『忘却の都市』届かぬ思い
翌日、霧崎と一緒にJACに向かった。
この都市の適性検査を疑っている訳では無いが、もしかしたら、何か変わってるかもしれない——
そんな淡い期待を胸に、俺は案内された検査のポッドに入った。
結果は……変わらず。
まず、表示されたのは、接客業。
続いて派生の職業で施設案内スタッフ、都市案内人、受付業務など……昨日と同じ、どこか“無難”な職業ばかりだった。
その結果に俺は少し俯く。
俺がなりたかったのは——都市警備隊だった。
理由は単純だ。都市を守るって、何かカッコいいと思ったから。
制服を着て、街を巡回して、人々の安全を守る。それだけで、なんかヒーローみたいで。
……でも、それだけじゃない。
小さい頃、俺は親父の背中に憧れていた。
親父は警察官だった。
人々の暮らしを守り、事件を解決し、感謝される。
表彰状をもらって帰ってきた日の、あの誇らしげな顔。 俺は、あんなふうになりたかった。
けれど、親父は頑なだった。
「お前には向いてない」 そう言って、俺にまったく別の道を押しつけてきた。
父は一切、理由を説明してくれないため、昔、母に聞いたことがある。
母も詳しくは知らないらしいが、どうやら親父が過去に逮捕した人間に関係しているらしい。
「悠人には、この職業は向いていない」 そう言っていたと、母はぽつりと漏らした。
納得なんて、できるわけがなかった。
俺は意地になって、余計にその道を目指した。 でも——
こうして、都市の最先端システムに「向いてない」と言われると、さすがに認めざるを得なかった。
俺は、警備隊にはなれない。それが、現実だった。
少し残念な気持ちを抱えながら、俺は与えられた職業に向き合う覚悟を決めようとしていた。
……そのときだった。
霧崎がポッドから出てきて表示された職業を俺に告げた。
それは——警備業。つまり、都市警備隊。
一瞬、心がざわついた。 なんで、俺じゃなくて霧崎なんだ?
そんな感情が、喉の奥に引っかかる。
嫉妬……なのかもしれない。 別に、彼のことを嫌いになったわけじゃない。
でも心の中で嫌な気持ちが沸きあがってきてしまう。
霧崎は受付のスタッフに何かを尋ねていた。
けれど、俺の耳には入ってこなかった。 頭の中が、ぐるぐると回っていた。
深呼吸をひとつ。
気持ちを落ち着けて、霧崎に一声かけ、ともにJACの建物を出る。
外に出てから、霧崎と少しだけ話をした。
この時には、俺はもう、踏ん切りがついていた。
だから、代わりに——なんて言い方はおかしいけど、彼に伝えた。
「霧崎には都市警備隊になってほしい」
彼にとっては、迷惑だったかもしれない。でも、俺は本気だった。
霧崎なら、きっと立派な警備隊になれる。
会ってまだ二日目だが、なぜか、そう確信していた。
——自身が届かなかった思いの代わりに、俺は彼の背中を見送ることにした。




