8−4 どうやら、出し抜かれたようですよ?
(魔力因子がなくなったら、お家再興を目指すどころじゃなくなっちゃうわ……)
モリリンが魔法武闘会を強行し、魔法武器を無理やり調達してきたのには、王妃の座(要するに玉の輿)を狙うためだが。元はと言えば、ファラード家を持ち直したいという、切実な願いが大元にあるからだ。ミアレットはモリリンの思考回路をそれなりに考えたところで……彼女が根本から勘違いしている事にも気付いて、いよいよやるせない気分にさせられる。
(でも、大前提が違うんだよなぁ……。ナルシェラ様達は一言も、優勝者を王妃様にしてくれるなんて言ってないし、何より……モリリンさん、このままだと優勝も危ういんじゃ……)
どうやら、ケーリュケイオンは武器としての性能は微妙らしい。モリリン自身の実力の程は未知数ではあるが、少なくとも「仮契約」なる特殊効果は、実戦では役に立たない。
「うーん、どうすればいいんだろう……。このままだと、モリリンさんは魔法を使えなくなっちゃうわ……」
話の向きからしても、速やかにケーリュケイオンをモリリンから引き剥がした方がいいのは、間違いない。しかしながら、「ファラード家にあった、魔法道具なの!」と当人が嬉々として言い張っていた時点で、ミアレットがいくら説明しようとも、モリリンが自ら杖を手放すとも思えない。
「無理やり取り上げればいいのでは?」
「最初からそれはダメですってぇ。まずは、話をしてから……」
「どうせ、聞く耳も持たないでしょう。もちろん、ミアレット様に汚れ仕事をさせるつもりはございません。このカテドナが、しかとケーリュケイオンを強奪して参ります」
「いや、強奪はナシの方向でお願いします……。いくら本人のためとは言え、カテドナさんに強盗の真似をさせられないです」
ブンブンと首を振りながら、カテドナの強行突破を却下するミアレット。しかしながら、首を振った勢いで、プリンス兄弟の姿も目に入ったものだから……ここぞとばかりに、妙案を思いつく。
「あっ……だったら、ナルシェラ様かディアメロ様が説得してくれれば、良いんじゃないでしょうか?」
「はっ? ミアレット、どうして僕達がモリリンを説得しなければならないんだ?」
「だって、考えてもみて下さいよ。モリリンさんは王妃様になりたくて、魔法武闘会を開いたんですもの。きっと、ナルシェラ様達には気に入られたくて、仕方がないはずです。ナルシェラ様達が説得すれば、話も聞いてくれるかも!」
いかにもナイスアイディア! と、ミアレットは満面の笑顔で手を合わせるが。当然ながら、ナルシェラとディアメロにとってはナイスアイディアどころではない。
「そ、それは確かに、一理あるかもしれないが……」
「僕は嫌だな、モリリンと話すのは。あの勘違いしている痛々しい感じが、生理的に受け付けない」
「えぇぇ……何も、そこまで言わなくてもぉ……。少し、説得してくれるだけで良いんですよ?」
「絶対に嫌だ。僕は死んでも嫌だからな!」
「そんなぁ……」
いい作戦だと思ったのになぁ。ミアレットは満面の笑みから一転、シュンと肩を落とす。そうされても尚、ディアメロは断固拒否しなければと、どんどんと意固地になっていくが……。
(ミアレットはどうしても、モリリン嬢を助けてやりたいみたいだな……。それに、こんなに悲しそうな顔をされたら、断れないじゃないか……)
基本的に優しすぎるナルシェラは、人に頼まれると嫌と言えないタイプである。ミアレットの曇った表情にチクチクと心を痛めては、とうとう説得役を買って出た。
「だったらば、僕が話をしてみるよ」
「本当ですか、ナルシェラ様!」
「確かに、このまま放っておくのは忍びないし……何より、他ならぬミアレットの頼みだ。僕にできる事ならば、可能な限り対応しよう」
「さっすが、ナルシェラ様っす! ここは是非に、バシッと杖を引き離してやるっすよ」
「あぁ、そうだね。何が何でも、モリリン嬢から杖を取り上げなければ」
ナルシェラの承諾に、今度はパァッとキラキラした笑顔を見せるミアレット。そうして、「やっぱり、ナルシェラ様は頼りになります!」と褒められれば。ナルシェラも悪い気はしないし、コロコロと変わるミアレットの表情を見ているだけで、ちょっぴり幸せな気分にさせられる。ついでに……隣のガラもちゃっかり、一緒に嬉しそうにしていたりする。
「……ディアメロ様。どうやら、出し抜かれたようですよ?」
「もしかして、そうなのか? これは……」
「えぇ、間違いなく。第一、ミアレット様のお願い事を却下するから、いけないのです」
「ヴっ……」
片や、完璧に出遅れてしまったディアメロはキュラータとカテドナから、手痛い指摘を頂いてマゴつくばかり。しかして、話に乗っかろうとしたところで……「生理的に受け付けない」とまで言ってしまった以上、今更主張を翻すのも格好悪い。
「いずれにしても、明日が本番です。ミアレット様のお心を騒つかせないためにも、私達も最大限のバックアップをしなければ」
「そうですね。……ロッタ殿がモリリンと一緒に行動しているともなれば、状況確認は私達で対応するべきでしょう。カテドナ殿と私めとであれば、相当規模の魔法攻撃にも対応できるでしょうが……万が一もあります。どうです? その万が一に備えて、防御魔法の連携訓練をしておきますか?」
「えぇ、是非。これを機に、使用人同士の協力体制を整えておくのも悪くないですね」
ディアメロが半ば置いてけぼりにされている状況で、切り替えも素早くとばかりに、カテドナとキュラータが「明日の事」について、話し合いを始めている。だが、そうされてますます寂しいのはディアメロである。自分だけ役目がないようにも思えて、慌てて従者達に混ざろうとするが……。
「え、えぇと、僕はどうすればいい?」
「……ディアメロ様はいつも通りで問題ございません。あぁ、そうそう。ミアレット様の歓心を買いそびれたようですし、良い機会ですから、ご観覧ついでに他の婚約者候補を見繕うのも、ご一興では?」
「うぐっ……! さっきのが、そんなにも減点対象になるのか……⁉︎」
カテドナに冷たく返り討ちにされ、後悔で落とされた主人の肩にそっと手をやるキュラータ。しかしながら、カテドナがほんのり悪戯っぽい表情を浮かべているのにも気付いて、ディアメロの失態はまだまだリカバー可能な範囲だろうと、考える。だが……。
(ディアメロ様は、心配ないでしょうが。……やはり、姉上の状況は気がかりです。ケーリュケイオンに絡め取られるとなれば、精神的にかなり弱っていた事になります。……彼女の心も、無事だと良いのですが)
今、何を考えていますか? 何を見つめ、何を感じているのでしょうか?
キュラータはぼんやりと虚空を見上げては、ロッタはどうしているだろうかと思いを馳せる。いくら、姉に失望していると言えども……やはり、心配なものは心配である。




