1−25 ギャップ萌え、いと尊しッ!
やっぱり、「奥の手」も刀なんだ。
マモンが呼び出した武器を見つめては、ミアレットはついつい、そんな事を考えてしまうが。しかし、霊樹相手に呼び出された刀は今までの二振りとは明らかに、醸し出される雰囲気が異なっており……妙な気品と威圧感とを、余す事なく振りまいている。
(……小生を呼んだか、小僧)
例に漏れず、呼ばれてやって来た「紫の刀」も喋るらしい。しかし……そんな「超常現象」にも悲しいかな、ミアレットはとうに慣れてしまった。
(うわっ、めっちゃいい声! ナニこの、渋〜いイケメンボイス⁉︎)
……そして、心の中で漏れた感想がこれである。
余韻も深い重厚なダンディボイスに、図らずともミアレットはワクワクしてしまうものの。しかし……どうも今回の刀は、マモンとの関係性も若干異なる様子。風切りと是光御前は、口調からしてもマモンを主人と認めている様子だったが。……新しくやってきた刀は、あろうことかマモンを「小僧」呼ばわりしては、やや偉そうな態度を示した。
「うん、呼んだ。毎度のことで、悪いんだが……カリホちゃん。ちっと、力を貸してくれないかな」
しかし、次に続く呼び名に心の中でズッコケるミアレット。紫の鞘から響いてくるのは、明らかに壮年ダンディな声なのに。……呼び名が「カリホちゃん」とは、これいかに。
(って……カリホちゃん⁇ えっ、今の声で“ちゃん付け”なの? ちょっと、色々と台無し……あっ、いやいや。これはこれで、アリだわ。ギャップ萌え、いと尊しッ!)
イケメンボイスは何事においても、正義である。おかしなギャップさえも「萌え要素」に変換されては、全面的に許されてしまう。
「で、今回のお相手なんだが……」
(皆まで言わずとも、分かっておる。小生を呼ぶとなると……どうせ、難敵か霊樹絡みの相手なのだろう?)
「そんなトコだな。今回はあいにくと、両方詰め合わせな感じかな〜。そんじゃ、ま。頼りにしてるぜ、カリホちゃん」
(フン……まぁ、いい。小生と貴公の仲ぞ、存分に使うがよかろう)
ミアレットが内心であらぬ方向にワクワクしているのを、知ってか知らずか。マモンがチャキっといい音をさせながら、「カリホちゃん」を抜刀する。そうして、彼が鋭く見据える先では……覚束ない「ハイハイ」状態だった霊樹ベビーが、一生懸命立ち上がろうとしている最中だった。
「……ところで、ミアちゃん」
「はっ、はい!(あ、イケボに浮かれている場合じゃなかったわ……!)」
急に声をかけられて、ちょっと上擦った返事になってしまったが。ミアレットの妙な反応も意に介さず、マモンが意外なことをお願いしてくる。
「瘴気は猛毒だぞ……って、説明した手前、こんなことをお願いするのも心苦しいんだが。……俺だけじゃ、エルシャちゃんを助けられないかも知れない。だから……ちょっと、お手伝いを頼んでいいかな?」
「えっと……私ができる事であれば、もちろんお手伝いしたいんですけど……」
「あぁ、別に危ない話じゃないよ。お願いってのは、他でもない。……ミアちゃんの声で、エルシャちゃんを呼んでやってほしいんだ」
「エルシャを……呼ぶ、ですか⁇」
予断なく霊樹ベビーを見据えながら、マモンが説明するところによると。エルシャの魂は今まさに、あの霊樹ベビーが抱えている可能性が高いそうだ。しかも、霊樹が人の形(エルシャに似ている姿)を取り始めている時点で、融和しつつある状態らしい。
「……だからこそ、エルシャちゃんはショートカットを作って、俺達を誘導してくれたんだろう。……魂を取り上げられそうになって、急いでくれと伝えてきたんだ」
「そうだったんですね……」
