られる事を忘れたテーブルに花瓶、傾いた燭台。全てが朽ちかけているようにも見えて、必要以上に侘しい。


「見たところは、そうですね。しかし、ここが隠し部屋になっているのには、それなりの理由があるはずです。……とりあえず、何かないか探しましょう」

「はーい」


 泥臭い調査は嫌だと言っていたのに。やはり、悪魔は「秘密の小部屋」には興味を示すものらしい。じっとりと暗い空気感が肌に合うのか、意外と積極的に周辺を探し始めたアケーディアは、どことなく楽しそうだ。


《人様の黒歴史を覗くのは、楽しいものよ。弱みも握れるし》


(あー……そう言えば、アレイル先生もそんな事言ってたっけ……。アケーディア先生も例に漏れず、悪魔ってことね……)


 何事にも淡白なアケーディアに、人の弱みを握る趣味があるとは思えないが。人の心を研究対象にするくらいの悪趣味はあるかも知れないと、ミアレットは気を引き締めなおす。


「あれ?」


 そうして、キョロキョロと部屋内を見渡せば。ミアレットは色褪せた壁に架けられた、これまた色褪せた絵を見つけ出す。額縁がすり減っていて、壁紙に同化していたために、すぐに気づけなかったが……どことなく目元のバランスが独特な貴婦人が、額縁の中からこちらを睨み返している。


「これ、誰だろう? モリリンさんじゃない気がする……?」

「誰かは存じませんが、絵自体は古いもののようですね。弟であれば、アタリを付けられるのかも……あぁ、いや。彼も絵画の価値は分からないんでした。マモンに見せても、無駄ですね。オスカーの方が適任ですか」

「そうなんです? 美術館のオーナーなのに?」


 情けないことに、そうなんですよ……と、アケーディアが呆れ気味に仰ることには。マモンは自分が気に入った絵を眺められればいいそうで、美術品の価値には無頓着らしい。自分で絵を描くことこそあれど、美術品の審美眼は素人レベルということもあり、美術品の手入れも含めて、オスカーに任せっぱなしなのだと言う。


「彼は自分の感性に正直ですからね。知識欲が旺盛なこともあり、美術の歴史もそれなりに勉強したようですが、抽象画は今ひとつ理解できないと溢していましたね……」

「なんだか、マモン先生らしいですね……」


 いずれにしても、マモンもオスカーもこの場にはいない。当然ながら、アケーディアとミアレットが見つめたところで貴婦人の正体が分かるはずもなし。


「この部屋で目ぼしい調度品はこの絵くらいですし……どれ、少し調べてみましょうか」


 そうして、見つめているだけでは仕方がないと、アケーディアが貴婦人に手を伸ばす。


「あっ、勝手に外しちゃって大丈夫です? また、罠とかじゃないですよね……?」

「その時はその時です。心配しなくても、ペナルティの責任は取りますよ」

「……」


 その責任の取り方がいちいち乱暴だから、ミアレットは心配しているのだろうに。たった1つの部屋を突破するために、廃墟を拵えた事をこの副学園長先生はもう忘れているのだろうか。


(何も起きない……あぁ、良かったぁ。罠じゃなくて)


 身構えるミアレットを他所に、アッサリと壁から外される古ぼけた絵画。どれどれとミアレットも、マジマジと貴婦人を覗き込めば。どことなく、どこかで見たことがあるような、ないような……妙な既視感のある風貌をしていることにも気づく。


「あれ? どこかで会ったような?」

「モリリンではなく?」

「いえ、モリリンさんじゃなくて、えーと、この感じは……」


 思い出せ、思い出すんだ。ミアレットはどことなく、反抗的な視線を見つめては……少し前まで、彼女に似た女性に睨まれた事を、さして苦労もせずに思い出した。


「あっ、思い出しました! この人、ステフィアさんに似てます! ちょっと内側に詰まった目元なんて、そっくりです!」

「……ステフィアさん? 誰ですか、それは」

「ほら、ナルシェラ様の元婚約者で、サイラック家のお嬢様ですよ!」

「言われてみれば、そんな人間もいましたね。だとすると……ミアレットの直感が正しい場合、この女性はサイラックの人間……つまり、リンドヘイム関係者ということになりますか?」

「ほえっ? あっ、そうか。そうなります……?」


 煌びやかからは程遠い、寂れに寂れた寒いリビング。ここは紛れもなくモリリンの思い出ベースの部屋……時の権力者でもあったサイラック邸ではなく、ファラード家の一室を再現したものだろう。もし、この絵もモリリンの記憶が顕現化したものであったのなら。……ファラード家にも、サイラック家の肖像画が飾られていたことになる。


「えーと、つまり……ファラード家はサイラックと繋がりがあった?」

「そのセンもあるでしょうが……もしかしたら、サイラック家にいいように、食い潰されていた可能性もあるかも知れませんよ?」

「えっ? それまた、どうして?」

「肖像画というのは、多少は対象を美化して描くものです。それなのに……この肖像画は、顔のバランスが調整されているように見えません。どことなく、悪意を感じませんか?」


 モリリン本人がサイラックと直接の関わりを持っていたかは、定かではないが。見れば見る程、アケーディアの言う通り……ステフィアの妙に内側に目元が寄った、アンバランスさはそのまま……いや。むしろ、ステフィアの造形を更に悪化させたように崩れさせている時点で、これを描いた画家はサイラックに相当の恨みがあったのではないかとさえ、思える。


「言われてみれば、確かに……。でも、それがどうして、サイラックに食い潰されたなんて話になるんです?」

「……思い出してください。ファラード家は元々、魔法道具製造に長けていた家系でした。僕も純粋に、ファラードの没落は時代の世相に適合できなかったから……と漠然と思っていましたが。あれを見て、その限りではない気がしてきました」

「あれ……?」


 肖像画を手に、アケーディアが指差す方を見やれば。肖像画が架かっていたはずの壁が、いつの間にかなくなっている。そして、その奥に隠されていたのは……古ぼけたハイバックチェアに腰掛けた、くたびれた様子の人形だった。

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