7.5−1 それっぽいセカンドライフ
キュラータさんの思い出巡りが中途半端ではありますが。
場面転換も兼ねて、イグノ君の近日譚をつらつらと。
今回はハーヴェンさん家にお邪魔するようです。
結局、クージェの第二王妃様は3日後に処刑される事になったらしい。心迷宮攻略は俺も頑張ったし、結果だけ見れば、ちょっと残念な気もするけれど。帝王様の決定に、俺が口を挟めるわけでもないし……何より、王妃様の評判を聞いてると、あんまり庇う必要もないかなと、改めて考えていたりする。
(しかも、本人から聞いたところで、もうもう真相は分からないっぽいんだよなぁ。何があったかくらい、覚えてろよ……)
ったく、自分の命がかかってるってのに。「何も覚えていません」じゃ、言い訳もできないじゃないか。もうちょい必死になってもいいだろ。人生をそうもアッサリと、諦めちゃダメな気がする。
(いや、人の事は言えないか……。いくら転生させてやるって言われてても、俺も前の人生を諦めたもんな)
うーん……でも、ま? 俺はこうやって転生したんだし。王妃様にも、それっぽいセカンドライフがあるかもしれないし? これから処刑されちゃう極悪人を、俺が心配してやる必要もないか。
「イグノ君、お疲れ様だったな。フィステラさんについては、ちょいと残念な事になっちまったが……」
「それは仕方ないんじゃない? 深魔になったことと、やらかした事は別の問題なんだろうし」
「そうだな。で、話は変わるんだけど。実は……明日から、別の場所に派遣される事になっててさ」
えっ? はっ? いや待てよ。クージェから帰ってきたの、今日の今日なんだけど? もう、次のお仕事があるのか?
「……ハーヴェン、休みは? 週休2日って概念、ないの?」
「悪魔に休息なんて、概念はないかもな。何せ、俺は嫁さんと契約済みの身の上だし。それでなくても、特殊祓魔師は圧倒的に頭数も足りなくて。休みたいだなんて、言っていられない」
「マジで……?」
ナニその、立派な社畜脳。こっちの悪魔って、色々と感覚おかしくない? 悪魔って欲望が赴くまま、好き勝手やってるイメージなんだけど。なんで、この世界の悪魔はこんなに働いているんだよ。ハーヴェンの契約主……もとい天使はどうしたんだ、天使は。
(そう言や、ルエルさんも妙にズレてた気がする……。もしかして悪魔がしっかりしてないと、世界が回らない的な感じか……?)
こんな調子で大丈夫なのか、こっちの天使。数日前に深魔を鎮めたばっかりなのに、また別の場所に派遣って。ハーヴェン、どんだけ働くつもりなんだ……?
「なぁ、ハーヴェン」
「うん、何かな?」
「……ハーヴェンの契約主って、例の天使ちゃんだよな? 彼女は深魔の鎮静化、手伝ってくれないの?」
「うーん……都合が合えば、手伝ってくれることもあるんだけど。ルシエルはあれで、大天使階級だったりしてさ。普段から、超絶に忙しいんだよ。仕事が山積みだって、この間もため息ついてたなぁ……」
「そうだったの……?」
……あの幼女ちゃんも、忙しいのか。大天使って肩書きだけでも、バチクソに偉そうだし……とりあえず、滅多な事は言わないでおこう。いくら前の人生を捨てた俺でも、今の人生は捨てたくない。
「そういう訳で、明日も出かける事になるんだが……イグノ君は、どうする?」
「俺もついて行ってやるよ。学園に戻っても良いのかもしれないけど、ダンジョンに潜っている方が、性に合ってると思うし」
「そか。そう言ってもらえると、助かるよ」
ま、俺もなんだかんだでダンジョンは楽しいし? お宝ゲットのチャンスもあるとなったら、そっちを選ぶのは、当然だろ。
(でも、ハーヴェンと二人旅じゃ、恋愛イベントが発生しないんだよなぁ。学園モノだったら、こう……ダンジョン巡りの相方って、同級生の可愛い女の子なのが、テッパンのキャスティングじゃないの?)
しかも、マモン側はあのリッテルさんが一緒だって聞いたし。やっぱり、可愛い天使ちゃんの1人や2人、いても良いんじゃ……。
(あっ、いや。それはない方がいいか。天使って、凶暴らしいもんな……。いくら可愛くても、拷問は嫌だなぁ)
とりあえず、ムフフ方面は現地調達に賭けるしかないか。旅先で女の子と巡り会うのも、ファンタジーの醍醐味ってやつだろう。
(にしても、ハーヴェンの屋敷って……デカくない? これ……何人で住んでるんだ?)
そんなこんなで、俺は成り行き任せに、ハーヴェンの家にお呼ばれしたものの。目の前にはそれはそれは、立派な豪邸が建っていて。ちょっと小洒落た門構えからしても、かなりの高級住宅っぽいんだが……?
「……ハーヴェンって、何気に金持ちなのか? こんなデッカい家に住んでるなんて……」
「いや? そんな事はないぞ。この家は、打ち捨てられていたのを修復して住んでいるだけで。家の価値がどのくらいなのか、考えた事なかったな」
それって、不法侵入なんじゃ……とも思ったけど。なんでも、ハーヴェンはこの屋敷に130年くらい住んでるそうで。その間、家主らしい家主も訪ねてこなかったとなると……うん。普通に持ち主は死んでるんだろうな。だから、これは不法侵入じゃなくて、有効活用ってやつなんだろ。多分。
「パパ、お帰りなさい」
「おぅ。ラディ、ただいま〜」
俺がハーヴェンのお住まい事情にあれこれと思いを馳せていると、ハーヴェンが扉を開けた途端に、可愛い声がするじゃないの。見てみれば、そこにはあの幼女ちゃんにソックリな、ちんまりとした女の子が立っている。金髪碧眼の美幼女に、俺は思わずお目目をパチクリしちゃうものの……今、「パパ」って言った? ハーヴェンの事を「パパ」って呼んだよな?
「……ハーヴェン、娘いたんだ?」
「えっ? あぁ、そうか。その辺、説明してなかったな。うんうん、この子はラディエル。俺と嫁さんの可愛い娘ちゃんだぞ」
「そ、そうか……」
帰るなり娘ちゃんを抱き上げて、嬉しそうに頬擦りしているハーヴェンだけど。この感じからするに、明らかにあの幼女ちゃん(大天使の方)の娘なのは間違いなさそうだし、だとすると……。
「えーと……もしかして、この子も天使とかだったりするのか?」
「うん、そうなるな。あぁ、ラディ。この子はイグノ君って言ってな。俺と一緒に旅をしている、特殊祓魔師の候補生なんだ」
「……知ってる。ママも報告書を読んで、意外とやるじゃないって、言ってた」
お顔はソックリだけど、態度は幼女ちゃん(大天使の方)とは別物で。意外にも好感触なのか、俺にもニッコリと微笑んでくれちゃうラディちゃん。……ヤベェ。この笑顔の破壊力、半端ねぇ……!
(こ、これは! こんな所で、恋愛イベント発生か⁉︎ お呼ばれして、よかったかも! あっ、でも……)
ラディちゃんと結婚した場合、ハーヴェンが義父って事になるのか……? ま、まぁ、ハーヴェンとなら上手くやってけそうな気もするし、何より、ラディちゃんが美女になるのは確定コースだろうし。……よし。ここは全力で好感度を稼いでおくか。




