8−6 実戦でも使える優れもの
(魔法学園の設備って、本当に至れり尽くせりよね。準備が良すぎて、目眩がするわぁ……)
ミアレットは自分の出番があるまで、指定された控室で待機をしているが。室内に備えられている大型モニタでは、初戦から生徒達の激戦が繰り広げられていた。しかし……控室と言っても、ちょっとした高級ホテルではなかろうかと思える設備に、ミアレットは良くも悪くもクラクラしている。
(飲食は自由……しかも、食べ放題。この控室、最高かもぉ……)
ベッドこそないものの。ゆったりとしたソファとテーブルは完備されており、ルームサービス代わりのつもりなのか、控室備え付けのパネルからは軽食を自由にお取り寄せできるらしい。思い出のバゲットサンドも、消費チケット最高額の贅沢フルコースも。それら全てがチケット消費なし……つまりは「タダ」で利用できるとなれば。武闘会を抜きにすれば、最高の空間には違いない。
(でも、不思議と食欲がないわ……)
きっと、緊張しているせいだろう。折角の豪華ラインナップを目の前にしても、お腹に余裕がないミアレット。それでも、何も注文しないのはもったいない気がして……気分を落ち着けてくれそうなカフェラテをお取り寄せし、ズズッと啜りながらモニタを見つめている。今の彼女には、ミルクたっぷりなカフェラテの優しさが丁度良い。
(それにしても、最初っから、魔法戦のレベルが高いんですけどぉ……!)
魔法武闘会の参加者は、総勢122名。トーナメント方式で優勝者を決めるとなると、純粋な試合数は121となる。おそらく、運営側(主に副学園長先生)は馬鹿正直に試合をしていたら、相当に時間がかかると踏んだのだろう。第2試合までは4組の試合を同時にする事にしたようで、闘技場も4分割、それに合わせて控室のモニタも4分割表示になっていた。
(あっ、左上と左下の試合が終わったみたい……)
モニタに映される各人の健闘は白熱そのもの。最初から中級魔法もボコボコと飛び出し、魔法武器での殴り合いも熾烈とあらば。互いに、遠慮も容赦もない。死者こそ出ないものの……お姉様方のアシストがなければ、重傷者は普通に大量発生しそうな勢いだ。その勢いの甲斐あってか(?)、意外とスムーズに決着も付くらしく、その後の試合も激戦ながらもポンポンと進んでいく。そうして……。
(呼び出しがかかったわね。……そろそろ、行かなきゃ)
観戦合間に注文していた2杯目のカフェラテをグイと飲み干し、ミアレットはパシパシと頬を張る。激闘が繰り広げられている状況にも関わらず、冷静さを保てている自分に驚きつつ。魔物相手よりはマシかなぁ……と、妙な経験値のせいでやれてしまいそうな気分になるのだから、恐ろしい。
***
(うぁ……なーんか、嫌な感じ……)
呼ばれて、飛び出て、やってきました闘技場。周りの生徒が全員上級生である状況で、ヨルムケープを着込んでいる下級生の姿は目立つのだろう。ミアレットが入場した途端、対戦相手のヴィトール君が早速とばかりに食ってかかってくるのが、妙に切ない。
「僕はラッキーですね。下級生の平民相手なら、勝利は確実。初戦は難なく突破できそうです」
「あぁ……そういう事は、最初から言わない方がいいと思いますよ? 中継されている以上、誰が見ているか分からないし……」
「フン、何を言う! 僕の方が偉いのだから、お前はただ、惨めに負ければいいだけさ!」
(……あっ。何を言っても、無駄なタイプの人かぁ。これはこれで、大丈夫かなぁ……)
特に、カテドナにも見られているだろうことを考えると、ミアレットはヴィトール君の身こそを心配してしまう。……あの冷徹なメイドさんはミアレットへの横暴に対し、徹底的に報復する困った癖があるのだ。勝っても負けても、今の言葉を取り消す事はできないし……後で酷い目に遭わされなければいいなと、ミアレットは別の懸念事項を器用に拵えていた。
(とにかく、集中しなきゃ。えぇと、魔法武器の選択は……)
ガイドラインによれば、初戦で使用可能な魔法武器は1種類。ともなれば、ミアレットが選択するべきは……。
「ウィンドブルーム一択……よね。えぇ、そうじゃないと困るわ」
