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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第7章】思い出の残り火
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7−50 カルロッタ・ロイスヤード

 君が一番だよと、いつも言ってくれていたのに。

 必ず助けに行くと、言っていたのに。

 それなのに……あの時、坊っちゃまは私を助けに来てくれなかった。


(あぁ、坊っちゃま……。私の、リュシアン坊っちゃま……)


 沈みゆく意識の底で、弟の面影を思い出そうとしている合間に……先に愛しい坊っちゃまを思い出すものの。すぐさま、ロッタはギリリと心の牙を鳴らす。彼女が最期の時を迎えたのは、今と同じ真っ暗闇の孤独。……帝国城の牢獄だった。

 最期の時を思い出し、ロッタの頭痛が一瞬、ピタリと止む。真っ暗で、何も見えなくて。助けてと叫ぼうにも、声すら出せなくて。リュシアンに懇願され、彼の爵位継承をすぐにさせて欲しいと……帝王に直談判したまでは、よかったが。あろう事か、リュシアンは願いを成就させたカルロッタを見殺しにしたのだ。そして、処刑される直前にヴァルヴェラとの婚約が正式に成立したと耳にした時は……盲いた暗闇で涙を流し、奪われた言葉で怒り狂い、カルロッタは全てを憎んだ。そして……自身の中で眠っていた深すぎる恨みを、ロッタはいよいよ思い出す。

 自分を利用するだけ利用して、見捨てたリュシアンも。自分を愛する坊っちゃまを歪め、彼の愛を横取りして行ったヴァルヴェラも。そして、ロイスヤードの家督を弟に継がせようとしていた父親も、自分の地位を脅かす弟も。全てが……何もかもが、疎ましかった。


(そうでした。私の人生は真っ暗で、冷たい場所で……人知れず散っていきました)


 助けを信じて待っていたロッタに与えられたのは、目を潰され、舌を抜かれ……そして、火炙りにされた苦悶の絶命。それは再びロッタを苛み始めた頭痛よりも遥かに苦しく、痛く……何よりも、救いがなかった。

 きっと、カルロッタが魔力適性を持ち得ていたことも災したのだろう。魔力適性を得られない嫉妬と焦りに駆られていた帝王は、リュシアンの爵位継承は認める代わりに、カルロッタに温情を向ける事はなかった。そうして、見せしめにすると同時に、例外を作らない意味も込めて……カルロッタの処刑は一片の猶予も憐憫もなく、速やかに行われたのだ。


(全て嘘だった……。私は、坊っちゃまと……ヴァルヴェラに騙されていた……)


 そうだ。あの時、私は坊っちゃまに裏切られたのだ。ヴァルヴェラは自身が家督を継ぐために、一時的に婚約しているだけだと言っていたのに。爵位をきちんと継げたならば、自分こそを公爵夫人として迎えてくれると言っていたのに。それなのに……彼は自分をも利用していた。


 プツプツと細切れながらも、意識の奥底から這い上がってくるのは、努めて忘れていたはずの悔しい思い出ばかり。生前のロッタ……カルロッタ・ロイスヤードの生涯は考えてみれば、周囲を憎んでばかりの人生だった。その中で唯一、憎まずにいられたリュシアン坊っちゃまに裏切られたと、知ったらば。……もうもう、何を信じて良いのか分からない。


 後世の記録では、一応はカルロッタ・ロイスヤードは「忠義の執事」とされていたが。実際には、私欲に塗れた一介の使用人でしかなく。彼女もまた、自分の欲に忠実な生身の人間であった。どうやら、カルロッタの目立ちたがりの習性は、冗談抜きで生まれた時からものだったらしい。リュシアンを敬愛し、彼に尽くしたのだって……彼が自分を輝かせてくれる相手だと、錯覚していただけだ。

 カルロッタは常々、厳格な父から執事としての手解きを受けながらも……本当は他の令嬢達と同じように、「可愛い」と褒めそやされ、「愛してる」と囁かれ、大切にされることを望んでいた。それでも、彼女がしっかりと修練に励んだのは、女性執事のレアリティによる精彩は気に入っていたのと、ロイスヤード家の家督を継ぐ目標があったからだ。だが、父はある時……カルロッタに家督は彼女ではなく、弟・アルフレッドに継がせると言い放った。


(アルフレッドの方が優秀だから? ふざけるのも、大概にして欲しいわ。私の方が執事としても、護衛としても優秀なはずよ。……えぇ、多分)


 実のところ、カルロッタの父は彼女の「執事としての致命的な性質」を見定めていたに過ぎない。強すぎる自己顕示欲と、ロイスヤード家が下級貴族である実情に伴う、有り余る卑屈。

 確かに、娘は仕事ぶりは優秀であるが、「主人に仕える」心構えが足りない。その点、息子の方が仕事ぶりも気構えも信頼ができる。

 もちろん、カルロッタの父とて、彼女に意地悪をしたくて、そのような決断をしたわけではない。彼は息子に家督を継がせると同時に、カルロッタを自由にし……人並みのデビュタントとして、こっそり貴族社会へ送り出す手筈も整えていた。

 だが、当人には「弟の方が優秀だから」としか伝えられていない以上、カルロッタは自身の気質を顧みることもなく、ただただ不服と不承だけを腹に溜め込んでいく。実際、執事としての所作や実力はアルフレッドの方が遥かに洗練されていたのだが。……カルロッタはそれすらも気付かぬフリをしていた。

 そして……リュシアンが5歳の時。彼女が14歳の誕生日を迎えた年の初夏。カルロッタは自分こそがロイスヤードの家督を継ぐため、凶行に走った。リュシアンを唆し、馬車に細工をし。本来は同行が必要のない父親を当主夫妻に随行させ……当主もろとも、父を事故に見せかけ死に追いやった。アルフレッド(現在のキュラータ)が「5歳児がこんな計画を立てるなんて」と訝しんでいた馬車の事故は……本当の首謀者は他ならぬ、カルロッタだった。


(邪魔者がいなくなれば、リュシアン坊っちゃまは私の物だと思っていたのに! それなのに、ロイスヤードの家格が低いせいで、余計な奴が入り込んでくるなんて……!)


 当主や父親がいなくなれば、ファニア家の実権はリュシアンに移り、自分が重用されるだろうこともカルロッタは理解していた。そして、予てから当主の周りでうるさく騒いでいた叔父一家が乗り込んでくる事も想定内である。彼らは言わば、リュシアンの依存を勝ち取るためのスパイス。彼らが我が物顔で過ごせば過ごす程、リュシアンは自分を頼り、更に愛するようになる。だから、叔父一家は横暴であるくらいが、カルロッタにとってはちょうど良かった。

 だが……これらは所詮、当時14歳の小娘の夢物語。計画性はあるように見えて、将来性に乏しい。そして、当然のように想定外がやってくるのだ。……ヴァルヴェラ・ハルデオン公爵令嬢。カルロッタの知らない事実でリュシアンの愛を勝ち得ていた令嬢は、スパイス程度では済まされない劇薬であった。

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