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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第8章】魔法武闘会、ついに開催です
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8−18 危険地帯感マシマシ

「えぇと、これは畑……?」


 怪しげなドアを潜った先に広がるは、少しばかり色褪せた風景。どうやら、次なるステージは草原ではなく、何かの畑であるらしい。先ほどよりも畦っぽさを増した道なりに、野菜らしき植物が整列していた。しかし……。


「全部、枯れてる……」

「ふむ……この風景はモリリンの心情を反映したものなのでしょうか? やけに、寂れてますねぇ」


 心迷宮に広がる風景は、基本的に持ち主の記憶が色濃く反映される。それが故に、アケーディアの推測はまずまず順当ではあるものの。あの派手好きなモリリンの記憶を反映したにしては、彼が言う通り……やけに寂れ過ぎている気がする。


「うーん、どうなんでしょう? 確か、ファラード家は魔法道具製作が得意なお家だって聞いていたんですけど……」

「あぁ、そうでしたね。だとすると……なるほど、なるほど。そういう事ですか」

「えっと? 今ので、何がなるほどになるんです?」

「ファラード家はローヴェルズに属している貴族だったと、記憶しています。しかし、ファラードに限らず……魔法道具製作でのし上がった家はほぼ、現代では絶滅に近い状態ですからね。きっと、強制的に路線変更をしたのでしょう」


 その結果が野菜畑……つまりは農業だったのだろうと、アケーディアは結ぶものの。少しばかり皮肉っぽい笑顔を浮かべながら、彼が続ける事には。ローヴェルズ王国は、かつてから農業に力を入れている隠れ農業大国でもあるそうで。既に王家の公認を受けて、大々的に農産を牛耳っている貴族が存在しているのだと言う。


「あっ、もしかして……それって、ファヴィリオ家だったりします?」

「おや、ミアレットも知っていましたか。そうですよ。あの家は、現役稼働中の魔法遺産持ちな大貴族ですからね。そんなパイオニアが既にいる土壌で、新参者が農業で食い扶持を稼ぐのは難しかったのでしょう」


 ここから先は憶測でしかないものの。おそらく、ローヴェルズが農業大国であったこともあり、新規参入も容易いと考えたのだろう。モリリンの生家・ファラード家は心機一転と野菜の栽培・生産を試みた。だが、農作物はただ植えて、ただ育てれば売れるかと言えば、決してそうではない。色・艶・形、それに味。全てが一定水準を越えなければ、商品としては通用しないのだ。


(それに、ファヴィリオのお野菜、凄く美味しかったし……。ノウハウのない素人が真似しても、太刀打ちできる相手じゃないわよね。あれは)


 何気ないサラダであっても、野菜が一級品ならば、最高の美食となる。ファヴィリオ邸で出てきた野菜は、料理のランクを強引に底上げできるレベルを備えた、最高級品であった。ミアレットは瑞々しいパプリカの風味を思い出し、場違いにも「あぁ、あのお野菜をまた食べたい……」と考えてしまうが。惨憺たる有様の畑を見やっては、すぐさまモリリンの窮状も理解できてしまうのが、少々辛い。


「つまり、モリリンさんのお家は新しい事業も失敗して、困っていたと……」


 トマトにズッキーニ、トウモロコシに……向こうはキャベツ畑だろうか? よくよく注視してみれば、萎れた野菜のバリエーションも豊富だが。どれ1つとして、安定生産に成功したものはなかった様子。これでは商品にする以前に、自分達の腹に納めることもできなかったに違いない。


「そうなりますかね? まぁ、モリリンのご家庭の事情なんぞ、僕には関係ありませんが」

「えぇぇ〜? 心迷宮は攻略しないといけないんですから、少しは関心を持ってくださいよぉ……。ほら、法則変化もしっかりしてるんですからぁ」


***

迷宮性質:レジスト・炎属性、トラップパニック

深度:★★★★★★

***


「レベルが上がっている上に、物騒な項目が追加されていて……。やっぱり、さっきの扉は罠だったんじゃないですかぁ!」


 表示された情報をズズイとアケーディアに見せつけると同時に、「先生の馬鹿ぁ!」と詰るミアレットであったが。対するアケーディアは生徒の狼藉もどこ吹く風と、相変わらずの冷静さを貫く。


