6−1 大悪魔様は世話好き
変な奴(もう1人の転生者)に捕まりはしたが、約束の時間に間に合って、ほっと一息のミアレット。そうして、キョロキョロとあたりを見渡して……待ち合わせ場所のエントランスに、ディアメロ達がまだやってきていない事を確認する。
(私の方が先だったみたいね。……だったら、ここで待たせてもらいましょ)
午後の講義が終わった時刻となれば、エントランスは閑散としている。各分校から通ってくる者はとっくに帰路についているし、学生寮を利用している者はエントランスを経由せずとも自室に戻れるため、こちらに出向く事はあまりない。いつもなら待ち合わせで満員のソファも、空席が目立つ。
(ふぅ、間に合って良かった……)
難なく確保したソファに腰を沈め、ミアレットは魔術師帳に送信されているレジュメに目を落とす。
かの大悪魔様は世話好きな上に、資料を作るのも得意らしい。レジュメには3日間の講義内容が簡潔に示されており、「オサライ」と称して初日分の概要もきっちり用意されている。しかも、必要な知識の引用先もタップ1つで関連項目の補足まで表示されるのだから、至れり尽くせりである。
(うわぁ……。ここまで完璧なレジュメを作れたら、サラリーマンとしても一流だわぁ……)
イグノに会ったからというわけではないが。遠い昔の自分に、ついつい思いを馳せてしまうミアレット。生前はごくごく普通のOLであり、差し障りなく事務職に就いていたが。ただ漠然と資料作りをしていた事も思い出し、またも乾いた笑いを漏らす。
先程は身勝手な理由でチートを求めるイグノを、少し軽蔑していたものの。仕事があるだけマシだと思いつつも……人生に対しての頑張り加減は大して変わらなかった気がすると、改めて考えてしまう。
(でも……イグノが言っていたこと、妙に引っかかるのよね。彼の話だと、特定の日にアクションを起こせば転生できるって、唆した奴がいるみたいだし……)
ミアレットは運悪く、イグノに巻き込まれてしまったが。彼の弁明からするに、ミアレットも意図せず特定日時の転生条件を満たしてしまったのだろう。
(となると……この世界、どっかで日本と繋がっているのかしら?)
ミアレットが生きる「ゴラニア」と、生前にマイとして生きていた「日本」。全く無関係だと思っていたこの2つの世界には、「メールを出した奴がいるらしい」と明らかになった事で、何かしらの繋がりがありそうだとミアレットは唸る。もし、2つの世界がどこかで繋がっているのなら。……日本に帰れる可能性に、希望が見えてきた。
「ミアレット様。お待たせ致しまして、申し訳ございません」
ミアレットがこっそりと希望を新たにしていたところで、前方から涼やかな声が響く。そうして、魔術師帳(レジュメは結局、あまり読んでいないが)から視線を上げると、ディアメロを伴ったカテドナが向こうからやって来るところだった。
「あっ、ディアメロ様にカテドナさん! そんなに待っていないから、大丈夫ですよ。それはそうと……副学園長先生とのお話、終わったんですか?」
申し訳なさそうなカテドナに気さくに応じつつ、ミアレットは一旦は「こちらの世界」に集中しようと、思考を切り替える。少なくとも、日本への帰還はすぐに解決策が見つかる内容でもないし、彼女達には関係のないことである。
「まぁな。兄上の行方を追う事もそうだが、僕自身の魔力適性についても調べてもらえることになった。だから、明日も一緒に登学させてもらう」
「そうでしたか。であれば、明日からもよろしくお願いしますね」
「あぁ。こちらこそ、よろしくな」
学園特製の黒いローブを支給されて、ディアメロは心なしか、ちょっぴり誇らしげだ。ミアレットとお揃いの黒いローブは「ヨルムケープ」と呼ばれる、特別な魔法の外套である。オフィーリア魔法学園の制服の中でも、成績優秀者に与えられる最上級品と位置付けられているため、これを着ていれば……まずまず、上級生や先輩に絡まれる事もない。
(副学園長先生もなんだかんだで、世話好きなのかなぁ……)
魔力適性がないディアメロは本来であれば、魔法学園に足を踏み入れることさえできない。しかしながら、彼は全く魔力適性がないのではなく、人為的に魔力を封印されていたことも判明してきている。封印のメカニズム解明に燃えているアケーディアにしてみれば、ディアメロの登学を叶えるためにローブを与えるくらい、独断にすら含まれないのだろう。
(このローブ、軽い上に高性能なのよね。ディアメロ様にも着てもらった方が、安心できるわ)
きっと、アケーディアはディアメロにヨルムケープを着せることで「特待生」の立場を確保すると同時に、不慮の魔法攻撃からも守るつもりなのだ。魔力を封印されているディアメロは防御魔法は使えないし、魔法に対する対抗手段もなきに等しい。魔法学園での立場補強の面でも、王子様防衛の面でも。ディアメロにとって、ヨルムケープは二重の意味で必須アイテムになるに違いない。




