8−11 大人しく私に負けてちょうだい
(次の相手は、モリリンの取り巻き・その1かぁ……)
ナルシェラとロッタの交渉が決裂した、その頃。ミアレットは2戦目に臨むべく、闘技場にやって来ていた。対戦相手は、モリリンの腰巾着なご令嬢・クラリッサ(と言うらしい)。モリリンが敗退して気が大きくなったのか、はたまた、純粋に自信があるのか。顔を合わせるなり上から目線のテンプレなお言葉が飛んでくるものだから……「まーた、このパターンかぁ」とミアレットは妙に脱力してしまう。
「ここであなたに勝てば、王妃候補にグッと近づきます。そこの平民、大人しく私に負けてちょうだい」
「あのぅ……そのセリフ、恥ずかしくないんです? 勘違いしているようにしか、思えませんけど……」
それこそ、二重の意味で。
どうも、モリリンの取り巻き達は「優勝者=王妃」という構図を信じ込んでいるようで、その視点が根本から間違っていることを理解しようともしない。……夢を見るのは、大いに結構な事だが。当の王子様達の口からそれらしい提案がない時点で、少しくらい疑念を持ってもいいものを。
「なんですって⁉︎ あなたこそ、ポッと出の平民が何を勘違いしているのよ⁉︎ いいこと! とにかく、負けなさい! 私のために!」
(うあぁぁぁ……これまた、話が通じないタイプの人だった……)
しかして、彼女達が話が通じる人種ならば、魔法武闘会なんてイベントも発生しなかっただろう。自分に都合がいいように周囲を改竄してしまうのも、このテの貴族なのだと理解して。ミアレットはどことなく、某・サイラックの元婚約者に雰囲気が似ていると勘ぐっては……これは王子様相手には逆効果だろうなぁと、対戦相手をむしろ憐んでしまう。
(それはさておき、今回もちゃんと勝たせてもらうわ。相手のエレメントは水属性、相性はこちらが有利。だったら、魔法だけでもなんとかなるはず)
いくら現状を訝しんだとて、対戦のゴングは鳴る。王子様の婚約者問題に気を揉んでいる場合でもなければ、相手を憐んでいる場合でもない。そうして、武器選択画面が表示されるが……2回戦目は魔法武器の選択枠が1種類ではなく、2種類に増えている模様。そうともなれば、ここぞとばかりにコズミックワンドも選択するミアレット。……もちろん、凶暴な魔法道具は最終手段。望まないクラスチェンジを避けるためにも、できる限り、真っ向の魔法戦を挑みたい所である。
「えっ、ちょ、ちょっと、待ちなさいよ! なんで、下級生如きが2種類も武器を持ってるのよ……!」
「なんでって、言われましても……一応は、心迷宮の戦利品は使っていいって言われていまして。そのまま、利用者限定構築もされちゃってますし、遠慮なく利用しているんですけど」
「何よ、それ! そんなの、最初から言っておきなさいよ!」
「えぇぇ……(最初から手の内を明かす馬鹿なんて、いるぅ)?」
「何よ、それ!」はこっちのセリフな気がする。いずれにしても、分かり合えないタイプの人種であることも間違いないのだし、遠慮なく思いっきりやってしまうに限る。
「最初からガンガン行かせてもらうわ! まずは……輝く風よ、天を割れ! 雷の閃光を、矢と成さん! サンダーショット、トリプルキャスト!」
「攻撃魔法はお見通しよ! ふふ……これで全てを弾いてやるわ!」
「あっ、あの魔法道具は防御系かぁ……」
見慣れない形状の武器を持っているなぁと思ってはいたが。クラリッサの両腕に装着された半円形の魔法武器は、どうやら腕を合わせて防御の体勢を取ることで、ダメージを軽減する効果がある様子。ミアレットが放ったサンダーショットを易々と弾いて見せると、今度は両腕の半円からニョキとブレードが飛び出してくる。
「うわぁ……これはまた、マニアックな感じの武器だわぁ。一体、何に分類されるんだろう?」
だが、魔法攻撃を弾かれたと言うのに、危機感よりも探究心が先に来てしまうのは……悲しいかな、心迷宮攻略経験者の悪癖である。そうして、クラリッサが勇猛果敢に突撃してくるのを、魔法の箒でヒョイと避け。次はどの魔法を試そうかと考えてしまうのだから、ミアレットも結局は勉強熱心なのかも知れない。
「飛ぶなんて、卑怯よ! これじゃ、攻撃が当たらないじゃない! 降りて来なさいよ!」
「いや、卑怯も何も、ないでしょうに……届かないんなら、攻撃魔法を使ったらどうなんです?」
「キィッ! 上級生のいう事くらい、聞きなさいよ! とにかく、降りてきなさい! 降りてきなさいったら、降りてきなさいよッ!」
「……勝負には上級生も下級生も、ないでしょうに……」
だが、戦況は色んな意味で悲惨である。魔法武闘会なのだから、魔法がメインのはずなのに。血気盛んなクラリッサ嬢は武器で殴り合う想定でいたらしい。
「……一度の過ち、一度の罪。その禍根に光の導きを……ホーリーショット!」
「ちょ、ちょっと! だから、降りてきなさいって……」
だが、当然ながらミアレットにはクラリッサの提案に乗るつもりはサラサラない。すぐに攻撃魔法が飛んでこないのを見ても、攻撃魔法は苦手なようだし……折角なので、色々と試させてもらおうと、次々に攻撃魔法を放ってみる。
「あっ、ショット系の魔法は弾いてくるんですね。それじゃぁ、次は……雷神の怒りを知れ、その身に轟の罰を下さん! サンダーライトニング!」
「ンギャァッ⁉︎」
「ふむふむ、範囲攻撃は防げない……と」
覚えたての中級魔法をしっかり使いこなし。きっちり命中したのに、とっても満足なミアレット。そうして、防御も容赦なくベリベリと剥がしてしまいましょうと、今度はウィンドチェインでクラリッサの足元を攫ってみる。
「フギャッ⁉︎」
「そっか、両腕が塞がっていると、受け身も取れないのかぁ……」
足元を掬われ、顔面から着地したクラリッサは令嬢らしからぬ呻き声を上げ、鼻血を拭いつつようよう立ち上がるが。土まみれの顔と制服に、少し意地悪が過ぎたかなとミアレットは反省してしまう。
「あぁ……なんか、ごめんなさい。えっと、クラリッサさん、回復魔法使えます? 鼻血、止められそう?」
「う、うるさいわね……! 回復魔法なんて、使えるはずないでしょ!」
そこは逆ギレする場面じゃないと思う。それでも、「ちょっとやりすぎちゃった」とミアレットは仕方なしに、プティキュアを展開し、クラリッサの鼻血は止めてやるものの。当然ながら、「使えなくて当たり前」だと思っていた回復魔法までミアレットが使いこなすとなったらば。……クラリッサにしてみれば、屈辱もいいところである。
(今のは不味かったかな。逆に怒らせちゃった……?)




