8−7 やめないかって、言われましても
(なんだか、ちょっとだけ楽しくなってきたかも……!)
戦闘狂などこぞの大悪魔様ではないけれども。ミアレットは魔法の効果と組み合わせを考え、実戦で試すことに喜びを見出しつつある。それでなくとも、カテドナから防御魔法の予備知識も教えてもらっているのだから、「壁崩し」を試さない手はない。ともなれば……早速、「穴を探す」べくお得意の魔法を展開してみる。
「空虚なる現世に、風の叡智を示せ! 我は空間の支配者なり、ウィンドトーキング!」
魔法の簡略化も華麗に決めて。素直な風の流れは、ヴィトール君のソルアーマーに吸い込まれていったかと思えば、しっかりと「穴の位置」をミアレットに伝えてくる。
「……ウィンドトーキングだって? ハハッ! こんな所で、探索魔法だなんて。気でも狂ったのかい⁉︎」
「さぁ、どうかしら?」
だが、ハタから見れば、ミアレットのウィンドトーキングは「無駄撃ち」にしか見えないだろう。何せ、ウィンドトーキングは攻撃性能皆無の魔法だ。そんな「間抜けな魔法」を前に、ヴィトール君は尚も懲りずに、ミアレットを煽ってくるが……次なる一手を構築中のミアレットにはヴィトール君の煽りは、あまり響かない。ミアレットは器用に彼の雑音だけを右から左に受け流し、きっちりと風属性の攻撃魔法を放った。
「風神の嘆きを知れ、その身に嵐の罪を刻まん! エアリアルダスト!」
風属性の中級魔法・エアリアルダスト。地属性相手には無論のこと、相性は今ひとつではあるものの。この状況であれば、「とある特性」を最大限に活かせるだろうと……ミアレットは壁に対して、攻撃を仕掛ける。すると……。
「なっ? なっ……⁉︎ 僕の壁が崩れていく……⁉︎」
それはそうだろう。そもそも、ソルアーマーは物理寄りの防御魔法なのだ。対魔法効果は乏しく、いくらエレメントが優位であっても、魔法攻撃にはさしたる効果は期待できない。その上、錬成度も中途半端な防壁ならば尚の事、「隙間に入り込む」特性があるエアリアルダストの格好の餌食だろう。
「いっ……いだだだだッ⁉︎ こ、こら! やめないか⁉︎」
「やめないかって、言われましても。勝負は勝負だし……。でも、錬成度を強めにしすぎちゃったかなぁ。壁を崩すだけで、精一杯だと思ってたんですけど……」
きっと、エレメントの優位性に慢心してもいたのだろう。ヴィトール君はガリガリと壁を削られ、迫り来る魔法効果の意地悪に、驚愕の表情と涙を浮かべながら喚き始めた。その様子に……ミアレットはちょっと悪い事をしちゃったかなと、思いつつ。これはチャンスとばかりに、ウィンドブルームに合図を送る。
「と、いう事で……ここまでやったんだから、勝たせてもらうわ! 突撃〜ッ!」
「えぅ……わっ、わぁっ⁉︎ ちょ、ちょっと待て! 待てってば⁉︎」
勝負ですもの、待つものですか。
ヴィトール君の懇願虚しく、荒ぶるウィンドブルームの一撃が「スコーン!」とクリーンヒットし、ヴィトール君の体を吹き飛ばす。そうされて、哀れ、ヴィトール君は魔法防壁に勢いよく衝突し、そのまま気を失ってしまった模様。もうもう無駄にマウントを取る事も、涙と鼻水まみれで泣き喚く必要もないだろう。
「ヴィトール・サリファス、戦闘不能! よって勝者、ミアレット!」
「よっし! まずは初陣突破! それにしても……ヴィトール君の剣は飾りだったのかなぁ。結局、使う場面がなかった気がする……」
第一、魔法戦で近接武器はあまりいいチョイスだとは言い難い。魔法武闘会と銘打っているのだから、攻撃魔法が飛び交う事くらいは想定しておくべきだろう。
(……カテドナさんから防御魔法の事を教えてもらえていなかったら、危なかったかも。うん、次も気を引き締めて行かなきゃ)
***
「流石は、ミアレット様。生意気なお子様なんぞ、一捻りです」
ミアレットの初陣を副学園長室のモニター越しに眺め、カテドナは非常にご機嫌だ。自分のアドバイスをしっかり活かした戦法も去る事ながら、相手に煽られても冷静さを崩さなかった態度こそ賞賛に値すると、ミアレットを褒めに褒めちぎる。
「フフフ……やはり、ミアレット様は最高です。この調子であれば、優勝も手堅いでしょう。さて、後は……」
「どうやら、相手に思うところがおありのようですね? カテドナ殿」
「えぇ、それなりに」
カテドナの笑顔がドス黒いものに変化したのにも気づいて、キュラータの眉がピクリと上がる。予断なくディアメロの手元にお茶を差し出しつつ、隣のメイドさんの様子も窺うが。きっと生意気なお子様相手に、お仕置きを敢行するつもりなのだと見抜いては、仕方なしに嗜める……はずもなかった。
「でしたらば、ミアレット様の目に入らない所でなさった方がよろしいかと。何かにつけ、ミアレット様は平穏をお望みのようですから」
「もちろんです。キュラータ殿もよく分かっておいでですね」
「無論。……主人を馬鹿にされたとなったらば、徹底的に躾けるのが使用人の務めというもの。存分にやってしまうがよろし……」
「いや、待て待て待て! カテドナ殿、落ち着くんだ! それで、キュラータ! ここは止めるべきところだろう! 何を焚き付けている⁉︎」
背後で繰り広げられる物騒なやりとりに、堪らずディアメロが待ったをかける。第一、使用人のタスクに「馬鹿にした相手を痛めつける」が含まれているなんて、どこの道理であろう。
「おや……ディアメロ様は、あの小生意気な小僧を痛めつけるなと仰るか。ミアレット様を馬鹿にされて、悔しくないのですか?」
「それはもちろん、悔しいが。本人が気にしている様子もなかったし……何より、ミアレットはしっかりと勝ったんだ。必要以上に、事を荒げなくてもいいじゃないか」
お茶を口にする間もなく、ドウドウとキュラータを諫めるディアメロであったが。彼の意見を尊重こそすれ、カテドナもキュラータも、納得はしていない様子。2人とも口元をへの字に曲げては、ちょっぴり不服そうだ。
「ディアメロ様がそう仰るのなら、仕方ありません。……お仕置きはまたの機会に致しましょう」
「……またの機会ではなく、中止にしてほしいんだが……」
このやり取り、ヴァルムートの時にもあった気がする。ディアメロは不意の既視感に、ほんのりクラクラしてしまうものの。少なくとも、この場は治められて一安心と言ったところか。
(それはそうと、兄上は大丈夫だろうか……。ガラ君であれば、相手を痛めつけようなんては言い出さないと思うが……相手があのモリリンだからな……)
なんだか、嫌な予感がする。もちろん、アケーディアにもモリリンの杖が曰く付きであることは伝えてあるし、状況によっては、差し止めも考慮すると言ってもいたが。そのモリリンの出方次第では、魔法武闘会自体も中止になるのではなかろうかと……ディアメロは背後の心配事以上に、武闘会の行方に気を揉んでいた。