これ以上、変なクラスに昇格させられても困る。そうして、ミアレットは乗り慣れた魔法の箒を選択し、身構える。実を言えば、仮想空間システムでの魔法訓練中にとある事を発見したこともあり、ウィンドブルームの使い勝手は格段に向上しているのだ。この際だから、お利口な魔法道具の真価をお披露目するのも、悪くない。
「なんだね、そのちっぽけな箒は! ハハッ! 所詮、平民には掃除用具がお似合いですね!」
「えぇ、そうね。私はこれがとっても気に入っているの。掃除だけじゃなくて、実戦でも使える優れものよ」
魔法学園の生徒はお貴族様が多いのだから、この程度のマウントは仕方ないのかも知れないが。対するヴィトール君が手にしたのは、いかにも「初心者向け」な感じの剣なものだから、ミアレットはちょっと呆れてしまう。上級生は魔法武器の授業もあると聞いていたし、彼の武器は授業の一環で貸与されているものと見て、間違いなさそうか。
(えーと、見た感じ……ポピュラーな練習用の剣っぽいなぁ。でも、属性効果はあるかも知れないから、警戒するに越した事ないわ)
それでなくとも、魔法武器は想定外の凶暴性を発揮する物も多いのだ。例のマジカルなステッキでその辺りを実感していることもあり、ミアレットはそれらの想定外も本当によーく心得ている。……魔法武器に振り回され尽くしたミアレットは悲しいかな、魔法武器の横暴にも慣れていたりする。
「両者、位置につけ! ……始めっ!」
ヴィトール君とちょっとした歓談(と言うには、刺々しいが)を楽しんでいると、いよいよ試合開始の合図が高らかに叫ばれる。そうして、先手必勝とヴィトール君が繰り出したのは……。
「輝く芽、地を讃え、土の吐息を槍と成さん! ディムスピア!」
(初手は攻撃魔法……となると、ヴィトール君はウィザード寄りかぁ)
効果範囲は広めだが、威力はイマイチな初級魔法。素早く展開してきたのは天晴れ! ……と、言いたいところだが。どうも、彼は錬成度をじっくり高めるのは苦手な傾向があるらしい。降り注ぐ礫は、槍と呼ぶにはややシャープさが足りない。
「さて……頼むわよ、相棒! 天翔ける風を集め、汝の衣とせん! 疾走せよ……エアロブースター!」
「はっ……?」
相性の悪さに慌てることもなく、対するミアレットが展開したのは風系統の補助魔法。しかし、その補助魔法の対象は自分自身ではなく……魔法の箒・ウィンドブルームだった。
「ちょ、ちょっと、待て! な、なんなんだ、その箒は……クソッ!」
ミアレットが訓練中に発見したこと。それは……ウィンドブルームも魔法の対象に含められるという事であり、補助魔法の恩恵を乗せることができるという点である。しかも、ウィンドブルームは風属性ということもあり、風系統の補助魔法とも相性バッチリ。補助魔法で俊敏性と回避能力が増強されたウィンドブルームは、ミアレットが判断する前に的確に石の礫を避けながら、縦横無尽に飛び回る。
「行っけぇぇぇッ!」
そうして、攻撃魔法を避け切ったウィンドブルームが次にしでかすのは、勢いマシマシの突貫攻撃。狙うはヴィトール君一直線、願わくば一撃ノックアウト。
「うわっ! こっち、来るなっ!」
一方のヴィトール君にしてみれば、訳の分からない機動力を備えた掃除用具なんて、あまりにアメージングな飛行物体である。やや逃げ腰になりつつも、彼もそれなりに訓練はしている上級生でもあるらしい。慌て具合とは裏腹に、しっかりと防御魔法を展開してくるではないか。
「くっ……! その頑強なる大地の呼吸を集め、我が羽衣とせん! ソルアーマー!」
(やっぱり、防御魔法も使ってくるか……!)
ウィンドブルームごとの体当たりを難なく防がれて、ボヨンと空中に弾かれたミアレット。しかし、ヴィトール君の使った魔法の傾向は、さっきカテドナに教えてもらったばかり。だったらば、次は「あの手」で行こうと……ミアレットは訓練の成果を余すことなく発揮できる状況を、図らずとも楽しみ始めていた。
【魔法説明】
・ソルアーマー(地属性/初級・防御魔法)
「その頑強なる 大地の呼吸を集め 我が羽衣とせん ソルアーマー」
物理攻撃に特化した、初歩的な防御魔法。土を集めて防壁を作ることで、武器攻撃によるダメージを緩和する。
フィールド効果(術者の足元の組成)に防御性能が左右されるため、この魔法に安定した効果を期待するのは間違い。
通常使用にはやや心許ない防御魔法であるが、反面、条件が噛み合えばガイアアーマー並みの効果を示すこともある。




