7−16 盛況っぷりが嘘のよう
「ふふッ……! それはまた、面白いことになっていますね……! このカテドナも非常に楽しみです」
「もう! 笑い事じゃないですよ、カテドナさぁん!」
いつも通りに、ミアレットのお迎えに出向いてみれば。すぐさま、「どうして止めてくれなかったんですかー!」と詰られているカテドナ。しかしながら、カテドナにはちょっとしたアリバイもあり、ミアレットの不服も涼しい顔で受け流す。
「実は今後の雑務も覚えていただきたく、ガラ殿に本校内を案内しておりまして。ついでに、マモン様からの荷物を受け取っていたのです」
アケーディアの独断が敢行されたその時、彼女は購買部の一角・ウコバク便カウンターに荷物を取りに行っていたのだそうで。その場にはいなかったらしい。しかしながら、嬉々としてアリバイ証明をするついでに本音を漏らすのだから、カテドナも相当に悪戯好きである。
「まぁ……居合わせたとしても、止めなかったでしょうね。こんなにも面白そうな催しを止めるだなんて、もったいない。それに、アケーディア様は真祖の悪魔ですよ? 元より、私如きが口を挟んで良い相手ではありません」
「えぇぇぇ……! それでも、全力で止めてくださいよぉ……! それと、ウコバク便受け取りだったら、私も連れて行ってほしかったなぁ」
「あぁ、失礼致しました。ミアレット様はコンタロー中毒者でしたものね。そろそろ、補給が必要ですか?」
「そうなんですよ! おかげで、今日も面倒事に巻き込まれましたし! ここは思いっきり、ウコ吸いをしなければやってられないです!」
ディアメロの魔力復帰の起爆剤には、大悪魔様謹製の貴重な精油が使われている。もちろん、マモンが届けてくれる事もあるのだが、普段から多忙な彼のこと。最近の補充分は魔界と魔法学園とを結ぶ、「ウコバク便」が利用されていた。
尚、ウコバク便は配送物の預かり・引き渡し、管理をしてくれるサービスなのだが……何の因果か、この管理をしている専属ウコバクが罪作りな程にプリティーで。生前に「柴犬」を飼っており、ストレスフルな時は欠かさず「犬吸い」(犬をクンカクンカする事によって、癒し成分を補給する行為)をしていたミアレット(マイ)にとって、コンタローは癒しであると同時に、推しになりつつある。
「……次は絶対に誘ってくださいよ」
「承知致しました。コンタローにも、申し伝えておきますわ」
よし、言質はとったぞ。雑多な面倒事の後は、コンタローに癒してもらうことに決めれば、心なしか気分は軽やかだ。そうして、気分が軽くなったついでにエントランスを見やれば……大勢で王子様達に群がっていたお嬢様達がいないではないか。ゼロではないにしても、遠巻きに彼らを見つめている女子生徒がいる程度で、昨日までの盛況っぷりが嘘のようである。
「ありゃ? もしかして……モリリンさん達は武闘会に向けて、練習でもしているんでしょうか?」
「かも知れませんね。彼女達にも、彼我の差を感じられる謙虚さはあったということでしょうか? ミアレット様の実力を考えれば、至極当然の反応ですね」
「いや、それは違うと思いますよ? 謙虚さがあったら、私を平民呼ばわりしたり、王妃になりたいだなんて言い出したりしないですって」
「あぁ、確かに。いずれにしても、今日は静かにナルシェラ様達をお迎えできそうです。よかったですね、ミアレット様」
「……それはそうですけどぉ。なーんか、不気味だなぁ……」
嵐の前の静けさとは、この事を言うのだろうか?
