8−19 武器が使えないとは、一言も言ってません
「空虚なる現世に、風の叡智を示せ! 我は空間の支配者なり、ウィンドトーキング!」
副学園長先生のオーダー通りに、使い慣れた補助魔法を発動させれば。これまた、素直に風の流れがミアレットに危険地帯を知らせてくる……と思わせて、完璧なる絶望感を与えてくる。なぜなら……。
「……アケーディア先生。ここの床、全面的に罠が仕掛けられています。どこをどう通っても、アウトっぽいです」
どの位置にどんな罠が仕掛けられているかまでは、特定できないものの。床の下に相当に深い縦穴がある箇所もあり、文字通りに「足の踏み場もない」までに罠がひしめいている様子。だが、ただただ罠が広がっているだけでも絶望的なのに、更に悪い事に……ミアレットは落とし穴らしき罠の先に、不自然な空間がある事にも気づいてしまった。
「そうでしたか。ふぅむ、君の話だと……罠の先に、怪しげな空間があると」
「はい……一番奥にある落とし穴の先に、不自然な空間があります。多分、隠し部屋があるんじゃないかと……」
心迷宮には「黒歴史部屋」と呼ばれる道具部屋を始めとした、隠し部屋が存在している事がある。もちろん、全ての隠し部屋にアイテムが眠っている訳ではないものの。基本的には、心迷宮の持ち主の心境が色濃く反映される部分でもあるため、攻略のヒントが転がっているのが常だ。
「どうします? きっと、隠し部屋は確認した方がいいと思うんですけど、辿り着くのに苦労しそうです。これって、箒で飛ぶ……はアリなんでしょうか?」
「あぁ、それはやめておいた方がいいですよ。このテの部屋は大抵、対空中用の罠もセットになっていることが殆どです。何気なく飛んでいたところに、毒矢が飛んでくる……も、ままあるパターンですからね」
「そうなんですかぁ……。飛ぶのも危ないんですね」
床にビッシリ罠を張り巡らせるだけでは、飽き足らず。対空中用の罠も常備しているのが、「トラップパニック」というアトラクションの特徴なのだとか。しかも、「床全面となれば、相当に嫌われていますねぇ」なんて、アケーディアが呟いているのを聞いていても、モリリンの心迷宮は本気でミアレット達を拒絶している模様。
(うーん……毒を受けたとなったら、ポイズンリムーバーを使えばいいんだろうけど……。あの魔法、意外と魔力消費量が多いんだよなぁ。それに、痛い思いはしたくないし……)
毒矢はあくまで、罠の一例ではあるけれど。無論のこと、ダメージは受けないに越したことはない。それに、この部屋を突破できた所で、進んだ先も罠だらけの可能性もあるだろう。無駄な魔力消費は避けるべきだ。
「仕方ありません。強行突破しますか」
「えっ? 強行突破……?」
痛い思いはしたくないけど、先には進まなければならない。どっちつかずの状況に悩むミアレットの一方で、アケーディアがアッサリと剣呑な事をおっしゃる。
(なんだか、嫌な予感がするぅ……!)
この副学園長先生は冷静と見せかけて、意外と勢い任せに事を進めてしまう癖がある様子。しかも、ミアレットを巻き込む事にも躊躇がないため、ますますタチが悪い。
「それは一体、どんな方法です……?」
「なに、ただただ、破壊するだけです。……まぁ、弟には常々、卑怯で美しくないとお小言をもらっていますけど。時間もないですし、彼の美学に付き合う必要もありません」
時間がないのは、それこそ副学園長先生の美学(スケジュール優先)が出しゃばった結果なのでは?
どうも、大物デビル兄弟は仲がいいと見せかけて、心迷宮攻略(戦闘)に対する美意識には温度感があるご様子。熱意の差はともかく……ご同行いただくのなら、(攻略速度はバグっているが)配慮も行き届いている弟さんの方がいいかなぁ、なんてミアレットが遠い目をしながら考えていると。すぐ隣から「スチャッ」と、これまた物騒な効果音が響いてくるではないか。
「アケーディア先生……それ、何すか?」
「見て分からないのですか? ……重火器ですけど」
「はい⁉︎」
見て分からないも何も、「いかにも魔術師ですッ!」な副学園長先生に重火器はミスマッチもいいところである。アケーディアは普段から、魔術師のイメージを体現したかのような黒いローブを着込んでおり、今日も例に漏れずちょっぴり装飾が凝っている黒装束姿だ。この装いで取り出すべきは、杖とかロッドだと思う。
(いやいやいや、待って待って! スチャッ……じゃないわよ、スチャッ、じゃ!)