「おっと! しんみりと気落ちするのは、まだ早いぞ。どうも、思うように動けていないのを見る限り……エルシャちゃんが抵抗していて、魂の吸収に手間取っているんだろう。だから、俺がカリホちゃんと一緒に、あの霊樹の皮剥きをするから……ミアちゃんはエルシャちゃんの魂が迷子にならないよう、呼びかけてやってくれ」
「分かりました……エルシャを呼べばいいんですね!」
そのくらいだったら、いくらでもできる気がする。しかも……。
(小僧の言うことさえ聞いておれば、まずまず間違いはないだろう。ミアとやらも、励むが良いぞ)
「はい! 私……頑張ります!(キャァァァ⁉︎ イケボで呼ばれた! 励まされたッ⁉︎)」
ミアレットとしても、これは頑張るしかない。
「うっし! そいじゃ、サクッと行っちまいますかね。風切りはこれまで通り、居合のサポートを頼む。そんでもって、是光はミアちゃんの護衛だ。任せたぞ!」
(もちろんでおじゃる。ここぞ、正念場でおじゃるな)
(承知致しました。某も、異存ございませぬ)
カリホちゃんと風切りの鞘をそれぞれ、左腰付近に侍らせて。翼を広げ、マモンが霊樹ベビーへと突撃していく。そうされて、敵襲を鮮やかに感じ取ったのだろう。対するグラディウスの苗木も、まるで獣のように背中の樹皮を逆立たせて、鋭い枝を飛ばしてくるが……。
「あぁッ⁉︎ 一丁前に抵抗してんじゃねーぞ、この疫病神が! 大人しく、伐採させやがれ!」
二刀流になった大悪魔様に、小手先の飛び道具が通用するはずもなし。二振りの刃から大量の風刃を発生させては、枝を撃ち落とすと同時に、容赦なく本体も切り刻んでいく。そうして樹皮の切れ目から、1つポロリと光が漏れたが……。
(ミア殿、ミア殿! あれが魂の欠片でございます! さぁ、友の名を思いっきり呼ぶのです!)
「分かりました! エルシャッ! こっち、こっち! こっちに来てッ!」
是光に促され、ミアレットは懸命にエルシャを呼ぶ。すると、フヨフヨと所在なさげに浮かんでいた萌黄色の光が、まっすぐミアレットの方へ飛んできた。
(お見事! まずは1つ、確保ですな!)
「まずは1つ、ってことは……この調子で幾つか回収しないといけないって事ですか?」
(その通りでございます。この瘴気の中で大声を出すのも、大変かと存じますが……ここは辛抱してくだされ)
「大丈夫。このくらいなら……まだまだ、頑張れます」
いざとなったら、薬もあるし……と、ミアレットはポケットの上から焦茶色の瓶を確認し。無事に辿り着いた「魂の欠片」を手のひらでそっと迎え入れる。すると……。
(……うわっ⁉︎)
触れそうで、触れていない、僅かな温度を感じる程度の浮遊感。そんな魂を手のひらで包み込むと、何かのビジョンがミアレットの意識を駆け抜けていく。
“このままで、いいのかな?”
”お兄様みたいに、うまくできない……”
”でも、お父様も、お母様も、このままでいいって言っているし……”
”私は頑張らなくても、いいのかな?”
(……これはもしかして……)
エルシャの記憶の一端だろうか?
わずか数秒の内容ではあったが……それは、幼いエルシャがふと湧き上がった疑問を呑み込んでしまった光景だった。
【武具紹介】
・零式・酒呑刈穂(闇属性/攻撃力+288)
マモンが所持する魔法武器の1つ。通称・紫の陸奥刈穂、または「カリホちゃん」。
刀身は85センチほどで、打刀よりは大太刀に近い形態の武器である。
魔界の主人・ヨルムンガルドの角を媒体とし、クシヒメの巫女がうち「酒呑」の魂が封入されたことで、自我を持つに至った。
5振り存在する「ヨルムンガルドの刀」の中で最強を誇る。
通常使用における魔法効果に特筆すべき点はないが、ありとあらゆる武器の中でも「霊樹」を斬る事ができる、唯一無二の特性を持つ。
性能はシンプルな分、刀としての攻撃力は洗練されたものがある。




