8−5 ニョキニョキと新規発生する懸念事項
明くる日。いよいよ、魔法武闘会開催日と相なったが。どうやら、隠れお祭り野郎な副学園長先生は、魔法武闘会を全校行事と定めて下さったようで。授業は副学園長権限で全て「免除」となっており、魔法武闘会参加者以外は是非に観戦すべしと、学園内各所で中継配信まで行われるらしい。
(うあぁぁ……! アケーディア先生、何を余計な事をやってるんですか……!)
昨日、副学園長室に彼の姿が見えなかったのは、この準備に忙しかったせいだったのだと鮮やかに思い起こし。ミアレットの頭は登校直後から、ニョキニョキと新規発生する懸念事項に痛みっぱなしである。
「いずれにしても、私は参加側だし、指定された場所に行くしかないかぁ……」
「フフ……ミアレット様のご活躍、しかと見届けなければ。もちろん、このカテドナも全力で応援致しております」
「あ、ありがとうございます。活躍できるかどうかは、分からないですけど……やれるだけの事はやりましたから。後は出し切るだけです」
ミアレットがグッと力強いハンドサインをして見せれば。カテドナも「その意気です」と、嬉しそうに微笑む。
「それはそうと、ミアレット様。対戦の組み合わせは、発表されているのですか?」
「うーん……最初の対戦相手は決まっているみたいですね。えぇと……あれ?」
「どうされました?」
「対戦相手、男子生徒みたい……?」
参加者は玉の輿を狙う女子生徒ばかりだと、思っていたのだが。ミアレットの最初の対戦相手は、ヴィトール君(地属性)と言うらしく……同じクラスにいなかった事を考えても、上級生のようだ。
「参加要項に性別の記載はありませんでしたからね。単純に力試しの一環として、参加する男子生徒もいるのでしょう」
「あっ、そういうことですね。それにしても、初っ端から上級生が相手かぁ……。しかも、エレメントの相性も最悪じゃないですかぁ……!」
いきなり負け戦濃厚な対戦相手にぶち当たった事を、呪いつつ。それでも、「いっちょ、やってやろうじゃない」と負けん気を発揮するのがミアレットの身上というもの。ミアレットに優勝を目指す主だった目的はないものの、やるからにはトップを目指すのが正しい姿勢というものだろうと、やる気も十分だ。
「でも、不利なのは変わらないか。風属性の攻撃魔法で、どうやって防御を崩そうかなぁ……」
相手は初対面でクラスも伏せられているのだから、戦闘スタイルは未知数だけれども。地属性の魔術師は、防御魔法に長けている傾向が強い。基本的には防衛戦に向いているエレメントであるため、無計画に攻撃魔法を使ってみたところで、相性の悪い風属性の魔法では打開の糸口を見出すのも難しい。
「でしたらば、壁に穴を開けてやれば良いのです」
「穴を開ける……ですか?」
「えぇ。防御魔法はしっかりと錬成度を上げないと、意外とアッサリ瓦解してしまう事も多く、一極集中の攻撃に耐え切れない事があります。それに……ウィンドトーキングを得意とするミアレット様であれば、穴を見つけるのは、造作もないことでは?」
私でしたらば、一筋の風も通さない防御魔法を展開しますが……と、ほんのり自信たっぷりに言いつつも。カテドナは地属性のエレメントを持つため、防御魔法のイロハにも明るい。スラスラと地属性の防御魔法を羅列しながら、それぞれの構築の特徴を余す事なく教えてくれる。
「お役に立てましたでしょうか?」
「もちろんです! 地属性の魔法にどんな種類があるのかさえ、分からなかったですし。それに、ウィンドトーキングの簡略化も練習しましたから……なんだか、やれそうな気がしてきました!」
「それは何よりです。さて……私がお送りできるのは、ここまでのようです。ご武運を心より、お祈り申し上げております。行ってらっしゃいませ、ミアレット様」
