8−16 とっても明快で、簡単でしょ?
あれよあれよという間に、心迷宮へと道連れにされ。内心では、「どうして、こうなるのよぅ!」と叫んでいたミアレットであったが。潜入してしまったものは仕方ないと、魔術師帳の「特殊任務実績記録」タップする。行きずりの展開とは言え、アケーディアの「やる気」が未知数でもある以上、ミアレットが頑張らなければならないのは変わらない。情報の把握は急務である。
(どれどれ……うーん、攻略難易度はそこまででもなさそう……?)
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発生対象:人間(幼体)
発生日:人間界暦 2723年 12日
発生レベル:★★
報酬分配:レシオ
迷宮性質:レジスト・炎属性
深度:★★★★
担当者編成
責任者:アケーディア(クラス:ダークセージ)
同行者:ミアレット(クラス:ウォーメイジ)
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(セージって、なんだろう? そう言えば、悪魔な先生達のクラスはみんな「ダーク」って付いているのよね……)
表示された難易度に安心しつつも、今度は先生達の「クラス」が気になり始めるミアレット。心迷宮の定着が終わった風景はどことなく牧歌的な草原が広がっており、緊張感が飛んでいきそうなくらいに、長閑な場所である。敵襲もなさそうか……なんて、抜かりなく確認しながら、ミアレットは恐る恐るアケーディアに「クラスについて教えてちょうだい」と質問を投げてみる。
「あぁ、それはですね。僕達悪魔は皆、ハイエレメントとして闇属性を持っておりますから。基本的には、ダークを抜いた分だけで、クラスの特徴を考えてくれていいですよ」
「そうなんですね。それじゃぁ、セージって何ですか?」
「……自分で言うのも、ちょっと恥ずかしいのですけれど。一応は、賢者というヤツになるようですね。僕は魔法特化型のタイプですので。セージは自身が持っているベースエレメントの魔法全ての習熟度を90%以上にすれば、クラスチェンジできますよ」
「魔法全部の習熟度を90%以上……?」
とっても明快で、簡単でしょ? アケーディアはアッサリと言ってくれるものの。……当然ながら、全ての魔法の習熟度90%は果てしなき道のりである。
「あぁ、因みに。弟のジェネラル職はセージの条件に加えて、15種類以上の武器の習熟度が90%を超えている必要があります。伊達に、仮想空間システムで実力1位をキープしてないですね。……ふふ。それでこそ、僕の弟です」
「アハハ、マモン先生、凄いっす……。武器の習熟度も90%、しかも15種類なんて……普通に無理ですって」
あのスパダリ先生は、もはや存在自体がバグなのでは……? そんな疑念が頭を過ぎりつつ。アケーディアも妙に嬉しそうにしているし、デビル兄弟の規格外っぷりをここで掘り下げる必要もないかと、ミアレットはいつも通り、強引に割り切った。
「さて……と。定着も無事に終わったようですし、サッサと片付けますよ。……ミアレット、僕の背に乗ってください」
「へっ? 副学園長先生の背に乗る……? 私が?」
それはつまり、おんぶでもしてくれるのだろうか? いくら悪魔が力持ちとは言え、外観は華奢なアケーディアにおんぶされるのは、少々不安なのだが……。
「あぁ、失礼。この姿のままでは、不安ですよね。ちょっと待っててくださいね……刻まれし力を解放せん。我が根源の名に於いて、汝の定めを覆さん! エンチャントエンブレムフォース・グルーム!」
「わーぉ……」
ミアレットの不安もすんなり見透かして。副学園長先生が発動したるは、大悪魔様固有の特殊魔法。黒い魔法陣にすっぽりと覆われたかと思った次の瞬間、アケーディアは1頭のロバへと姿を変じていた。
「プルル……この姿になると、妙に走り出したくなるんですよね」
そう言えば、教員リストの紹介欄にも「たまにロバの姿で学園内を散歩している事がある」と書いてあったと、遅まきながらも思い出すミアレット。こうして実物を目の当たりにすると、「あれは冗談じゃなかったんだ」と痛感してしまう。しかも……。
(うぁ……アケーディア先生、めっちゃプリティなんですけど⁉︎)
見れば見るほど、アケーディア(ロバ)は非常に愛らしい姿をしている。全身は黒い毛に覆われており、長い耳の間には角が生えていて……この辺りは悪魔としてのディテールなのだろうが、何より顔の模様がとにかく可愛いのだ。
(目の周りと足先だけ、白いって。それこそ、なんの冗談だろう……)
全身真っ黒なのに。逆パンダと言わんばかりのツートンカラーで、垂れがちな紫の目元がくっきりと目立つ。しかも、足元は靴下を履いたかのようなチャーミングな配色とくれば。……この姿だけ見たらば、彼が魔界の大物悪魔だとは、到底思えまい。
「さ、早く乗ってください! 一気に駆け抜けますよ!」
「はっ、はひ! えぇと、失礼します……」
しかして、ちょっぴり間抜けな風貌とは裏腹に、アケーディアは速攻で攻略を終わらせるつもりの様子。鋭い声でミアレットを急かすと同時に、すぐさま蹄を鳴らすが……。
(ひえっ⁉︎ ちょ、ちょっと待って⁉︎ これ……私の知ってるロバじゃないッ⁉︎)
みっしりと密集した毛並みのふかふか具合に、ミアレットが感動する隙さえ与えずに。猛進のロバは、サラブレッド顔負けの襲歩で疾走し始めたではないか。……姿形はロバなのに。けたたましくパカパカと草地を駆け抜け、周囲の景色をあっという間に置いてけぼりにしていくのだから……彼の走行速度も、明らかにおかしい。
「あぁ、ミアレット! 少し、頼まれてください!」
「えぅッ⁉︎ 頼まれるって……一体、何をです⁉︎」
「前方に敵襲を確認しました。ですので……」
「ですので……?」
器用に最大速度で畦道を曲がり切ったところで、アケーディアが声を上げる。やはり、このままアッサリと攻略完了とはならないようで。アケーディアの言う通り、前方には鳥型と思しき魔物が屯ろしているのが目に入る。
「例のステッキで、邪魔な敵を一掃して下さい。僕は走るのに専念していますので、攻撃魔法を使っている余裕がないんですよ。頼みましたよ!」
「えぇぇぇ〜……?」
凶暴路線を回避しようとしているミアレットの事情なんて、露知らず。アケーディアの中では、コズミックワンドで魔物を一掃することは決定事項らしい。さも当然と、ミアレットに魔法武器の使用を指示してくる。
(うわぁぁぁん! どうして、こうなるのよぅ! それだけは、絶対に避けたかったのにぃ!)
有無を言わさない物言いに、ミアレットは心の中でブー垂れるが。当然ながら、心の中で喚いたとて、副学園長先生の名案(と書いて迷案と読む)を覆すことはできないのだった。




