7−14 婚約者(つまりは金蔓)を見つける使命
午後のエレメント別講義を終えて、ミアレットがエルシャと……ではなく、同じ風属性のアンジェと廊下を歩いていると。それぞれの魔術師帳に「新着通知」が飛び込んでくる。新着通知は生徒にとって、見逃せない情報の宝庫。お知らせ内容は学食の限定メニュー告知だったり、特別講義や訓練場利用の解放スケジュール等、学生生活に欠かせないものばかりなので、漏れなくチェックするのが生徒の嗜みなのだ。
「何コレ? 武闘会開催のお知らせ……?」
しかし、魔術師帳に表示された妙にテンション高めな「通知」は、明らかに異質なもので。どう見ても、学生生活に必要不可欠な内容ではない。
「ふーん……上級生との合同訓練ですって。でも、ミアレット。ここを見て。……発案者があのモリリンになっているわ」
「うぁ、本当だ。えっとぉ……うん、大丈夫。強制参加でもなさそうだし、スルーしてもいいのよね?」
これはわざわざ、全生徒に通知を出す内容なんだろうか? 見るからに目的は王子様達とのコネクションのようだし、ある意味で話題性は豊富なのかも知れないが。いつもとは毛色が違う通知に、途端に脱力してしまうミアレット。それでも強制参加でないのなら、不参加一択と即断する。面倒事は避けるに限るが、一応のミアレットの身上なのだった。……叶った試しはないけれど。
「アンジェはどうするの?」
「うーん……どうしようかしらね。ナルシェラ様達に興味はあるけど、私にはランドルもいるし。特段、アピる必要もないから……不参加でいいかしら?」
「そうだよね。アンジェには、素敵な幼馴染がいるもんね」
「ふふ。……ま、そういうこと」
ランドルを褒められて、嬉しいのだろう。非常に分かりやすく、フフンと得意げに胸を張るアンジェ。お家がないならないなりに、アンジェはランドルと悠々自適に過ごしているとあって、彼女の恋愛事情には余裕がある。もちろん、美術館のお手伝いもしっかりと継続しており、最近はしぶとい油絵具を落とせる魔法の洗剤を開発したいと、目標も新たに意気込んでいた。なんでも、油絵具は石鹸とブラシでゴシゴシしないと落ちないのだそうで。……オスカーがアトリエから出てきた後は、ちょっとした惨状なのだとか。
「オスカー様は絵を描いている間、ダイナミックに躍動されるの。大きな作品に取り掛かっていたのもあるけど……飛びながら絵筆を握っている姿を見た時は、ちょっと引いたわ」
……とは、同じくアンジェの証言。普段は知的で物静かな美術館長は、芸術にパッションを炸裂させるタイプらしい。しかして、縦横無尽に飛びながら油絵具もピュンピュン飛ばされたのでは、掃除する方にとっては惨状以外の何物でもないだろう。
(お仕事は大変そうだけど……ふふ。アンジェも楽しそうで何より。それに、ナルシェラ様の事で変に付き纏われないのは、私もありがたいわぁ……)
彼女みたいに、ご令嬢達にも素敵な幼馴染がいれば王子様に固執する必要もないのだろうかと、ミアレットは思ってしまうものの。すぐさま、それだけではないのだろうなと新着通知を見つめながら思い直す。
(エルシャも言ってたわよね。モリリンさんのお家、落ちぶれているんだって)
きっと彼女には魔法学園在学中に、素敵な婚約者(つまりは金蔓)を見つける使命もあるのだろう。
もちろん、この世界にも一般的な学校はあるものの。貴族は魔力適性を持っているのが当たり前とされるゴラニアにおいて、普通の学校に通う貴族は落ちこぼれと見做されかねない。だからこそ、彼らは多少の無理をしてでもオフィーリア魔法学園の分校へやってくるのだし、本校登学へ向けて並々ならぬ野心を抱いている。
(折角、本校に来れるだけの実力があるのに……やってることが婚活だなんて。……なんだかなぁ)
だが、念願叶って本校登学のチャンスを得たのに婚約者ハンターに成り下がった彼女達を思うと、ミアレットは虚しさに駆られてしまう。いっその事、アンジェのように吹っ切れてしまえれば楽だろうに。どうして、魔法学園にまでやってきて婚約相手を漁らなければならないのだろう。今ひとつ、自身の恋愛事情にも乗り気になれないミアレットには、彼女達の迸る情熱はさっぱり分からない。
「ミアレット、ちょっとストップ。……面倒な事になりそうよ」
「へっ? どうして……って、あぁ……」
お嬢様達の情熱にミアレットが冷めた気分になっていると、アンジェが声を潜めて警告をしてくる。彼女がクイと顎をやる方を見やれば……そこには、モリリンの取り巻きと思しき女子生徒が待ち構えているではないか。
「周り道は……ないわよねぇ。この廊下、一本道だし」
「そうね、逃げ場はない……よね。はぁぁ……本当に仕方ないなぁ。今日もちょっと強気に行きますかぁ……」
「あぁ、それでいいかもね? あなたを言い負かすの、ちょっとやそっとじゃ無理だし」
キレキレモードのミアレットを知っているアンジェは、もうもう苦笑いしかできない。それなくとも、彼女もミアレットに言い負かされたクチである。アンジェもそれはそれは気が強い女の子ではあるが、心迷宮で毒気が抜けたせいか、ミアレットには負けると自覚していたりする。
(ここはミアレットの様子を見てから、加勢した方が良さそうね。相手は3人もいるけど、ミアレットは負けない気がするし……)
廊下の端と端とで交わる視線に、静かでありながら……確かに、何かのゴングが鳴った。そうしてターゲットを見つけたとばかりに、ツカツカとやってくるお嬢さん達の勇ましさが却って滑稽だと、ミアレットもアンジェも思ってしまうものの。この程度で屈すると思ったら大間違いだと、ミアレットはいつもの負けん気を発揮するべく、鼻息をフンスと弾ませるのだった。




