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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第7章】思い出の残り火
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7−47 手痛い誤算の種

(どいつもこいつも、私を馬鹿にして……!)


 キュラータに「未熟者」と言われ、怒り心頭のロッタであったが。ミアレット達がすぐ近くにいたのにさえ気付けないのだから、キュラータの指摘は色々な意味で正しい。そして、当のミアレットの心象があまり良くない事にも気付けないまま、ロッタは「女神の愛し子」に取り入ろうと、モリリンの身辺調査を再開し始める。


(……私がお仕えするのは、最高の相手でなくてはなりません。それこそ……あら? それこそ、誰がいいと言うのでしょう……?)


 どことなく、遠い昔に誰よりも敬愛する相手がいた気がするが。ボンヤリとスモークがかかったかのように、ロッタは肝心な事を思い出せないでいる。

 自分は誰にそんなにも熱心に仕えていたと言うのだろう? 一体、自分がそこまで傾倒する相手は、果たして……誰だったと言うのだろう?

 第一、現代のゴラニアで最高の地位にある相手と言えば、王族を置いて他にない。例え、爵位が一番上の公爵だったとしても、王族のそれには及ばないのが通例である。それなのに、ロッタはその王族であるはずのディアメロを「魔力適性がないから」という理由で見下し、彼に心から従うことを拒絶していた。いつの間にか抱えていた、凝り固まった価値観……魔力を持つ者が正しいという「魔力至上主義」を、彼女は知らず知らずに振りかざしている。


(だとすれば、あの執事の言う事は一理あるということでしょうか? 冗談ではありません……!)


《特定の相手以外を見下す癖は、生前からのものと感じられるのですが》 


 確かにあの執事……キュラータはそう言っていた。まるで以前の自分を知っているかのような口ぶりに、必要以上に神経を逆撫でされた気分にさせられるロッタではあったが。そこは彼女も一応は熟練の執事ではある。道ゆく生徒達の注目が心地よいと、気取った澄まし顔を取り戻していく。


「そちらのご令息様方、少しよろしいでしょうか?」

「はっ、はい! なんなりと!」


 そうして、教室移動中の男子生徒達に話しかければ。初心で可愛らしい反応が返ってきて、ロッタはたちまち気分を上向かせる。

 カテドナが指摘した通り、ロッタはとにかく「ちやほやされるのが好き」であった。使用人の立場なれど、以前は誰かに「君が一番だよ」と言われていたことだけは薄らと覚えており、令息達に言い寄られたことだって、1度や2度ではない……気がしている。


「もし、ご存知でしたらば教えていただきたいのですが。モリリン・ファラード様は、どちらのお教室においででございましょうか?」

「あぁ、あなたはファラード家の執事さんなんですね!」

「えっと……まぁ、そんなところです」


 純粋にモリリンの授業風景を観察したいがための質問であったが、令息達の予想と反応はごく自然なものでもある。ファラード家の執事に間違えられたのは、非常に不服であるものの……咄嗟に否定もできず、仕方なしにロッタはファラード家の使用人を装い、令息達から情報を引き出す。どうせ、彼らは取るに足らない相手である。訂正も必要ないと、彼女は高を括っていた。


「左様でしたか、ありがとうございます。モリリン様のクラスは、午後から魔法実戦の授業なのですね」

「だったはずですよ。あいにくと、僕達は違うクラスなので、ご案内できないのですが……」

「いえいえ、今のお答えだけで十分でございます。ご協力、感謝いたします」


 最後に一応の営業スマイルを浮かべて、ロッタが柔和に謝辞を述べれば。3人の令息達はポッと顔と耳を赤らめ、非常に素直な反応を見せる。そんな彼らの返答と反応に、とりあえずは満足するロッタ。だけど……すぐさま内心で悪態をつくのだから、よろしくない。


(誰が、モリリンの執事ですって⁉︎ 私の上質な佇まいに、どうして落ち目の貴族を結びつけるのでしょう⁉︎)


 示された教室へ向かうロッタではあったが、彼女は自分が手痛い誤算の種を蒔いたことに、気づいていない。令息達の誤解……つまりは、ロッタがファラード家の執事であるらしい事について、しっかりと否定し、訂正しなかった事が後々に響くなんて。……その時のロッタには、想像すらできない事であった。


***

「それにしても、ロッタにも困ったものですね……」


 午前中の授業を終えて。今日も今日とて、いつものメンバーと共に、特別解放な来賓室で昼食後のお茶を頂いているミアレットであったが。とうとう、お昼時の給仕にさえ現れなくなったロッタに思うところがあるようで、カテドナが深々とため息をついている。


「なんか、すみません……。ロッタさんが来ないのって……多分、私がモリリンさんを助けた方がいいって、言ったからですよね……」

「いいえ。それとこれとは、話が違います。ミアレット様のご用命に邁進するのは大いに結構ですが、仕事には優先順位がございます。専属の使用人である以上、昼時の給仕と護衛はマストでしょうに。本来の仕事を軽んじ、放棄しているのは、ロッタ自身の判断ミスに他なりません」


 抑揚のない言葉ではあるものの、カテドナは怒っている……と言うよりは、ロッタに幻滅している様子。怒りを通り越して、憤怒の悪魔たる先輩メイドを失望させている時点で、ロッタの独断行動はあまり褒められたものではないのだろう。


「まぁ、今はロッタがいない方が却って、よかったのでしょう。先程のキュラータ殿のお話は、彼女にどのような影響を及ぼすかは未知数でしたから」

「でしょうね。ハーヴェン様からお伺いしているだけでも、悪魔の記憶は非常に繊細なようですし。……私めが思い出せたからとて、姉上も同じように思い出せるとは限りませんし」


 お昼時に聞き流されるはずの世間話にしては、かなり複雑で数奇に満ちたキュラータの身の上話。彼は「特段、隠すことではありませんから」と極めてライトな反応を見せていたが。蓋を開けてみれば……実はロッタとキュラータが生前は姉弟であったという、衝撃の事実を孕んでいた。


(えぇと……これ、本当に私達が知ってて、いい内容なのかなぁ……? しかも、姉上って。キュラータさん、やっぱりちょっと寂しそう……)


 キュラータは寂しそうな顔こそすれ、自身の思い出を隠すつもりがないのは、間違いなさそうだ。聞かされた方としては、遠慮しかない内容ではあったものの……当人の様子を見ていても、ミアレット含む、王子様やエルシャ達が知っていても差し支えはないらしい。どちらかと言うと、キュラータの持つ事実が、ロッタの記憶のどう作用するかが問題になりそうか。


「……悪魔は記憶の思い出し方次第では、精神を病んでしまう事もありまして。自然と思い出せるに越したことはないですし、外部からの強制的な介入であっても、当人の精神状況が悪くなければ乗り越えられる事もあるでしょう。しかし……確実に乗り越えられる保証もありませんので。本人が強く望まない限りは、静観するのが一番です」

「そうなんですね……」

「えぇ。とは言え、ロッタの使用人としての心構えは論外なのは、紛れもない事実ですから。多少の躾は必要でしょうし、ここまで反抗的ともなれば、指導のしがいもあると言うもの。フフ……腕が鳴りますわ……!」

「うわぁ……」


 やっぱり、怒ってた。カテドナ、やっぱりオコだった。

 ロッタを反抗的と断じる時点で、カテドナのお怒り度はそれなりに高そうだと感じては……ミアレットはぶるりと身震いする。


(あぁぁぁ……大丈夫かな、ロッタさん……。カテドナさん、色んな部分で容赦ないからなぁ……)

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