「へぇ……トラップパニックとは、中々にレアな迷宮性質を引きましたねぇ。だとすると、メイン・アトラクションはあの洋館ですか」

「へっ?」


 アケーディアが指さす方を、見やれば。いつの間に出現したのか……古風な佇まいの洋館が目に入る。周囲の枯葉色に合わせたのか、こじんまりとしている以前に寂れに寂れた風貌が、ミアレットの不安を駆り立てた。


「なんだか、今にも崩れそうですね……」

「まぁ、貧乏貴族の屋敷なんて、こんなものでしょう。心迷宮のギミックが全て、現実世界のそれを完璧に再現しているとは言い難いですが。モリリンの心に余裕がないことだけは、確かかも知れませんね?」


 不安要素しかないおどろおどろしい洋館を前に、アケーディアは尚も皮肉っぽい態度を崩さない。しかも、なんの躊躇もなく、ズンズンと洋館へ近づくと……一思いに、ドアノブへと手を伸ばすではないか。


「いや、待ってください! この洋館、罠なんですよね⁉︎ もうちょっと警戒してくださいって!」

「大丈夫ですよ。罠だろうとも何かがあった場合は、モリリンの世界ごと潰せばいいだけですから」

(うわぁぁぁん! だから! モリリンさんにも、気を遣ってあげてくださいよぅ!)


 それに、巻き添いを喰らう方の身にもなってほしい。確かに、他にそれらしい建築物がない以上、この寂れた洋館が心迷宮攻略の順路である可能性は高い。だが、迷宮性質に「トラップパニック」なぞという、危険地帯感マシマシの文字列が踊っている時点で、ホイホイと踏み入るのは無謀ではなかろうか。


「……ふむ? 特に何も起こりませんねぇ……」

「えっ? アケーディア先生、大丈夫です?」


 ギィィ……と、いかにもな効果音を響かせた扉の向こうには、これまた寂れた雰囲気のエントランスが広がっている。天井からプラプラと所在なさげにぶら下がる鎖には、シャンデリアどころか、ランプ1つさえもなく。剥がれてカビだらけの壁紙に、埃まみれのフローリングと煤けた色合いの絨毯。外観だけではなく、内観もこの有様となれば……貴族のお屋敷というよりは、廃墟さながらである。


「本当に何もないですね……いや、何もなさ過ぎて、却って切ないと言うか……」

「ふーん……質素を通り越して、極貧だったんですかね、ファラード家は。いずれにしても、僕には関係ありませんか」


 ミアレットがモリリンの身の上(仮)に同情する一方で、やっぱり冷めた反応を示す副学園長先生。そのあまりの塩対応に、ミアレットはもうもう苦笑いしかできない。


「しかし、ここは心迷宮ですから。進まないことには、始まりません。それに……どうせ、床に細工でもしてあるんでしょう。ミアレット、ウィンドトーキングをお願いしますよ」

「あっ、そうなりますか……」


 それでも、アケーディアは心迷宮攻略の本質は忘れていない様子。モリリンの身の上こそ興味ないと言えども、それなりの順路にはまだ従うつもりもあるらしい。


(アケーディア先生のいう事は聞いておこ……。そうでもしないと、冗談抜きで世界ごと壊しそうだし)


 何をどうやるのか、具体的な方法はさっぱり分からないけれども。可愛らしいロバの本性を曝け出したとて、このアケーディアはあのマモンの兄である。そちらの大悪魔様は国を1つ吹き飛ばしたとも聞いているし、こちらの大悪魔様も同じ暴れっぷりを発揮できてもおかしくない。


(まだ助けられる可能性があるんだから、頑張らないと)


 心迷宮の物騒さ加減も、大概であるが。何かにつけ、興味がある・なし(やる気を出すかどうか)の振れ幅が大きい副学園長先生の舵取りも、大概である。

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