31、堕ちていく
夜が明けていた。
カーテン代わりの布の隙間から、薄曇りの朝の光が差し込んでいる。
雨は止んでいたが、湿った空気が小屋の中にまだ残っていた。
ミレイナは、まだ眠っていた。
俺の外套を身にまとったまま、小さく膨らむ寝息を立てている。
(……こんなに近くにいるのに)
触れられる距離にいながら、心はまだ、届いていない気がした。
抱いた。名前を呼ばれた。
あの夜、確かに彼女の熱を感じたはずなのに――
(それでも、まだ……どこか遠い)
――赦せていないのは、たぶん俺の方もだ。
過去の彼女を、すべて忘れたわけじゃない。
けれど、それでも。
今、目の前にいるミレイナに触れるたびに、確かに俺は――惹かれてしまっている。
(……もう、どうでもいいじゃないか)
過去も、理性も、赦しも、罰も。
そんなもの、何になる。
彼女を抱いたとき、確かに救われたのは――俺の方だった。
(……もう、堕ちてしまいたい)
楽になりたい。
君のことだけを考えて、他のすべてを手放してしまいたい。
だから――
(……もう、いっそ)
(一緒に、堕ちてしまおう、ミレイナ……)
そう思ったとき――
ミレイナの睫毛が、かすかに震えた。
柔らかな寝息が一度だけ揺らぎ、身体がぴくりと動いたかと思うと、
「……ん」
ゆっくりと、瞼が開かれていく。
***
……夜が明けた。
小屋の隙間から差し込む朝の光に、私はゆっくりと目を開ける。
隣では、ユリウスがすでに身支度を整えていた。
「……起きたか」
そう言って、彼は小さな包みを差し出してくる。
中には、固めのパンと干し肉。どうやら、小屋に備えられていた保存食らしい。
「少しは口にしておけ。……昨日から、何も食べてないだろう」
私は小さくうなずいて、それを受け取った。
(……体はまだ、熱を残している。
でも――心は、どこに置いても落ち着かなくて)
こちらお話が抜けていました、申し訳ありません。