長い長〜い大筒に、砲身を這うように波打つ光の筋。見た目こそ、ちょっぴりファンタジーちっくな雰囲気はあるものの。……アケーディアが構えたそれは、どこをどう見ても、凶悪なガトリングガンだった。
「アケーディア先生、言ってましたよね⁉︎ 自分は魔法特化型だって……!」
「えぇ、言いましたね。しかし、武器が使えないとは、一言も言ってません」
「そうかも知れませんけど! まさか、これで床を木っ端微塵にするつもりじゃ……」
「無論、そのつもりです。どんな罠が埋まっているか分からないのですから、丸ごと吹き飛ばしてしまえば、オールクリアでしょ?」
「えぇぇぇ……」
淡々と言いつつも、更にモフモフとした何かを手元に呼び出すアケーディア。2つ呼び出したモフモフのうち、片方を事もなげにミアレットに渡してくるが……。
「ミアレットもこれをどうぞ。特注の防音イヤーマフです。耳を塞ぐだけでは、鼓膜が破れてしまうかも知れませんし、しっかりと装着してください」
「は、はい……?」
……確かに、至近距離で凶悪な重火器をぶっ放されたらば、耳へのダメージは相当なものだろう。だが、それ以上に、気になるのは……。
(ロバの耳なのかな、これ……)
手渡されたイヤーマフはイヤパッドに一体化する形で、ご丁寧にもフワフワなロバ耳が付いている。このデザインはアケーディア発案なのだろうか……と思いつつ。ミアレットは半ば脅しの効いた指示に従い、素直に耳にイヤーマフを装着するものの。
(ヴぅ、本当にやるのぉ……? 床だけじゃなくて、屋敷自体も崩れちゃいそうなんですけど……!)
生徒の健康を気遣う配慮を見せつつも、副学園長先生は冗談抜きで強行突破するおつもりのご様子。アケーディアは自身もイヤーマフを装着した後に、見るからに重そうなガトリングガンを軽々と構える。そして、いつもの仏頂面で躊躇なく、引き金をお引きになった。
「ひゃぁぁぁッ⁉︎」
イヤーマフ越しでも感じる轟音、瞼越しでも沁みる閃光。ギュッと目を閉じて蹲っても、空気そのものが魔力ごと振動しているようで、ミアレットは周囲がグラグラと歪んでいる錯覚に溺れてしまう。その間、わずか3分程。ビリビリと刺激的な空気が静まり返った後に残ったのは……別の意味で足の踏み場もない、罠と床の残骸で埋め尽くされた廃墟だった。
【武具紹介】
・トワイライトアヴェンジャー(光属性/攻撃力+147、魔法攻撃力+185)
ラディウス砲をヒントに、アケーディアが開発した対深魔用の回転式多銃身機関銃。
心迷宮に潜入せずとも、その場で深魔を直接討伐することができる。
神鉄とアダマンクロサイトの合金・ダークプラチナを砲身に用いており、漆黒の見た目に反して、神鉄由来の光属性を持つ。
光属性の恩恵もあり、深魔に対して非常に高い効果を発揮するが、相手を魂ごと蜂の巣状態にしてしまうため、現実世界で使用する場合は心迷宮への潜入(=対象者の救済)は諦めなければならない。
・フマーラーマフ(地属性/防御力+12、魔法防御力+33)
トワイライトアヴェンジャー発砲時の轟音対策用に作られた、防音イヤーマフ。
イヤパッドにグリムリース産・フェアリーシダーを利用しており、仄かに清々しい香りがする。
ロバの耳を模した特徴的な装飾が施されているが、憂鬱の大悪魔の立髪を織り込んだこの耳は、魔力を適宜取り込み、イヤパッド内の気圧を安定させることで、耳への衝撃と健康被害を抑える効果がある。
なお、ロバ耳のデザインはアケーディア本人によるものではなく、彼の妻・ヴェルザンディによるものらしい。
【補足】
・フェアリーシダー
グリムリースを原産とする、魔法植物の一種。
魔力で生長する杉の亜種であり、美しいエメラルド色の樹皮を持つ針葉樹。
建材やアロマオイルの原料にされる他、ハープやリュート等の楽器作りにも活用される。
エメラルドのような光沢と植物特有の油分も相まって、フェアリーシダー製品は味わい深い経年変化も楽しめる。