お嬢さん方の付き纏いがなくなって、ニコニコな王子様達と家路(城路?)に着くものの、ミアレットは釈然としない。
***
「まずいことになりましたわ。あぁ、どうしよう……!」
女子寮の自室で頭を抱え、独り言をこぼしているのは……モリリン・ファラード。彼女の悩みの種は他ならぬ、ミアレットについてだが。彼女が魔法武器を持っていることも想定外だが、新学期早々にウォーメイジ(初級の上位クラス)になる程の実力者だなんて聞いていない。自分達が有利になるために、「魔法道具アリ」なんて企画書を提出したのに。これでは、完璧に裏目に出ているではないか。しかも……。
「……勢いで、あんなことを言わなければよかった……!」
売り言葉に買い言葉ではないけれど。モリリンは取り巻き達の報告を受け、「我が家には取っておきの魔法道具がありますの!」と豪語してしまっていた。もちろん、落ちぶれているファラード家にそんな素敵な魔法道具があるはずもなし。毎日の食事にさえ事欠く有様なのだから、万が一にもそんな物があったとしても、とっくに売り払われているだろう。
「い、いいえ、まだ……大丈夫。だって、相手は初級クラスよね? 中級クラスの私の方が、強いはず……!」
お家は落ちぶれているとは言え、幸いにもモリリン自身は優秀だ。炎属性は直情的なモリリンの気質にマッチしており、中級の攻撃魔法は一通り使いこなす実力も備えている。だから、魔法だったら負けないはず……。
「あぁぁぁッ! それなのに……それなのにッ! どうして、私は魔法道具アリだなんて書いてしまったのかしらッ⁉︎」
最初から正々堂々と、魔法だけの勝負に持ち込めばよかったのに。相手を調べることもせずに、少しでも勝率を上げたいがために、浅はかな欲を出したのが運の尽きだった。モリリンは今、自分自身が設定した不公平な条件に、逆に首を絞められている。
「……こうなったら、何が何でも飛び切りの武器を見つけなきゃ。そうだ、魔法武器館、開いていないかしら。もしかしたら、入れるかも知れないし……」
魔法武器館は訓練場の一角にある施設のため、生徒が単身で入れるエリアに存在していない。しかし、訓練場準備棟までは時間に関係なく入ることはできるため、転移パネルさえ起動できれば魔法武器館にもお邪魔できるかも知れない……なんて、モリリンはまたも私欲ダダ漏れな計画を立て始める。
「そう言えば、魔法武器館には訓練用の武器だけじゃなくて、伝説級の武器も保管されているって聞いていたし……少し借りるくらいは、大丈夫よね」
大丈夫なワケ、ないだろうに。第一、転移パネルは生徒が起動することは絶対にできないようになっている。万が一にでも、モリリンが魔法武器館へ侵入することはできないし……少し考えれば、自ずと分かる事であろうに。
だが、お家のためにも王子様の隣に収まらなければならないモリリンは、当たり前の事さえ忘れてしまえる程に必死なのだ。魔法学園のルールも仕組みも……そして、常識も。ファラード家のためならば何をしてもいいと勘違いしているモリリンにとって、既に守るべき規則ではなかった。
【登場人物紹介】
・コンタロー(炎属性/闇属性)
暴食の最下級悪魔・ウコバクの1人。柴犬に似た姿を持つ、小悪魔。
普段は魔界ではなく、契約主のルシエルさん宅(人間界)で暮らしている。
とりわけ人畜無害なウコバクの中でも、特に穏やかでお手伝い好きな性格。
日中は魔法学園内の「ウコバク便」特別ブースでちんまり待機、健気にお仕事をしている。
【補足】
・ウコバク便
魔法学園と魔界とを結ぶ流通サービスで、依頼があれば魔法学園間の配送にも対応してくれる。
本校内の購買部に特別ブースが設けられており、配送料は魔術師帳内のチケットで交換できる「魚の丸干し(3本)」で支払うルールになっている。
受付には専属コンシェルジュのウコバク・コンタローが待機しており、荷物の管理と引渡し、記録などを一手に引き受けているが、看板ウコバク(看板犬?)がモフモフの癒しを提供してくれるとあって、特別ブースはちょっとした人気スポットでもある。