「はい……! 行ってきます!」
まるで激戦地に赴くかのような、堅苦しい激励。そんなどこまでも真面目なメイドさんに見送られつつ、やる気と一緒に会場へと足を踏み入れるミアレット。
(結構、参加者が多いのね。えぇと、モリリンさんは……あっ。すぐに見つかったわぁ)
そうして、キョロキョロと注目株の行方を探すものの。相変わらず目立ちたがり屋で、取り巻きを従える癖は抜けないらしい。探すまでもなく……しっかりと黒い杖を手にしたモリリンが、会場の中心で「優勝は私のものよ!」と高らかに宣言しているのも聞こえてくる。
(……そういうのって、始まる前から言わない方がいいと思う……)
いくら自信があろうとも、宣言してしまったらば逃げ道がなくなってしまうではないか。自分を追い込むスタイルなのだと言ってしまえば、格好いいのかも知れないが。性能自体は微妙らしい杖を得意げに掲げている時点で、勝ち筋を自ら捨てているようにも思えて……ミアレットは複雑な気分になってしまう。
(絡まれたら面倒だし、端っこにいようっと。それはそうと、ナルシェラ様が上手くやってくれると、いいのだけど……)
いそいそと目立たない会場の隅に移動しながら、ミアレットはナルシェラが説得を成功させてくれる事を、切に願う。ナルシェラは折を見て、行動に移してくれると言っていたが……午前の部はこのまま敢行となってしまう。その間に、モリリンが杖の性能を理解し、自ら手放してくれるのが理想だが。……おそらく、そうはならないだろうなと、ミアレットは遠巻きに彼女の様子を見つめていた。
「皆さん、そろそろお静かに。とりあえず、開幕の挨拶をしますよ。えぇ、えぇ。分かっていますとも。早く始めろと言いたいのでしょう? 僕も形式的な挨拶は面倒なので、サックリと概要だけ伝えますね」
(アハハ、挨拶が面倒って。アケーディア先生、興味がない事はトコトン雑なんだから……)
ミアレットがモリリンの動向を気にしている間に、演台ではさも気怠げな様子のアケーディアがマイクを握っている。そんな彼の周囲は「あぁ、天使様ですね」と思われる美女軍団が固めており、副学園長先生のご尊顔も含めて、異常な眩しさを放っていた。多分、彼女達は回復要員として呼ばれたのだろうが……それにしても、人数が多すぎやしないだろうか?
(これは、あれですか? お姉様方、興味津々で出てきちゃったクチです……?)
多分、そうなんだろうなー。きっと、そうに違いないなー。
ミアレットは相当人数を配備して下さった、天使様達の手厚くも場違いなホスピタリティに遠い目をしてしまう。ムスッとしている副学園長先生とは対称的に、お姉様方は楽しそうなのも妙にシュールだ。
「ルールは簡単。参加者の皆さんには、トーナメント形式で順位を競っていただきます。呼ばれた方から順に、闘技場へ入場してください。片方が降参するか、戦闘不能になった時点で試合終了。それで……これ以上の細かい説明、いります? 僕はとっても煩わしいんですけれど」
いやいや、説明抜きでは参加者側は困ってしまうでしょうに。それでも、多少の責任感はあると見えて、これまたとっても面倒臭そうに、自分の魔術師帳をちょいちょいと操作すると……アケーディアが生徒達の魔術師帳へデータを送信し始める。
「はい、と言うことで。皆さんの魔術師帳に参加要項を送信しましたので、後は各自、そちらを確認してください。僕は皆さんの対戦内容には興味はありますが、誰が優勝するかは正直なところ、どうでもいいです」
(それ、副学園長先生が言っちゃダメなヤツ!)
そうして、最初から最後まで面倒臭そうな空気を醸し出しつつ、アケーディアが演台から撤退していくが。やや投げやりな彼の対応に、心の中で乾いた笑いが止まらないミアレットだった。




